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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999/10/14 産経新聞東京朝刊
【正論】鳩山由紀夫代議士の憲法論
小林節(慶応義塾大学教授・弁護士)
 
◆タブーに挑戦した勇気
 九月に、自由民主党の総裁選と前後して行われた民主党の代表選は、さまざまな点で興味深かったが、とりわけ、改憲論議が争点のひとつになったことは画期的である。そして、改憲を党是とする自民党に対抗する位置にある野党第一党の代表に改憲論者の鳩山代議士が当選したことは、重大な意味を持つ。それは、有権者の前にいわば第一自民党と第二自民党が出現したということで、有権者にとって、自民党に代え得る選択肢が用意されたという意味で、二大政党制の条件がひとつ整ったことになる。
 それにしても、歴代自民党内閣ですら、党是としての改憲はそのままにしておきながら、それはそれとして「現内閣で改憲を政治日程に載せることはしない」という、問題の先送りを続けてきた中で、鳩山代議士が、あえて、旧来型の護憲派・横路代議士とそれに親近感を示す菅代議士を向うに回して持論を撤回せず戦い抜いたことは注目に値する。
 制定後五十三年も経過して明白な不具合が生じている日本国憲法の問題点を知りながらも、改憲論議をタブー視する風潮の残滓に気兼ねして未だに言い出せずにいる政治家が多い中で、このタブーに挑戦した鳩山代議士の勇気は敬意に値する。
 もっとも、鳩山代議士の改憲論は、ともすると明治憲法型の憲法論になりがちな旧来の改憲論とは明らかに一線を画したもので、日本国憲法の基本原理(すなわち、国民主権主義と平和主義と人権尊重主義)を堅持する立場からその憲法をより良いものに改善してゆこうとする、まさに、新世代らしい護憲的改憲論である。
 
◆素直に育った戦後世代
 この鳩山流改憲論を理解するには、氏の人柄を生んだ時代や家庭的背景やその経歴を見てみる必要があろう。
 現代日本におけるエスタブリッシュメント(名門)の長男として戦後に生まれ、秀才の血筋を受け、いわゆる戦後教育の中で育ち、自然科学者としてアメリカに留学した経験のある鳩山代議士は、文字通り、素直に育った聡明な戦後世代の典型である。だから、同代議士は、第二次世界大戦をいわばひとごとのように感情を入れずに客観視できるし、アメリカに対しても、傲慢に反発したり逆に卑屈に見上げたりもせず、親しさを持って対等な目線を向けることができる。
 だから、鳩山代議士は、戦後の日本を呪縛してきた「陸海空軍その他の戦力ではない自衛隊」などという訳の分からない言葉の遊びを排して、自衛隊が「軍隊」であると正直に認めたうえで私たちが自らに「侵略」戦争を禁じればよい、と言い切れる。また、大東亜戦争でわが国が行ったことは「侵略」であった、と抵抗なく認めてしまう。また、アメリカは好きだが、アメリカの国益を第一に考えているアメリカに盲従することはない、と冷静である。また、公共の福祉を人権に優先させようとするタイプの改憲論には真正面から異を唱える。また、天皇の「象徴」性とはまさに元首に特有な機能を指しているのだが、元首という言葉が連想させる権力性を回避するために天皇をあえて元首と呼ばず象徴と呼んでいる現憲法の表現に愛着を持っている。さらに、政治の機能を向上させるために、参議院を地方代表院にし、加えて、首相を国民が直接公選することを提唱する。
 
◆ニュー・リベラリズム
 このような鳩山代議士は、自・自・公政権の出現による総保守化の傾向に対抗する自らの立場を「ニュー・リベラル」と称している。しかし、一般にはこの点があまり理解されていないようである。
 まず「ニュー」(新)ならぬ、わが国における旧来のリベラル派の立場は、鳩山代議士によれば、かつての社会党に代表されるように、頑固な護憲意識と嫌米意識を持ち、平等主義の立場から弱者の保護を徹底的に行う規制主義で、必然的に大きな政府を志向する。それに対して、鳩山代議士のニュー・リベラリズムは、憲法を不磨の大典とは考えず、親米意識を持ち、市場経済にもっと自由と自律性を持たせ、その結果として、経済の自律的な発展と拡大の中で弱者の自立と救済も達成され、必然的に政府の役割は小さくなる・・・という立場である。まさにこれは、良くも悪くも、能力と幸運に恵まれ順調に成長してきた人物が好みそうな発想だと言えよう。
 ところで、「リベラル」という英単語の意味は「自由(な)」であるが、それは、本来的に「規制」とは相反する概念である。だから、そういう意味で、わが国における旧来のリベラル派が「規制による平等」を志向するものである以上、そもそもそれを「リベラル」と呼んでいたことが間違いであろう。その点、規制を減らして社会の自律的な発展に期待する鳩山代議士のリベラリズムのほうが、言葉の本来の意味でリベラルである。だから私は、同代議士の「ニュー」(新(しん))リベラリズムを、今後、改めて、「真(しん)」リベラリズムと呼びたい。
 
◇小林 節(こばやし せつ)
1949年生まれ。
慶応義塾大学大学院修了。法学博士。
ミシガン大学研究員、ハーバード大学研究員を経て、現在、慶応義塾大学法学部教授、弁護士。


 
 
 
 
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