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1999/11/20 毎日新聞朝刊
[新教育の森]キーワードの軌跡 今週のテーマは・・・「男女共学」
 
◇「平等」推進か「伝統」尊重か−−政治問題にも発展
◇福島で異議唱える「名門校」OB
 男女共学は戦後教育改革の主要な柱であり、これを疑う議論は今はまずない。だが、地域によってはなおあつれきや抵抗がある。福島県で、全県立高校の男女共学化を進める県教育委員会と、これに反対し男女別教育(別学)の継続を求める「名門校」の同窓会の対立が続いている。10月には同窓会側が「共学化実施の変更を求める」請願を県議会に提出し、本会議で不採択となったが、OB県議らが採決の際、退場して抗議する事態になった。戦後半世紀以上を経て、今なお「共学に異議あり」の声が出るのはなぜか。背景には同総会人脈で形成された地域社会の「秩序」や「既得権」もあるようだ。【中西拓司】
 
■「頂点校」OBの動揺
 面積が広い福島県は、福島、郡山、いわき、会津若松の4市が各地域の中核。それに応じ、福島、福島女子、安積(郡山)、安積女子(同)、磐城、磐城女子、会津、会津女子の県立男子校、女子校各4校が各地域の「頂点校」と位置付けられてきた。
 このため、県教委が1993年6月、「男女平等の推進」として94年度から10年間で計23の別学校をすべて共学化する計画を打ち出した時は、とりわけこの8校同窓生に衝撃を与えた。
 「画一的に共学化することに疑問と異議があり、再考を求める」。今年7月1日、県庁で杉原陸夫・県教育長に面会した磐城、磐城女子、安積、安積女子の4校同窓会幹部らはこう申し入れた。県立高校の同窓会が県教委の方針に異議を唱えるのは極めて異例だった。
 県教委はこの段階で、別学校11校を既に共学化していた。計画では、この4校は2001年度、会津、会津女子は02年度、福島、福島女子は03年度に共学化される。4校の申し入れは「共学化」の波がいよいよ身近に迫ったために起こした反対行動だった。
 県教委など共学派は「男女共学は時代の流れ。男女を分けることは、男尊女卑につながる」と理解を求めているが、同窓会側は「共学化による画一的平等主義が学力の低下を招き、教育の荒廃をもたらす」と反論、応じる気配を見せていない。
 
■選挙にも投影
 福島では、こうした「名門校」出身者の結束と影響力がきわめて強い。
 佐藤栄佐久知事(安積高)をはじめ県幹部の大半は、こうした「名門校」の出身。県庁内では「あの人は○○高だ」と、出身大学より出身高校が「識別」の基準になる。ある市では「市役所の宴会の最後は××高の校歌が歌われる。その他の高校出身者はその前に退席する」ともいわれる。地元企業の役員も「名門校」出身者が多い。
 また、出身者が選挙に立候補した場合、その同窓会が中心になって集票活動を担う。ある選挙に2人の出身者が出馬しようとした際、「同窓会が分裂する」という理由で1人に絞り込む動きもあったほどだ。
 ある「名門校」の同窓会幹部は、8校を「基幹校」と呼ぶ。「基幹」とは辞書によれば「物事を成り立たせている中心」。「地域を支えてきたのは自分たちだ」という強い自負がこの言葉に込められている。
 共学化問題が「政治問題」に発展したのが、先月14日の県議会本会議。安積、磐城、磐城女子の3校同窓会が提出した「共学化実施の変更を求める」請願が採決される際、自民などの6議員が議場を立ち去った。このうち5議員は請願の紹介者。県議会の全会派が「共学化賛成」の立場を取っているため、請願に賛成はできず、退場することで抗議の意思と、出身同窓会への「忠義立て」をアピールしたのだった。
 安積の同窓会「桑野会」会長の今泉正顕・福島中央テレビ最高顧問は「県議が退場した理由には、彼らが選挙で同窓会に支えられている面もある。しかし、県議も共学化の弊害について勉強しており、知識を付けてきた」と話す。同会は今後、各県議への働きかけを強める方針だ。
 
■「学力」論争
 各同窓会が挙げる反対理由の一つに「学力の低下」がある。4校が県教委に提出した申し入れ書の中にも「昨年度のセンター試験の成績で、福島県の高校は北海道・東北のベスト10に入っておらず、県内にある大学への進学率も落ち込んでいる」と「弊害」を訴えている。
 さらに、「平等で画一的な教育をしてきた」戦後教育に対する不満がある。今泉会長は「県内には強烈な個性と実力を持った私学高校が少なく、名門校がそれに代わって地域独自の教育を支えてきた。画一的平等至上主義では暴力や不登校など教育の荒廃をもたらす。全県すべて同じ高校にすれば個性のない『金太郎アメ』のような子供たちが育ってしまう」と強調する。
 これに対し、庄司他人男(たにお)・福島大教育学部教授(教育方法)は「男女が一緒に生活するということは人間の基本的な問題。個性化など教育上の問題と同等に議論すべきではない。また、学力が下がるという反対派の言い分は根拠がなく、むしろ逆だ」と言う。
 それを裏付ける資料がある。県教委によると、早い段階で共学化した6県立高校の昨年度の大学進学率は42・2%で、共学前(93年度)と比べると、県平均のほぼ2倍に当たる9・4ポイントも上がったという。
 県教委の富田孝志・高校教育課長は「男女が切磋琢磨(せっさたくま)することで、学力面での効果が表れている。さらに女子が元男子校の生徒会長になったり、スポーツ面でも躍進がみられる」と、同窓会側に反論する。
 
■生徒は「歓迎」
 当事者の今の高校生は、この論争をどうみているのか。民間の「郡山女性問題研究会」(根本華枝会長)が今年6月、「名門校」の生徒を含む高校生370人を対象に行ったアンケート調査では、「共学がよい」との回答は57・0%で、「どちらとも言えない」(30・3%)、「別学がよい」(11・9%)を大きく引き離した。「よい」と答えた理由では「刺激になる」(24人)「高校生活だけ男女で分けるのは不自然」(15人)などが多く、生徒たちは共学を歓迎している。
 庄司教授は「高齢の卒業生ほど共学反対が多い。伝統が途切れたり、女子校だけが校名変更を迫られることは彼らに大きな苦痛を強いるが、現代は別学校の創立時とは社会が大きく変化している。そこで生きる後輩のために、その痛みをいつかは克服しなければならない」と話す。
 そして、庄司教授は「共学化は、基幹校が培ってきた既存の権力構造を打ち破るのではないか」と指摘した。
 
○…メモ…○
 教育における男女平等については、戦後の1947年3月に公布された「学校教育法」で触れられている。同法は6・3・3制の実施などとともに、教育の機会均等の実現を掲げ、特に男女による差別を排した。また、旧制中学校からの転換が主だった新制高等学校では、旧制中学校間にあった格差を是正し、小・中学校とともに地域学校化によって教育の普及を図ろうと、「男女共学制」「学区制」「総合制」の3原則が掲げられた。
 しかし、47年に出された「新学校制度実施準備の案内」などには、男子も女子も教育上は機会均等であるという新制度の根本原則を踏まえた上で、「地方の実情や地域の教育的意見を尊重して決定すべきだ」とも記されている。実際、50年ごろから地方の実情や高等学校の発展に対処するために、3原則を是正する学校も出てきた。
 現在、文部省高等学校課は「共学は尊重されるべきだが、都道府県などが地域状況や学校の伝統を考慮して適切に判断すべきもの」としている。
 男子・女子校数の統計はないが、それに類するものとして、学校基本調査の中に在学中の生徒状況によって共学校、男子のみの学校、女子のみの学校を分類した「男女別学校数」がある。それによると、60年度の男子のみの学校と女子のみの学校の割合は、それぞれ11.5%と18.2%だった。これが98年度には4.4%と10.5%となっている。この10年ほどは高校数は横ばいだが、共学校が増えて男子・女子校はかなり減少している。
 文部省は「少子化に備え、各校が特色を出そうと学科改組で総合学科などを新設する際、男女を募集したり、水産科などにも女子が進むことで共学化が進んでいるようだ」とみている。【斎藤毅】
 
◆記者ノート
◇“高校歴社会”との決別を
 福島県の県立高校共学化問題を取材していると、大阪府出身の「よそ者記者」は首をひねることが多い。
 まず、各「名門校」同窓会の主張。「応援歌に『ますらお』(りりしい男)という歌詞が出てくるが、これをカットしなければならなくなる」(安積高)▽「男子校は共学化後も同じ校名を使えるのに、女子校は変更しなければならない」(安積女子高)▽「2004年度にせっかく創立100周年を迎えるのに、その前に共学化するなんて」(磐城女子高)――。
 共学に賛成している「名門校」出身の県議は、同窓会のこうした反対理由を「単なるノスタルジアだ」と断じる。同窓会側の心情は分からなくもないが、「伝統」にこだわり過ぎではないか。反対派は「共学化が生徒の個性をなくし、画一的な生徒を生む」と言うが、これもよく分からない。個性を発揮する分野は、勉強、芸術、スポーツとさまざまで、共学か否かは「個性」とは結び付かないと思う。
 別学校出身者が地元の「顔役」を担い、生徒は大学に行くために進学校の別学校に入学しなければならなかった。しかし、高校名で自分や他人を判断する“高校歴社会”とは決別し、共学化してこれまでの「枠組み」を一度、取り除いてみてはどうか。大阪では公立と多くの個性的な私立の高校が入り乱れ、雑然とした活気があった。
 旧制中学は戦後、占領軍政策によって一斉に共学化されたはずだった。福島県も2000年代を前にそろそろ「変革期」を迎えてもいいのではないか。
 


 
 
 
 
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