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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1991/04/07 毎日新聞朝刊
[教育どこへ]先生の現実 断絶と交流/4 ビデオが映した埋まらぬ溝
 
◇絶えず僕らSOS
 明かりの消えた視聴覚室に、R・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」の荘厳なメロディーが流れた。赤い字で大映しされる「検証・定時制高校―生徒の声が届かない」のタイトル。番組のシーンが変わるたびに、集まった生徒、教師のざわめきが広がった。
 ウ飼いで名高い岐阜市・長良川沿いの定時制、岐阜県立華陽高校。制服など校則問題で夜間部の生徒会が教師と対立。一昨年の文化祭ボイコット以来、「証拠を残し、活動のまとめも兼ねて」と、学校との交渉の場にホームビデオを持ち込んだ。撮ったテープは一年間で百二十分九本、六十分四本。これらを編集したルポ番組が教師らの反対を押し切り、昨年十一月の文化祭で公開上映されたのだ。
 ビデオの冒頭、車の免許を取らない、買わない、という校則「四ない運動」について、録音した生徒の意見が、発言者が分からないように早回しで流れる。
 ヤマ場は昨年七月、長野県での宿泊研修で起こった「体罰事件」を男子生徒がテレビリポーターばりに取材したシーン。「事件が元で学校に嫌気がさして」退学した生徒を探し出し「体罰」の実態を相手教師の名前を含めて聞き出した。
 そのうえで当事者の理科教師(41)に「直撃インタビュー」。教師がカメラを手で覆い、逃げまどう場面が映し出される。さらに「衝撃的特ダネ」としてその場に居合わせ「体罰」を目撃した別の生徒の証言を紹介。「事件」を隠そうとする学校側の態度がクローズアップされた形で、四十三分の番組は終わった。
 上映を巡って事前の「検閲」を求める今尾英夫校長(59)、早川徹教頭(56)と生徒会の間で激しいやりとりが繰り広げられた。机をたたいて上映を求める生徒。指導に従わないと「学校には懲戒権がある」と、休退学をほのめかす教頭。同僚の目を避けながらこっそり家庭訪問し、生徒との接点を見いだそうとする校長。だが、あの手この手の説得も生徒には効かなかった。
 「何度やめろ、と言ってもダメだった。生徒の考えが分からない」。早川教頭は疲れ切った様子でつぶやいた。昭和二十八年度の同校卒業生の教頭。法務局に勤めながら苦学して教師になった。働いて家を支えながら学び、大学へも。豊かな時代に育った今の生徒にそんな姿勢は見られない。
 文部省がまとめた平成元年度の全国の公私立高校の中退者は、過去最多の十二万三千人を記録。中でも定時制は中退率一五・九%と最も高く、好景気や人手不足を背景にした就職希望などの「積極的中退」が増えている、と分析した。同校の今年度の卒業者も五四%に過ぎなかった、という。
 しかし、生徒は「僕らにも夢はある。やめたくて、やめるんじゃない。それなのに、使命感をなくした先生が多すぎる」と、すれ違いを見せる。二年前に退職した同校の元教師(40)も「生徒に能力がない、というのは教える側の逃げ口上。二、三年辛抱すれば異動ができる、という同僚ばかりだった」と、現場への失望を口にした。
 結局、上映の処分はないまま三月、生徒らは巣立っていった。
 ビデオのラストシーン。真剣なまなざしで男子生徒が訴えた。「生徒は絶えず先生にSOSを送っています。先生、僕たちを見て、聞いて、そして感じて下さい」。一方、今尾校長は卒業式で、人に優しく自分に厳しくとの思いを込め「春風駘蕩 秋霜烈日」の言葉を贈ったが、生徒との溝は最後まで埋まらなかった。
   × × ×
 「教育どこへ」先生の現実シリーズはこれで終わります。執筆者は、土屋信明(北海道)、梁瀬誠一、尾中香尚里(東京)、岸俊光(中部)、藤井英一、塩田敏夫、太田阿利佐(大阪)、森忠彦(西部)の各記者でした。次回テーマは模索中です=教育取材班。


 
 
 
 
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