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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/03/31 毎日新聞朝刊
[新教育の森]広島の民間人校長はなぜ自殺したか
 
◇不十分な支援策−−研修わずか2日/頼りの教頭も過労で倒れ…
 広島県尾道市立高須小学校の校長だった慶徳(けいとく)和宏さん(56)が、学校運営に悩み自殺した。慶徳さんは銀行員から転じた民間人校長で、教育現場の活性化などの期待を担って昨春、赴任した。しかし、補佐役の教頭が倒れるなどトラブルが相次ぎ、心労が重なっていたという。赴任後1年足らずの死は、民間人校長への研修や支援のあり方などの課題を浮き彫りにし、ほかの都道府県にも波紋を広げている。【山中尚登、横井信洋、和田崇】
 慶徳さんが自殺したのは今月9日午後。校内の非常階段で首をつっているのを保護者が発見した。「能力のないものが校長になり、たくさんの方々にご迷惑をおかけして申しわけありません」と遺書が残されていた。
 広島銀行東京支店の副支店長だった慶徳さんは、銀行での実績と温厚な人柄が評価され、昨年4月、広島県で2人目の小学校の民間人校長に就任した。「あいさつはすべての基本」という銀行員時代のモットーを実践し、登校してくる児童に声をかける「おはよう運動」を始めるなど意欲的だった。
 しかし、慣れない職場は教育改革のあおりで多忙を極めていた。尾道市では昨年4月から、教員は1週間の教育計画をまとめた「週案」を校長に出し、校長は見解を書き添えるなどして市教委に提出することになった。
 教員も校長も仕事が増え、5月には頼りにしていた教頭が過労で入院してしまう。この時、慶徳さんは尾道市教委を訪ね、「病院で情緒不安定と診断された」と休暇を願い出た。山崎建郎・教育長らは「バックアップするので頑張ってほしい」と励ました。
 10月には、学校で飼育していたウサギ17匹が棒でたたかれるなどして殺される事件が発生。安全を守るため児童を集団下校させるなどの対策に追われた。さらに今年2月には後任の教頭まで過労で倒れたため、新人校長に仕事が集中した。
 慶徳さんは毎朝午前7時に登校し、午後11時ごろまで学校運営計画や週案のまとめ、報告書作りなどに忙殺された。市教委の調査では、慶徳さんが休んだのは月平均3日。夏・冬休み期間も計12日しか休んでいない。
 ウサギ事件のころから疲労が目立つようになり、2人目の教頭が休職したころには「校長にならなければよかった。もう辞めたい」とPTA役員に漏らしていた。
 慶徳さんの死後、校長室の戸棚から、卒業式のために用意した式辞が発見された。「自分を大切にし、自分らしく生きてほしい。思いやりの心を持って人に接するように」。式辞は24日、式場で読み上げられた。
 
◇市教委、悩みくみ取れず
 広島県では99年、県立世羅高校の校長が卒業式前日に自殺している。卒業式で日の丸掲揚、君が代斉唱の徹底を求める県教委と反対する教職員の対立が深刻だったことから、この問題の犠牲になったとの見方もあった。
 しかし、今回は慶徳さんと教職員の間にどの程度のあつれきがあったか、はっきりしない。むしろ目立つのは、現場に不慣れな民間人校長をバックアップする態勢の貧しさである。
 民間人校長は、中央教育審議会の答申を受けた規則改正で、00年から採用可能になった。広島県教委は01年に3人、昨年も慶徳さんら3人、今年は1人を採用した。
 しかし、採用内定後の研修は2日間だけ。それも教育法規などの講義が中心で、他県で実施されている学校訪問など「現場を知る」プログラムはなかった。
 日立製作所出身で、01年4月に都立高島高校に赴任した内田睦夫校長は「慶徳さんは上意下達の企業文化と学校との落差にショックを受けたのではないか。私は就任前に25校を回って現場の実態を学んだ。研修が2日間とは短すぎる」と批判する。
 尾道市、広島県の両教委は、赴任後の新任校長の悩みも十分くみ取れなかった。
 尾道市教委は昨年5月、慶徳さんが休暇願を出した時、慰留して認めなかった。今年2月に2人目の教頭が休職した後、慶徳さんが「辞めたい」と漏らしていたことも保護者を通じて知っていたが、「教頭2人の入院に続き、校長まで辞めさせられない」(山崎教育長)と対応を躊躇(ちゅうちょ)した。新年度から自宅に近い広島市内の学校に転勤させることも検討していたが、結局、手遅れだった。
 「民間人の校長は(企業で)修羅場を経験しているので強いという印象があった。慶徳さんにもその点を期待していたのだが……」と尾道市の山崎教育長は言葉を濁す。
 臨床心理士の野田正人・立命館大教授は「小学校長は保護者、教職員、地域の人との付き合いが多く、人間関係を築くのが大変。力を発揮してもらうには、教育現場を熟知した副校長をサポート役に置くなどのバックアップが必要だ」と指摘する。
 
◇23都道府県で民間出身50人
 毎日新聞の調べでは、今年1月現在、民間人校長は23都道府県で50人が採用、または採用予定になっている。研修期間は自治体によってバラつきが大きいが、東京都では、現場を見て企業と違う実態を把握してもらうため、既設校に赴任する場合は半年、新設校の場合は1年半を事前の研修や準備に充てている。
 広島県は今回のケースについて「サポート態勢に反省すべき点があった」として25日、今年の採用者から研修を15日間に増やし、民間人校長の赴任校に複数の教頭を配置する改善策を発表した。ほかにも、教頭を2人にする(徳島県)▽配置から半年後に集まり課題を話し合うなど再研修の場を設ける(和歌山県)▽研修で他県の民間人校長を訪問しアドバイスを受ける(宮城県)――など、さまざまな支援策が実施、または予定されている。
 
◇民間人校長を採用している都道府県と研修期間(予定、検討含む)
     研修期間
北海道   3カ月
宮城   3カ月
山形   1カ月
福島   6カ月
埼玉   1カ月
東京   6カ月〜1年半
神奈川   6カ月
長野   1カ月
岐阜   1カ月
静岡   4カ月
愛知   6カ月
三重   1カ月
京都   3カ月
大阪   3カ月
奈良   19日
和歌山   10日
岡山   2カ月
広島   ※2日
香川   1カ月
徳島   2カ月
高知   1カ月
福岡   10カ月
沖縄   6カ月
(1月現在、※は後に15日に延長)


 
 
 
 
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