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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1996/06/28 毎日新聞朝刊
[特集]教科書検定 来春の中学校社会科教科書、こう変わる(その1)
 
◇「政府見解」色濃く反映
◇戦後補償問題など「削る」から「書かせる」へ
 来春から中学校の教室に登場する教科書は、どんなチェックを受けたのか。27日公表された検定結果をみると、社会科では相変わらず「政府見解」に沿った記述修正が目立ち、学習指導要領の「逸脱」に文部省が神経をとがらせている様子が表れている。また出版社側も、現行の「一発検定」システムで、不合格を恐れ、検定意見に素直に応じる傾向も垣間見える。数学で解答のプロセスを重視するなど「考えさせる」ことに重点を置いた教科書改革は進んではいるが、全般になお「お仕着せ」色を濃く残している。
 
★本質見失うな
 橋本竜太郎首相は先の訪韓時の会見で、日本の過去の植民地支配を十分に教育の場で教えられなかったと語っていたが、今回の検定では、「従軍慰安婦」の記述が歴史の教科書7社すべてに登場。1993年に当時の細川護煕首相が従軍慰安婦問題で公式に謝罪したことに反応したためとみられ、強制連行に絡めて「従軍慰安婦として強制的に戦場に送りだされた若い女性も多数いた」などの記述もある。ほかの公民、地理でも6点が取り上げた。前回検定では、戦後補償問題を取り上げた教科書はなかった。
 しかし、政府見解に固執する面も見逃せない。戦後補償に絡む扱いでは、「国家間の賠償は解決済み。問題になっているのは個人の請求権に基づく主張」との意見を付け、この記述の徹底を要求。「未解決な戦後補償問題も残されている」との記述は「日本政府は各国との平和条約や賠償協定で解決ずみと主張しているが、被害を受けた人びとから償いを求められている」へと表現が変わり、「削る」から「書かせる」への流れを裏付けた。
 社会科教科書の執筆者の新海宣彦・東京学芸大付属竹早中教諭は「従軍慰安婦や戦後補償の記述が各社に載ったことを過大に評価しては本質を見失う。アジアの人々の目でとらえた日本の戦争の加害事実をきちんと子供たちが理解することが大切で、その面では不満」と話す。
 また、公民の「防衛」に関する記述では、文部省の学習指導要領への執着ぶりが浮き彫りになった。前回検定(4年前)で、学習指導要領の改訂に伴い、「国の自衛権」「各国の防衛努力」「自衛隊の任務」を3要件として盛り込むよう求めたが、今回もこの方針を踏襲し、3要件が欠けている場合は、「学習指導要領の内容に照らして不十分」と検定意見が付いた。審議経過を追うと、文部省の諮問機関である教科用図書検定調査審議会(検定審)の意向以前に文部省の実質的なチェック機能が働いた可能性が強い。編集者が「正の部分と負の部分とも書けるようになり、弾力的で緩やかな傾向が続いている」と受け止める半面、「教科書作りの枠が窮屈になった面もある」と指摘する。文部省は「2巡目に入り、学習指導要領の趣旨をより徹底させた」と説明するが、あいまいな要素も残る。
 
★欠ける「透明性」
 検定制度は89年、手続きの簡素化や、密室性の緩和などを図るために改善された。教科書の原稿本(申請本)について、調査官が「検定意見」を口頭で伝え、出版社は指摘個所を直した「修正表」を提出。それをもとに検定審が審査して合否を決定する。検定基準では教科書が扱う範囲を「指導要領に示す事項を不足なく取り上げ」「不必要なものは取り上げていない」こととしているが、検定基準の不明確さを指摘する編集者は少なくない。
 そもそも、文部省は学習指導要領を学習内容の「大綱的基準」と位置付けている。検定が柔軟さを持たず、指導要領に縛られたままでは、個性的で多様な教科書づくりは遠のくばかりだ。
 もっとも、教科書の画一化には教科書会社側の姿勢も無縁とは言い難い。「条件付き合格」から「合格か不合格か」という現行の一発検定システムになってから、検定意見に素直に従う傾向が強まっているという。「調査官に合格の条件ですと言われたら、検定意見をのまざるを得ない。検定の圧力はむしろ強まっている」と話す編集者もいる。少子化で生徒数が減少して市場が狭まり、「営業サイドの思惑も無視できない」との声もある。個性的で、多様な教科書を作るためには、検定のプロセスを公開すべきだろう。
 
◇教科書離れた授業進み 制度再考の時期に
★変わる教材観
 日教組は1960年代から検定結果公表時期の6月下旬に、教科書の内容の分析を記した教科書白書を発行してきたが、今回は発行を中止。近く、採択側の手引書となる「教科書情報」を発行する。また、今後「白書」は実際に使用してみて問題点を指摘する内容に衣替えする予定だ。昨秋の文部省との協調路線を受け、現状追認型へと取り組みを転換するわけで、教科書検定をめぐる情勢は、先の教材使用の弾力化への動きとあわせ、大きな節目を迎えている。
 学習指導要領で、学校教育の「主たる教材」とされ、使用義務が課されている教科書だが、高度情報化が進み、将来は文字以外に映像の比重が高まり、教科書の教材観そのものも大きく変わる可能性がある。文部省も「授業形態が変われば教科書も変わる」(高塩至教科書課長)とみている。効率的な詰め込み教育の時代には「最良の道具」だったが、中教審のうたう学校週5日制の完全実施に向けた学校のスリム化とも絡み、教科書から離れた教材や体験学習などが広がり、教材使用の弾力化も進むのは必至だ。現に教科書を離れた授業も各地で始まっている。
 なお、厳格な検定で教科書の個性が失われるとの懸念も根強いが、画一的ではない多彩な教科書を生み出す方策として、中学、高校、大学の入試について教科書への依存度を緩めることを挙げる声もある。教材使用の弾力化の論議と並行し、入試改革とセットで教科書検定の在り方を再考する時期かもしれない。
【教育取材班】
(この記事には図「現行の教科書検定システム」があります)


 
 
 
 
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