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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999/03/06 毎日新聞朝刊
[新教育の森]キーワードの軌跡 今週のテーマは・・・学校図書館 受験教育、問い直し
 
◇「自ら学ぶ」力育てる場
 「学校図書館は学校の心臓部となるべきである」。戦後の第2次米国教育使節団(1950年)の報告書に出てくる言葉だ。それから半世紀たった今、やっと学校図書館の役割が日本の学校教育の中で正当に位置づけられようとしている。「教え込む教育」から「子どもたち自ら学ぶ教育」へと教育改革が進む中で、学校図書館は現行の教育のあり方を問い直し、学校に新しい「いのち」を吹き込み、生き生きとした“鼓動”をよみがえらせるものになるかもしれない。千葉県市川市の学校図書館の試みを紹介する。【池田知隆】
 
◇授業中も出入り可能
 「鉱毒と闘い、天皇に直訴状を書いた田中正造の粘り強さに感動した」
 「でも、富国強兵を進め、銅の生産を急いだ政府の立場も理解できる」
 「正造と宮沢賢治では、農民として生きたいと願いながらも、感情の表し方が対極だ」
 子どもたちの発言が次々と続いた。先月17日、市川市立八幡小学校で開かれた公開学習研究会でのこと。6年2組の国語の授業で、年間テーマは「田中正造の生き方を考えよう」(年間13時間)。この日は図書館を会場にして、いつもより長い75分間のグループ読みの時間だ。「正造と農民」「正造と明治政府」「正造の子どものころ」「正造と宮沢賢治」のグループに分かれ、それぞれが作成した新聞を手に熱心に語り合った。
 「みんな本当によく調べ、自分の言葉で語ろうとしていた。5年生で取り上げた宮沢賢治も深く理解し、成長ぶりにすっかり感心しました」と、学校司書、高桑弥須子さんはうれしそうだ。1年1組は今春入学予定の近くの幼稚園児を招き、1年生がすっかり兄さん気取りで民話「大きなかぶ」を語りかけていた。ここでは学校全体で「図書館」を活用した教育に取り組んでいる。
 「国語の1時間を図書の時間に充てています。それは、そのクラスが図書室を優先的に利用できるだけで、他のクラスの児童も出入りし、邪魔にならないように使えます。必要に応じて子どもたちは授業中も、教室から図書室へと自由に行き来していますよ」
 教室は子どもを閉じ込める場ではなく、図書館への通路をいつでも開いている。
 
◇学校を支えるネットワーク
 「とにかく司書を便利に使ってください、と先生のところに『御用聞き』に回っています。学習の方向や流れを先生と一緒に考えたりすることはあるけど、もっぱらサービスに徹しています」。高桑さんは、授業に必要な資料を公共図書館や他の学校からどんどん取り寄せている。
 市川市には「調べ」学習や読書活動を進めるために「図書資料相互利用システム」がある。全小中学校の学校図書館に司書・読書相談員を配置し、公共図書館2館を起点に各学校の間を配送車が週2回巡回している。希望資料などをファクスで依頼すれば、次々と配送され、多いときには40人の授業に300冊も集まってくる。10年前からこのネットワークづくりに取り組んできた市教育センターの石原孝一さんは言う。
 「参加校全体で大きな一つの図書館を形成し、各学校と公共図書館が市内全部の子どもたちに対応した“開かれた図書館”になってきましたよ」
 その背景には、35年以上にわたって読書教育、図書館教育を学校や家庭、地域ではぐくんできた歴史がある。1994年11月に開館した市中央図書館は100万冊所蔵可能な広々としたスペースがあり、市民への貸出冊数は無制限だ。学校図書館を支援するために6人の児童サービス員も配置している。図書館づくりのために日本図書館協会から招かれた小川俊彦・同市生涯学習センター所長は言う。
 「これまで図書館=受験生のための自習室とのイメージで受け止められていたが、公共図書館は受験のためにあるのではない。それを『楽しむ所、調べる所』という見方に変えるには、学校図書館を変え、子どもたちに親しんでもらうことから始めないといけない。子どもたちにいいサービスをすることが生涯にわたっての図書館利用につながっていくし、学校教育そのもののあり方も変わっていくかもしれません」
 生涯学習という長い視野で見ると、学校教育が担うのはその一部にすぎない。「調べ」学習を進める図書館教育は、受験体制に風穴を開けるものだ。
 
◇正面に配置、地域にも開放
 来月、市内最後といわれる妙典小学校が開校する。その設計図を示しながら、石原さんはうれしそうに語りだした。
 「どうです。ここでは図書館を学校の正面に置いていますよ。これまで図書館といえば、校内の隅にありましたよね」
 新年度には小中学校56校全校がネットワークに参加し、妙典小の学校図書館は「21世紀のあるべき姿」を表したものだ。図書館(学習・情報センター)のある特別学習棟は子どもたちが登下校の際に必ず通る正面玄関横に配置され、「コンピュータースペース」(1・5教室分)、図書以外の資料を利用する「メディアスペース」(1・5教室分)、「図書スペース」(1教室分、1万5000冊分の書架)、「読書スペース」(1・5教室分)を確保している。このほか学年を超えた交流の場として自由に語らってくつろげるセンターホール(3教室分)もある。
 「子どもたちは下校の際、気軽に本などに触れることができる。本を他の図書館から配送してくる人にとっても楽になる。さらに地域の人々に開放し、ボランティアなどによる応援も受けやすくなりますよ」
 図書館を学校の中心に置くことで、教科の枠や、学級、学年の壁を超えた子どもたちの交流が広がっていく。さらに学校図書館を地域に開放することで、学校と地域との風通しがよくなるかもしれない。従来の学校システムを変えていく確かな道がここにはありそうだ。
 
◇記者ノート−−“情報源”以上の楽しさを
 校舎の片隅にあった図書館にはいつもカギがかかっていた。貸出係のいない暗い書庫で、小学生のとき、学校から本を借りた思い出はない。私にとっての図書館といえば、廃品回収業をしていた友だちの家のトタンぶき倉庫だった。
 新聞、金属、空きびんなどが仕分けされ、その一角に古いマンガや雑誌などをうずたかく積んだ山があった。広さは十数畳、高さは1〜2メートル。遊び疲れたときや、雨の日にはそこに座り込み、山を崩したり、穴を掘って表紙の破れた雑誌を読みあさった。本のじゅうたんに乗った孫悟空みたいに自由自在にかけめぐり、その下から未知の世界が次々と現れた。
 「こんなこと、知っている?」。いつしか友だちにそう言いたくてたまらない気持ちになり、学級新聞づくりに熱中した。そのことで新聞記者の今があるのかもしれない。
 学校図書館の歴史を振り返り、小学生のころの貧しさを改めて思いおこした。図書館を活用しようにも、書棚にはわずかな本しかなかった。その後、経済成長で受験競争に拍車がかかり、総合的な学習どころか「詰め込み」教育が広がった。生涯学習社会になったいま、戦後教育の一つの柱だった学校図書館教育は再びスタートラインに立たされている。
 取材した市川市の学校図書館の活動や「調べ」学習の実践には目を見張り、子どもたちの素晴らしい発表能力に感心した。だが、全国的にみると、「『調べ』学習への対応」という名目で、環境問題などを見開きで簡単に図解した本や教材があふれている。調べることに労力を要しなくてすむ「調べ学習」、という皮肉な動きもある。それでは「調べ」学習は活発になっても、単なる「知識のはめ込み」学習になりかねない。
 学校司書の高桑さんは「学校図書館を単なる教材資料室にしたくはない」と語っていた。「低学年の子にとって、温かみのある言葉を受け取り、話を聞くのが面白いと思えるような体験ができる場にしたい。子どもたちのとんでもない発想に応えるには、雑多性、カオス(混とん)の世界が必要ではないかしら」
 本は情報源だけど、それだけではない。パソコン操作はもとより、古本めぐりや物語の楽しさも子どもたちに伝えたい。学校図書館を、学習・情報センターだけでなく、本の世界を楽しむ場にしてほしい。
 
◇メモ
 制度としての学校図書館は、戦後来日した第1次米国教育使節団の報告書を受け発足した。文部省は1948年に「学校図書館の手引き」を発行し、49年に文部大臣の諮問機関、学校図書館協議会が「学校図書館基準」を答申した。
 それはまた、戦後「自らの社会体験のなかから課題を発見し、追求し、解決していく過程で、社会の進歩、発展に寄与できる能力や態度を」と新設された社会科の理念とも重なる。社会科をコア(中心)に社会の仕組みを教え、理解に必要な国語や算数、理科などを周辺に並べて総合的に学習する「コア・カリキュラム」運動が生まれた。
 「学校図書館がなければ、社会科などの授業ができない」という訴えが教育関係者、生活綴(つづ)り方教育や児童文化運動をしている人の間で広がり、53年に学校図書館法が制定された。しかし「当分の間、司書教諭は置かないことができる」となり、多くの学校で「人」が配置されないままだった。
 また総合学習などは準備の資料や時間を必要とし、「はいずり回るような社会科の授業では基礎学力に欠く」との批判も出た。受験競争激化の中で総合学習は下火に。図書館はカギのかかった書庫と化し、進学体制は図書館を必要としない教育を進めた。
 だが、時は流れ、「学力」の見方も変わった。2002年度からの新学習指導要領による「総合的な学習」の導入で、体験的、問題解決型の学習が展開される。その中心的な学習スペースとして図書館の役割が見直され、整備、充実が大きな課題になってきた。これまで「学校図書館整備新5カ年計画」(92〜97年度)で総額500億円、98年度は単年度で100億円が地方交付税で措置された。
 岡山市などに続き独自に学校司書を配置する自治体も増え、97年6月、学校図書館法が改正され、2003年度までに司書教諭の配置(11学級以下の小規模校を除く)が決まった。しかし、「司書教諭が専任化されていない」「11学級以下の小規模校は全国の半数近い」と法改正の不十分さを指摘する声も高まり、鳥取県などは小規模学校にも司書教諭の全校配置を打ち出している。


 
 
 
 
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