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1993/02/07 毎日新聞朝刊
[思うぞんぶん]憲法論 護憲は私の信念
河野洋平(官房長官)
 
◇国際貢献の方法は多種多様
 ――なぜ、憲法論議がいきなり活発化してきたと思いますか。
 河野洋平官房長官:東西冷戦が終わって新しい秩序を作る場面に、われわれも遭遇しているということだろう。ただ、この国会は景気回復と政治不信の解消など、多方面の課題がある。次元の異なる議論が一緒になるのは好ましくない。具体的に憲法改正をするという国民的コンセンサスができているとは思わない。宮沢内閣として改憲を前提とした論議を政治日程に乗せるつもりはない。
 ――自民党との関係がギクシャクしないですか。
 河野長官:それはないだろう。三塚博政調会長も党として議論を深めると言っており、問題ない。
 ――改憲論の根底に、現行憲法は国際貢献の障害との認識がありますが。
 河野長官:国際貢献を直ちに軍事協力と結びつけすぎている。日本がやるべき国際貢献はたくさんある。数えあげればきりがない。現行憲法は全く国際貢献の障害にならない。
 ――日本にとって必要な国際貢献は。
 河野長官:例えば国際的に責任がある経済政策を取ることも大事な貢献だ。アジアをはじめ、世界の開発途上国支援もある。貧しい国の人々は飢餓に悩み、衛生状態や識字率など、最低限度の生活すらできない人もいる。どのような貢献をするかは非常に重要だ。
 ――貢献を幅広くすべきということですか。
 河野長官:確かに世界を見渡せば多くの紛争が起きている。その解決への国際貢献はもちろん大切だ。しかし、同時に飢餓に救いの手を差し伸べることも立派な国際貢献だ。さまざまな種類の貢献があり、日本がやれることを積極的にすべきだ。国際貢献は紛争解決に議論が偏っている。
 ――日本は米国型の国際貢献を探るべきですか。
 河野長官:それぞれの国の長所を生かすのが重要。米国は力で秩序を維持する世界の警察官だが、国家の特徴を生かして国際貢献を進めるべきだ。
 ――国連平和維持活動(PKO)協力法で憲法はすでに形がい化したとの見方もありますが。
 河野長官:この法律で憲法が形がい化したとは全く考えない。むしろ憲法でやれる範囲をやった法律だ。
 ――ガリ国連事務総長が日本の軍事的貢献拡大のため憲法改正に期待を表明しましたが。
 河野長官:日本への期待はよく理解できる。ただ、日本には日本の考え方がある。これは、憲法が定めているからというより、大部分の日本人の考え方ということだ。期待に応えられる部分とそうでない部分がある。
 ――国連中心主義と憲法理念は両立しますか。
 河野長官:これまで一致してきたし、今後も基本的には矛盾せず一致する。ただし、まだ未知の部分がある。国連軍はまだ作られたことがないが、国連の中に集団安全保障の考えはある。それが、どういうものになれば日本が参加できるかは、まだ議論を要する。
 ――宮沢喜一首相の護憲姿勢は揺るぎませんか。
 河野長官:(護憲は)信念だろう。戦前の自由が限定された時代を知り、日米関係の歴史を知る人の信念だ。私も護憲が信念だ。
 
◇米国型と違う貢献像示して護憲論を展開
 一連の憲法論議は、国連軍への参加問題など理念論争になりがち。しかし、河野長官の場合、まず米国型とは異なる多角的、平和的国際貢献像を示したうえで護憲論を展開しており、その意味では議論の本筋を踏まえている。将来的な国連中心主義と憲法の整合性について「未知の部分」として留保したが、これはガリ事務総長の武力行使積極路線への警戒感の反映。今後、日本の求める国際貢献像をどう国際社会でアピールするかが、宮沢内閣の重い課題だ。
 
◇河野 洋平(こうの ようへい)
1937年生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業。
科学技術庁長官、内閣官房長官、副総理大臣を歴任し、現在、衆議院議員。


 
 
 
 
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