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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999/10/09 毎日新聞朝刊
[新教育の森]キーワードの軌跡 今週のテーマは・・・「学校改革」
 
◇見方変え、幅広く 独創的人材の育成求め
 1990年代の教育論議の特色の一つは、経済界から学校改革提言が次々に出ていることだ。明治以来、一斉・均質を原理とした学校教育制度は水準の高い労働力を生み、高度経済成長を支えたといわれる。しかし、一方で独創的人材の不足が指摘されるようになり、原因を硬直化した学校制度に求める声が強くなった。経済の規制緩和論や競争原理を教育改革に援用するのは問題という反論もあるが、経済界からの相次ぐ提起は、政府が進めようとしている改革政策に投影する可能性が高い。財団法人「社会経済生産性本部」(亀井正夫会長)が最終報告書を公表した改革プラン「選択・責任・連帯の教育改革〜学校の機能回復をめざして」から、その“学校再生設計図”をみる。【澤圭一郎】
 
◇相次ぐ経済界からの提言
◇社会経済生産性本部のプラン
■生徒の側が学校を選ぶ
 提言は、同本部の「社会政策特別委員会」(委員長・堤清二セゾン文化財団理事長)が2年がかりでまとめた。
 主眼は「学校の機能回復」。小、中学校の改革として「学区制の廃止」を唱える。学区を取り払うことで子供は「行きたくて行く学校」という自覚が生まれ、学校も親や子供の要求に応えるために努力をする、という論法だ。この提言を受けるかのように、9月末には東京都品川区でブロック内での小学校選択自由化が決まり、来年4月から実施されることになった。
 提言では、入学の半年前に学校が説明会を開き、申し込みを受け付け、調整期間をおいて申し込まなかった親や決めかねている親の子を各学校に割り振るとしている。不人気校は校長を交代させるなど教育の根本的な対策をとる。生徒の転校も自由にできるようにする。
 これを実施するために重要になるのが「学校の経営権を全面的に校長に任せること」と指摘する。校長が教育方針を示し、予算も掌握。教員をスカウトして教育に当たる。効果が上がらなければ交代し、問題がある教師、期待に応えられない教師は解任される。
 
■親や地域がチェック
 校長に権限を持たせる代わりに親が校長をチェックする。在校生の親や地域の住民らによる「学校理事会」を設ける。理事会は校長を決め、任期が経過したら続投か交代かも決める。メンバーは選挙で選ぶ。また、教育目標が達成されたかどうかは、親の意見や子供の到達度をはかる外部テスト、教育専門家の実地調査――などで調べる。
 教師は年俸制にし、その専門性の高さを十分に評価し待遇を引き上げる。また「教員派遣機構」を作り、教師はそこに所属。派遣機構から各学校に採用されるシステムにする。学校を解任されても派遣機構に戻る形で、身分と基本給の保障はする。
 教育内容の改革も大胆だ。まず生徒の成績は「相対評価」から「絶対評価」にする。同級生の成績が悪ければ自分が良くなるという関係では、生徒の連帯が生まれない。いじめの原因にもなる。絶対評価によって、他人とは関係なく成績は個人の問題になる。その評価方法も外部の到達度テストを使う。教師の教え方も同時に調べられる。クラス編成も自由にし、目的や科目、学年も取り払うなど学校ごとに決定するようにする。と同時に一斉授業を前提としたカリキュラムをやめ、一人一人の生徒に合わせたものを導入する。
 
■高卒資格試験の導入
 高校も当然改革の対象になる。まず、無試験で入れるようにする。その際は中学校の成績や到達度テスト、志望動機の作文などの書類選考にする。
 入学後は、高卒の学力を認定する「高校学力検定試験(高検)」を実施する。少なくとも年に6回は行い、基本的な問題に限定する。何回でも挑戦できるようにもする。これをパスすれば高校卒業資格となるため、どの高校を出たかは問題にならない。高校独自の教育プランや校風、課外活動などで、中学生は高校を選ぶようになり、受験は廃止できるとみる。
 大学も、今までのような入試をなくす。できるだけ門戸を広げ、キックアウト制(入学者のうち成績が基準に満たないものを留年・退学させる制度)を導入する。一部の著名大学に殺到するとしても、卒業できなければ意味がない。また、奨学金制度を充実させる。大学ごとに成績優秀者は学費を全額免除するなどすれば、さらに志望校は分散するという。
 
◇提言をまとめた橋爪東京工大教授−−「実行すれば、必ずうまくいく」
 今回の提言を取りまとめた橋爪大三郎・東京工業大教授(社会学専攻)=写真=に聞いた。
 ――この提言の基本的な考え方は?
 ◆四つある。第一に問題の本質に届くものであること。教育の困っているところを良くすることが大切だ。第二に実行が可能なこと。皆が理解してくれれば十分取り組める。第三に幼稚園から大学・大学院までの体系的な提言であること。部分的では意味がない。第四に学校に「元気をだしてもらう」こと。生徒も先生も元気になれば、学校本来の機能が取り戻せる。
 
 ――これでうまくいくのか。
 ◆皆が幸せになろうと努力するなら、うまくいくと思う。子供も必要があれば勉強する。塾や留学で生き生きしている子供や学生の姿がそれを示していると思う。実行できれば必ず良くなる。
 
 ――今の学校はそんなに問題なのか?
 ◆子供に我慢を強いる教育になっている。「学校に行きたい」ではなく「学校に行かされている」という感覚だ。結局、我慢して受験などを通り抜けても、標準的な大人になるだけだ。だったらその圧力を取り除けばいい。
 
 ――教師の改革も提言しているが。
 ◆プロ意識に欠けている先生が多い。今の制度で埋もれている良い先生を引き出すことも重要だ。目標がはっきりすれば力を出す教師もいる。
 
 ――すべてを一度に実行するのは難しいのではないか。
 ◆教育を全体で見直さないと意味がない。部分的に実行したのでは10〜20%の効果しかない。
 
 ――反響は。
 昨年の中間まとめも市民から大きな反響があった。それらを委員で回覧し、今回の最終報告にも盛り込まれている。各政党に説明する機会もあり、国会議員に「議員立法してもらおう」という意見もあったが、まだ時期が早いと思う。文部省や各地の教育委員会なども関心を示している。
 
○…メモ…○
 今回の提言は堤委員長をはじめ佐和隆光・京都大経済研究所教授や河野栄子・リクルート社長、河野俊二・東京海上火災保険会長、山本幸助・トヨタ自動車副社長ら財界や学識経験者、労働組合幹部など25人の幅広い人材で構成され、議論が交わされた。
 経済界が学校改革を提言することは珍しいことではない。社団法人「経済同友会」が1995年に発表した学校改革提言「学校から合校(がっこう)へ」も記憶に新しい。
 この提言では、小、中学校の改革を中心に置いた。学校を基礎・基本を学ぶ場としての核とし、芸術や科学などを自由に選択できる「自由教室」、子供たちが生活する地域に根差し、職業体験や高齢者との触れ合いをする「体験教室」とのネットワーク「合校」を作る。さらに企業ができることとして、社員の講師派遣、会社での体験学習、子供がいる親の単身赴任回避――も盛り込まれている。学校のスリム化を掲げ、個性を生かす教育を求めるなどの点は今回の改革案と共通する。
 このほか経済団体連合会(経団連)や日本経営者団体連盟(日経連)も、大学改革、校内暴力、中高一貫教育、父親らの家庭教育参加推進や企業からの人材支援などの改革実行案を提示している。
 社会経済生産性本部の石川一雄研究主幹は「教育問題をこんなふうに考えることもできるということが国民に浸透することを期待したい」という。
 文部省政策課の寺脇研課長は「学校と教育全体を網羅しており、重量感がある提言。学区廃止や高検など、部分的に疑問はあるが、文部省の考える改革と理念は同じ。国民の過半数が『これがいい』となれば文部省も当然実行することになるだろう」と言う。
 
◇記者ノート
◆家庭抜きに解決は困難
 橋爪教授にインタビューした時「性善説に傾いていないか」と聞いた。学区の廃止やクラス編成の自由化、生徒に合わせたカリキュラムなどを実施すれば、「子供たちは楽しく生き生きと学校生活を送れる」という発想にやや疑問を抱いたからだ。
 報告書は「学校の学力は充実した人生を送るさまざまな方法があるなかの一つ。しかし、それは学校でしか身に着けられない。そう子供が理解すれば、知識に対する意欲がふつふつとわいてくるのではないか」という。もっとも、今は学校での学力が極めて大きな物差しになっているのは事実だから、その意識が変われば状況は大きく変わるかもしれない。
 ただ、今の子供たちを見ていると、皆が果たして知識欲がわいてくる生き生きした子になるだろうかと思うのだ。学校を変えるだけでなく、彼らが生まれた時からの“何か”を意識して変えていかないと、どうもうまくいかない気がする。細かいことを言えば、おもちゃの与え方もそうだろうし、遊び、しつけも当然だ。食事の内容も大きいだろう。学校に入る以前の「育て」がその後に大きく影響する。学校だけが彼らを押しつぶしているとは思えない。
 提言では、親の学校へのかかわりについても書かれているが、具体的な家庭内教育については「別途の提言が必要」という。
 「子供は皆『良くなろう』としている。そうでなければ日本社会はおしまいですよ」。橋爪教授はそう話した。私もそう思うし、そうでなければ希望がない。


 
 
 
 
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