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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/09/23 毎日新聞朝刊
[ニュースキー2000]教育改革国民会議・中間報告 奉仕「義務化」は見送り
 
 小渕内閣から森内閣に引き継がれた「教育改革国民会議」(江崎玲於奈座長)の中間報告が公表された。中曽根内閣の「臨時教育審議会」が1980年代後半以降の日本の教育の方向を決めたように、この報告に盛り込まれた提言が21世紀初頭に実現する可能性は大きい。審議経過で反響を呼んだ「奉仕活動の義務化」については「小中高校で奉仕活動を行う」という表現にとどめた。「将来的には満18歳の国民すべてに義務づけることを検討する」と付記されたものの、7月の分科会報告のニュアンスは弱まり、義務化は事実上、見送られた。【平林壮郎、澤圭一郎、望月麻紀】
 
◇小中学校2週間、高校は1カ月
●奉仕活動
 <小中学校では2週間、高校では1カ月間、共同生活による奉仕活動を行う。将来的には満18歳のすべての国民に奉仕活動を義務づけることを検討する>
 このアイデアの原型は国民会議のメンバーの一人、作家の曽野綾子さんが7月に公表した「日本人へ」という文書に示された。曽野さんは「今までの教育は要求することに主力をおいたもの」だったが、「これからは与えられ、与えることの双方」を重視すべきであるとして、まず、小中高生を「農作業や森林の整備、高齢者介護などの人道的作業」に従事させ、試験期間の後、国民すべてに1年間の奉仕活動を義務づける、と主張した。
 曽野さんも参加する第1分科会は、小中高生はもちろん、「将来的には満18歳のすべての国民に1年間の共同生活による奉仕活動を義務づける」という分科会報告をまとめたが、このくだりが「強制労働」のイメージを呼び起こし、激しい議論の末、「義務」という言葉を削り、「すべての国民」への拡大は検討課題とすることで落ち着いた。
 文部省としては、2002年度から新学習指導要領に基づいて「総合的な学習」の時間を設け、ボランティア活動などの社会体験を取り入れようとしていただけに、奉仕活動そのものに対する抵抗はなかった。だが、小中高校は全国で4万校以上。児童・生徒数は1600万人近い。「共同生活による奉仕活動」を法律で義務づけ、寝起きを共にしながら、一斉に農作業や老人介護に取り組むとなると、施設や指導者の確保が追いつかず、現実的でない。
 この問題では、保守派で鳴らす自民党の村上正邦参院議員会長も「法律で縛るものではない」と批判、野中広務幹事長も「奉仕とは人の心の発露」と疑問を投げかけた。このため、政府側も「奉仕する心を養いたい」(森喜朗首相)「奉仕活動を充実させたい」(大島理森文相)と慎重に言葉を選んでおり、「義務化」は禁句となっている。
 文部省は、学校教育法などを改正して「奉仕活動の意義」を盛り込みたい考えだ。「総合的な学習」の時間を活用したり、学校週5日制移行(2002年度から)を見据え、土日曜や夏休みなどを充てる方法を探っているが、学校現場からは「奉仕の精神は義務化や強制したりすることで培えるとは思えない。まずは奉仕の機会を提供して、子供たちが自分で動き出すのを待つ方がいい」(愛知県内の中学校教師)といった声も出ている。
 
●企業に教育休暇制度導入
<企業は、年次有給休暇とは別に、教育休暇制度を導入する>
 教育を学校任せにしないよう、親の自覚を求める方策の一つとして、中間報告は企業にも協力を求めている。父母が学校行事やPTA活動に参加しやすくするため、新たな有給休暇制度を創設するというアイデアだ。
 父親の家庭教育への参加については、これまでも歴代文相が経済団体トップとの会合などで「ご協力を」と呼びかけてきた。
 育児・介護休暇制度の充実で昨年度、労相表彰を受けたベネッセコーポレーション(出版・印刷)の担当者は「職場の理解が進んでいるので、フレックス制度を利用して学校行事に参加する社員は多い」と語るが、こうした企業は少数派。大多数の企業では、学校行事への参加を理由に休暇をとるということは難しい。
 ただ、一方では、「総合的な学習」の導入に伴い、父母が講師として教壇に立つ機会も増えている。東京都教育委員会は「『教育休暇』というきちんとした制度を作って風穴を開けることは効果的だ」と期待を寄せている。
 
◇体制追いつかず
●大学暫定入学
<大学入学年齢制限を撤廃する>
 現在は、原則として18歳以上でなければ大学に入学できない。これを、義務教育さえ修了していれば入学できるように改める。最も若いケースで15歳の大学生が誕生することになる。
 97年の中央教育審議会答申で、数学と物理に限定したうえで「特異な才能の持ち主」は17歳からの入学が可能になった。しかし、現実には千葉大などが実施しているものの、広がる気配はない。その理由について、前千葉大学長の丸山工作・大学入試センター所長は「国立大は『独立行政法人』化問題などの対応で手いっぱいなのではないか。たとえ受け入れても、十分なケア体制ができない」と語る。
 丸山氏は制限の撤廃には賛成だが、「入学後、好きでない学科もしっかり勉強させるようなマンツーマンの体制が整うことが条件」と指摘した。東京都内のある私立高校の校長は「改革の理念は分かるが、高校の存在意義が否定されかねない。国民合意に時間もかかるだろう。新たな差別も生まれる恐れもある」と首をかしげる。
 数学、物理以外に分野が広がった場合、どのような基準で入学者を選ぶのか。大学は15歳の新入生を教える用意があるのか。「飛び入学」のための塾や予備校が現れ、競争が過熱しないか、という指摘もある。
 
●大学入学年齢
<一定の割合の受験生を暫定的に入学させ、1年間の成績によって合否を判断する「暫定入学制度」を実施できるようにする>
 ある程度の成績を取りながら入試に失敗した受験生を対象に、暫定入学を認め、1年間の勉強の結果で合否を決める制度だ。実際の大学教育に触れさせながら合格者を選ぶ、ある意味で「本当の適格者主義」の実現といえる。ただ、1年後の判定基準を明確に示し、単位の取りやすい、「楽勝科目」をなくす必要がある。1年間、学生として勉強していた「候補者」に教授は不合格を突き付けられるかどうか。正規合格の学生との摩擦が起きないような条件整備も必要だ。
 
◇首相、参院選へ布石−−基本法改正、なお執念
 森喜朗首相は今臨時国会の所信表明演説で、来年1月召集の通常国会を「教育改革国会」と位置づけてみせた。教育改革国民会議が22日、首相に提出した中間報告は、改革の具体的メニューを示したものだ。首相は、国民の間で関心が高い教育問題に切り込み、その成果をアピールしつつ、7月の参院選に打って出たいと考えているようだ。首相が「抜本的に見直す」と意欲を語っていた教育基本法の改正について、中間報告は「必要に応じて改正されてしかるべきだ」としたが、まずは「国民的議論を」という呼びかけにとどめた。奉仕活動の促進など具体的な制度改革は、関連法案が来年中に成立した場合、早ければ2002年春にも実現する。
 「それでいいのではないか。その手順でやってくれ」。国民会議の中間報告の骨格がほぼ固まった先月29日、森首相は、今後の教育改革の進め方を説明した大島理森文相に対し、了解のお墨付きを与えた。
 これを受け、文部省は(1)「20人程度学級」を実現するための教員定数の改善(2)適性を欠く教員の転職や免職(3)特別教育を含む問題児童対策(4)奉仕活動の充実(5)教育委員会の活性化――などを具体化するため、来年の通常国会に10本前後の改正案を出す準備に入った。
 だが、首相にとって、教育基本法の改正問題は誤算だった。7月末に公表された分科会報告には「改正が必要であるという意見が大勢を占めた」と記されていた。国民会議のメンバーの多くは「基本法改正問題で政治に利用されたくない」と考えており、「具体的な制度改革こそ重要」という声が強まった結果、中間報告では基本法改正志向はかなり薄められた。
 それでも首相は、中間報告を受け取った22日の全体会議のあいさつで「新しい時代に対応した抜本的な見直しが必要ではないか」と繰り返し、改正へ変わらぬ執念を見せた。
 戦後、基本法に基づいて教育行政を進めてきた文部省も改正に前向きだ。高齢化社会の進展に対応して同省が重視してきた「生涯学習」についての記述が、現行法にはない。教育予算の確保にプラスとなる「教育振興基本計画」の策定とセットで基本法を改正したいというのが同省の本音でもある。同省首脳は「政策を決めるのは国民会議ではない」と話す。
 21日の所信表明では、首相は基本法について、国民会議の最終報告を受け取った後、中央教育審議会(文相の諮問機関)で議論してほしいと呼びかけ、改正問題を政治日程に乗せる考えを明らかにした。基本法改正については、自民党内も一枚岩とはいえない。だが、賛否をめぐり、民主党内にはさらに大きな亀裂があるとみられ、首相には、参院選前に野党第1党を揺さぶっておこうという計算もあるようだ。
 
◇奉仕活動に「時代錯誤だ」−−日教組書記長
 日本教職員組合(日教組)の戸田恒美書記長は22日、教育改革国民会議の中間報告について、談話を発表した。奉仕活動について「軍国主義の戦前ならともかく、現代日本では時代錯誤の主張」と批判し、コミュニティー・スクールや大学入学年齢制限の撤廃についても疑問を投げ掛けている。一方、教育基本法については「法がめざす理念や内容がどこまで達成できたか」などの観点で議論することを求めている。
 
◇中間報告の骨子
▽教育の原点は家庭であることを自覚する
▽学校は道徳を教えることをためらわない
▽企業は教育休暇制度を導入する
▽奉仕活動を全員が行う
▽問題を起こす子どもへの教育をあいまいにしない
▽有害情報から子どもを守る
▽大学入学年齢制限を撤廃
▽大学暫定入学制度を導入
▽教師の意欲や努力が報われる体制を作る
▽教育施策の総合的推進のための教育振興基本計画を策定する
▽教育基本法は必要に応じて改正。国民的議論を


 
 
 
 
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