日本財団 図書館


4.2 ホーム上における点字ブロックの用途
 
4.2.1 ホーム縁端の点字ブロックについて
 全被調査者が、ホーム縁端に点字ブロックが線路と平行方向に敷設されていることを承知していた。その点字ブロックが点状ブロックであることを、62名(92.5%)は知っていた。そのうち6名はホーム縁端には線状ブロックもあると答えた(6名中5名は大阪での被調査者)。ホーム縁端のブロック種別を知らなかった5名のうち3名は、「点状であるか線状であるかは知らない」と回答し、残りの2名は「ホーム縁端は線状ブロックである」と回答した。
 このホーム縁端の点字ブロックを何らかの用途で利用している人は65名(97.0%)だった。この65名に、その利用目的を次の項目から選択してもらった(複数回答可)。
(1)ホーム縁端付近の警告表示として、(2)ホーム長軸方向への移動時の辿るべき‘誘導路’として、(3)乗車時に扉までの距離を示す印として、(4)降車時にホーム短軸方向へ移動する時の確認のため、(5)その他。
 各目的で利用する人の人数と、その被調査者67名に対する割合を表3に示した。
 
表3 ホーム縁端の点状ブロックの用途*
  警告表示用 誘導用 扉までの距離 降車時の確認 その他
人数
( )内は%
62
(92.5)
56
(83.6)
33
(49.3)
27
(40.3)
0
(0.0)
*複数回答可
 
 ホーム縁端の点状ブロックは本来の警告表示だけでなく、その他の用途でも用いられていることが示されている。特に「ホーム長軸方向への移動時の辿るべき‘誘導路’」としての役目を果たしている点が注目される。
4.2.2 ホーム上の階段周辺部の点字ブロックについて
 ホーム上で階段口に点字ブロックがあることは67名中66名が知っていた(59名はそこが点状ブロックであることを承知していた)。
 ホーム縁端の点状ブロックから階段口へ線状ブロックが敷設されていることは、58名(86.6%)が知っていた。そのうち、52名(77.6%)は、この部分の点字ブロックを何らかの用途で利用していた。この52名にどのような目的で利用しているかを、次の項目から選択してもらった(複数回答可)。(1)ホーム縁端を長軸方向に歩いている時に階段位置を知るため(表4では「ホーム縁端⇒階段」と略す。以下同)、(2)ホーム中央を長軸方向に歩いている時に階段位置を知るため(ホーム中央⇒階段)、(3)階段口からホーム縁端に近付く時に辿るべき‘誘導路’として(階段⇒ホーム縁端)、(4)その他。
 各目的で利用する人数と、その被調査者67名に対する割合を表4に示した。
 
表4 ホーム縁端と階段口を結ぶ線状ブロックの用途*
  ホーム縁端⇒階段 ホーム中央⇒階段 階段⇒ホーム縁端 その他
人数
( )内は%
51
(76.0)
32
(42.7)
24
(35.8)
3
(4.5)
*複数回答可
 
 全被調査者の76%が、ホーム縁端を歩いている時に、この部分の点字ブロックを、階段を知る‘手がかり’として利用していた。このブロック配置を知っていた58名に対して、このブロックの必要性を尋ねたところ、「絶対に必要」が26名、「常に使っているわけではないが必要」が21名で、約8割(58名中)がその必要性を感じている。
 
4.3 ホームの長軸方向への移動について
 
4.3.1 ホームの長軸方向への移動距離
 次に、ホーム上で長軸方向にどの程度の距離を移動しているかについて尋ねた(迷っている場合は除く)。一般に、視覚障害者は降車位置が階段等に近いかどうかを考慮して乗車位置を決めることが多い。従って、乗車駅において、階段からホームに到達してどれ位の距離を移動するかは、比較的強く意識されている。また、同じ理由から、行き先の駅によってホーム上の移動距離は大きく異なり得る。そこで、次の2つの場合を想定し、別々に答えてもらった。(1)最も頻繁に訪れる駅(例えば勤務先の最寄駅)が目的地の場合に、自宅の最寄駅のホーム上でどれ位の距離を移動するか、(2)最寄駅に限らず日常的に利用している駅で、最も長くホーム上を移動する場合の移動距離はどれ位か。その結果を表5に示す。
 
表5 ホーム上の移動距離
  移動しない 車両1両程度 車両2、3両程度 ホームの
半分以上
不定
(1)最寄駅 18
(26.9)
15
(22.4)
8
(11.9)
21
(31.3)
5
(7.4)
(2)長く移動する場合 1
(1.5)
2
(3.0)
11
(16.4)
52
(77.6)
1
(1.5)
*数値は67名中の人数を示す。( )内は%
 
 自宅の最寄駅では「移動しない」という人(ほとんど移動しないか移動しても4、5m以内と回答した人)も多いが、「ホームの半分程度かそれ以上の距離を移動する」という人も多い。また、長く移動する場合では、圧倒的に「ホームの半分程度かそれ以上」と回答する者が多かった。視覚障害者の多くは、ホーム上の移動が危険を伴うことを認識している。しかし、当然のことながら、自分の乗車駅と降車駅のそれぞれにおいて、ホーム上を移動しなくても良い位置に必ず階段があるわけもなく、現実には、かなり多くの視覚障害者がホーム上を長く移動しているのが実態である。
 
4.3.2 ホーム長軸方向に移動する場合の歩行位置
 ホーム長軸方向に移動する場合の主な歩行位置について、相対式ホーム(ホームの片側にしか線路がないホーム)と島式ホーム(ホームの両側に線路があるホーム)に分けて尋ねた。その結果を表6に示す。
 
表6 ホーム長軸方向に移動する場合の歩行位置
  ホーム縁端 中央 壁側 時と場合
による
不定 その他
相対式ホーム 22
(32.8)
10
(14.9)
22
(32.8)
9
(13.4)
0
(0.0)
4
(6.0)
島式ホーム 47
(70.1)
9
(13.4)
- 8
(11.9)
0
(0.0)
3
(4.5)
*数値は67名中の人数を示す。( )内は%
 
 相対式ホームでは、ホーム縁端付近を歩く人と壁側を歩く人が同程度(32.8%)に多い。一方、島式ホームでは、圧倒的にホーム縁端付近を歩く人が多い。島式ホームでは、ホーム縁端に近い位置ではあるが、点状ブロックを辿るべき‘誘導路’として利用せざるを得ない状況が窺える。なお、相対式ホームで壁側を歩かない人の理由は、ほとんどが「壁側を歩きたいが、ベンチ、自動販売機、ゴミ箱などがあって歩き難い」というものであった。
4.3.3 ホーム縁端を歩く場合の足と杖の位置
 ホーム緑端の点状ブロック沿いに歩くことがある60名に対して、基本的な点状ブロックと足の位置関係、および白杖の使い方について質問した。足の位置は次の5つの中から選択してもらった。(1)片足だけブロックに載せる、(2)両足ともブロックには載せない、(3)両足ともブロックに載せる、(4)不定、(5)その他。
 次に、(1)の場合、「ブロックに載せない方の足は主にブロックよりホーム内側か外側か」、(2)や(3)の場合、「両足の位置は主にブロックよりホーム内側か外側か」を尋ねた。さらにその際の白杖の使い方についても質問した。これらの結果を表7に示す。
 
表7 ホーム縁端を歩く時のブロックと足の位置開係
  片足は
ブロック上
両足とも
ブロックに載せない
両足共
ブロック上
不定・その他
足の位置 42
(70.0)
12
(20.0)
  4
(6.7)
2
(3.3)
ブロックに
触れない足は
内か外か
不定 - -
37 5 11 1
*数字は60名中の人数を表わす。( )内は%
 
 白杖の使い方については、片足だけブロックに載せて歩く人では、スライド法(白杖を地面に付けて左右に滑らせる使い方)が21名で最も多かった。次に多いのは、2点突き(白杖を左右の点で地面に突く使い方)で7名であった。両足ともブロックに載せない人では、12名中11名がスライド法であった。
 
5 まとめ
 今回の調査で、以下のことが明らかになった。
1)被調査者の84%は、ホーム縁端の点状ブロックを、線路と平行方向にホームを歩く場合の、辿るべき‘誘導路’として利用していた。
2)被調査者の76%は、ホーム縁端の点状ブロックと垂直に交わる線状ブロックを、ホーム縁端を移動する際に階段を検出する手がかりとして利用していた。
3)島式ホームでは、主にホーム縁端の点状ブロックに沿って移動する人が70%を占めた。相対式ホームでは、主に点状ブロック沿いに移動する人と主に壁に沿って移動する人が同程度で、ともに33%であった。
4)点状ブロックに沿って移動する時は、70%の人(60名中)が主に片足のみを点状ブロック上に載せて歩いていた。白杖の使い方はスライド法が21名で最も多かった。
 これらの現実を踏まえた上で、今後、より良い点字ブロック敷設などについて検討していくことが望まれる。
 なお、本調査は、国土交通省の補助金を受けている「鉄道におけるユニバーサルデザインの研究」の一環として実施した。
 
謝辞
 
 ヒアリング調査に参加して頂きました視覚障害者の皆様、並びにスケジュール調整、会場準備等にご協力頂きました関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
 
文献
 
1)田内雅規ら:視覚障害者による鉄道単独利用の困難な実態、リハビリテーション研究No.70, 33-37, 1992
2)運輸省(監修):公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者のための施設整備ガイドライン, 運輸経済研究センター, 1994
3)鉄技術基準整備のための調査研究報告書, 財)鉄道総合技術研究所, 2000
4)福祉ウォッチングの会:視覚障害者のホーム転落事例調査, 福祉ウォッチングの会, 1996
5)楠神健ら:視覚障害者の駅ホームからの転落に関する心理学的分析, 鉄道総研報告, Vol.11(No.5,pp,13〜18, 1997)
6)大倉元宏ら:視覚障害者の歩行特性と駅プラットフォームからの転落事故:人間工学, 31, pp.1-8, 1997
7)福祉ウォッチングの会:視覚障害者から見たホームの安全対策, 福祉ウォッチングの会, 1997
8)移動円滑化のために必要な旅客設備及び庫両等の構造及び設備に関する基準, 運輸省, 建設省, 2000
9)公共交通機関旅客設備の移動円滑化整備ガイドライン, 交通エコロジー・モビリティ財団, 2001
10)通商産業省製品評価技術センター:視覚障害者用ブロックに関する標準基盤研究最終報告書―パターンの標準化を目指して―, 通商産業省, 2000







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION