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1993/02/14 毎日新聞朝刊
[社説]教育 総合学科への期待と注文
 
 高校に「総合学科」という新しいタイプの学校が登場することになった。第十四期中央教育審議会の答申(一九九一年)を受けて、文部省の高校教育改革推進会議が具体化したもので、文部省は来年四月からの開設を目指している。将来は各学区に一校は設置したいという。
 これにより、高校は普通科、職業科、総合学科の三本立てになる。
 この学科は生徒の興味・関心や社会の要請に対応して、普通科目と職業科目をミックスした総合的なカリキュラムで編成されているなど、新しい発想が盛り込まれている。
 推進会議の報告書は「専門的な能力とともに、普遍的で根源的な人間理解・文化理解に立って、物事を総合的に理解し行動する能力が求められている」と述べている。
 この考えに同感できる。総合学科は、これからの高校教育のあり方を示すものとして評価できよう。
 まず注目したいのは、将来の職業生活に必要な態度や生き方を学ぶ「産業社会と人間」という科目の新設だ。それに加えて、コンピューター社会に対応できるように「情報に関する基礎的科目」、自分でテーマを見つけて調査、研究する「課題研究」(卒業論文・卒業制作)を「原則必修」にしている。
 さらに総合選択科目群がある。今日、必要とされる職業分野に対応して、情報系、国際協力系、地域振興系、伝統技術系、福祉サービス系など十三種類が例示されている。
 例えば、将来、国際協力関係の仕事に就きたい生徒は、国際協力系を選択するわけだ。その科目群として、世界史、日本史、外国語、国際経済、農地開発などがある。
 これらの科目のうち現場教師で対応できないものは、社会人を非常勤講師で登用することにしている。
 このほか学年制をやめて、八十単位を取れば卒業できる単位制の導入、他校との連携、中退者や転入学者の受け入れも積極的に行うという。全体に柔構造の高校といえよう。
 このように見てくると、総合学科は、文部省が言うように「高校教育改革のパイオニア」であり、推進会議座長の上寺久雄・前兵庫教育大学長が「第三の学科としてではなく、全体的な改革の第一歩」と位置付けているのも、うなずける。
 総合学科の試みは、既設の普通科、職業科にも採り入れてほしいものだ。そして最終的には総合学科へ一本化をめざすべきだろう。
 それは普通科、総合学科、職業科といった序列化・学校間格差の解消にもなる。日教組もその観点から、小学区制による「地域総合高校」をかねてから提案しているところだ。
 青写真は出来たが、実際に開設し運営していくうえで、さまざまな解決すべき問題が予想される。
 この学科は就職組にも進学組にも対応できるようにしているが、授業が、どっちつかずの中途半端なものにならないように配慮すべきだ。
 また、生徒が「系」や進路を選ぶとき、本人の興味・関心に沿ったガイダンスが必要だ。総合的な教育を行うことも含めて、教師の幅広い視野と知識が求められる。
 技能指導のためには、施設設備の充実も欠かせない。学校外の施設や指導者の活用も考えられてよい。
 さらに生徒の自治的能力を高めるために、ホームルームや学校活動を工夫してほしいものだ。
 総合学科は新設校よりも、まず教育困難校を改編することから手をつけてはどうだろうか。


 
 
 
 
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