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資料編4
 
本研究に関わる参考文献
 
「視覚障害者の駅ホーム上における行動実態に関する現状調査」
鉄道総研報告 第16巻 第1号、2002年1月(23〜26ページ)
 
視覚障害者の駅ホーム上における行動実態に関する現状調査
 
水上直樹* 藤浪浩平**
大野央人** 鈴木浩明**
 
A research on the behavior of the visually impaired on the train platforms
 
Naoki MIZUKAMI Kohei FUJINAMI Hisato OHNO Hiroaki SUZUKI
 
 In order to improve guiding systems like tactile tiles for the visually impaired on the train platform, we need to know how tactile tiles are used and how these people behave on train platforms at present. But there are few reports on this theme. In this study, 67 visually impaired persons who use railways alone were interviewed. This research revealed that (1) dot type tactile tiles are used by 84% as a guide to follow when they walk parallel to the rail, although they are to warn of the platform edge originally. (2) 76% utilize bar type tactile tiles crossing dot type tactile tiles at a right angle at the platform edge as a cue to detect stairs. (3) On island platforms, 70% walk along dot type tactile tiles. On opposite platforms, the percentage of the people who walk along dot type tactile tiles is equal to that of those who walk along the wall side of the platforms, 33% each.
 
キーワード:視覚障害者、視覚障害者誘導用ブロック、点字ブロック、誘導・警告ブロック、駅ホーム
 
1 はじめに
 
 近年、公共交通機関におけるバリアフリー化が進められ、鉄道分野においても、様々な利用者を考慮に入れた上で対応がとられている。鉄道を利用する視覚障害者にとって困難な行動や事柄として、駅ホーム上での移動が挙げられる1)。その移動の際に重要な意味をもつ視覚障害者誘導用ブロック(以下、点字ブロック)は、運輸省(現国土交通省)の「公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者のための施設整備ガイドライン」2)に基づき整備するように努めることとされている。しかし、ガイドラインに示されていない部分もあり、その仕様や規格の統一による安全性の向上が喫緊の課題となっている3)
 ホームにおける、より効果的な点字ブロックの敷設方法を探るためには、視覚障害者のホームからの転落事故の分析4)-6)や点字ブロックの敷設現状7)の調査とともに、視覚障害者のホーム上における行動実態を把握する必要がある。視覚障害者と接する機会の多い研究者や歩行を支援・指導する立場の人は、ある程度はその実状を把握していると思われるが、それらの実態に関して具体的な数字が示されている報告は少ない。そこで、視覚障害者のホーム上における行動(歩行位置や杖の使い方)や、点字ブロックの利用状況などを把握するために、鉄道を単独で利用している67名の視覚障害者に対してヒアリング調査を行ったので、その結果を報告する。
 
2 現状の駅ホーム上におけるブロック敷設等
 
 調査について述べる前に、まず、運輸省のガイドラインをはじめとして、関連する法令、指針8)9)を参考に、以下に述べる2種類の点字ブロックやホーム上のブロック配置(図1参照)を説明する。
 点状の突起を持った点状ブロック(警告ブロック)は歩行者に注意の喚起や警告を行うことを目的としている。敷設箇所は、段差や階段の手前、歩行路の曲がり角や分岐点などである。ホーム上では、階段の手前以外に、縁端部に対する警告表示として点状ブロックがホーム縁端から原則80cm以上の位置に、幅30cmまたは40cmで連続して敷設されている。
 線状の突起を持った線状ブロック(誘導ブロック)は、その向きによって歩行者を適切な進行方向に誘導することを目的としている。水平方向への誘導はこのブロックを連続して設置することで行われる。ホーム上では、ホームから階段の位置を明確にするために線状ブロックが敷設されている。
 
* 人間科学研究部 心理・生理研究室(心理・生理)
(Tel:NTT 042-573-7345、JR 053-7345)
** 人間科学研究部 人間工学研究室(人間工学)
 
図1. 駅ホーム上のブロック配置例
 
3 調査方法
 
3.1 調査場所とヒアリングの方法
 
 調査は、東京と大阪の2箇所で実施した。東京では全国身体障害者総合福祉センター(戸山サンライズ)、大阪では日本ライトハウス盲人情報文化センターの協力を得て、それらの一室で、1対1の対面式によるヒアリングを行った。調査者は予め作成しておいた質問用紙をもとに質問を行い、その回答を筆記記録した。
 
3.2 被調査者の特性
 
 被調査者は、「白杖による単独歩行が可能で、日常的に鉄道を利用している全盲の視覚障害者」として、点字毎日(毎日新聞社)への公募記事の掲載と、視覚障害者支援団体を通して募集を行った。その結果、計67名の視覚障害者が本調査に参加した(東京:24名、大阪:43名)。
 以下に示す被調査者の特性は全て自己申告によるものである。特に、現在の視力になった時期と、白杖を用いた単独歩行を始めた時期については、かなりの時間が経過しているケースも多く、数年の誤差が含まれていると思われる。
(1)年齢と性別
 被調査者の年齢は20歳代4名、30歳代23名、40歳代14名、50歳代22名、60歳代3名、70歳代1名で、平均年齢は44.2歳(東京44.3歳、大阪44.2歳)であった。性別の内訳は男性51名、女性16名であった。
(2)視力
 前述したように被調査者の募集条件は全盲としたが、結果的には、全盲40名、光覚弁23名、手動弁1名、指数弁2名、その他1名となった。
(3)現在の視力になった時期
 調査時の視力状態になった時期は、0歳が15名、1歳から9歳が10名、10歳代が19名、20歳代が10名、30歳代が3名、40歳代が6名、50歳代が4名であった。
(4)白杖を用いた単独歩行経験年数
 白杖を用いた単独歩行経験は、10年未満8名、10年以上20年未満15名、20年以上30年未満20名、30年以上40年未満17名、40年以上50年未満6名、50年以上60年未満1名であった。
(5)鉄道利用頻度
 鉄道利用頻度は、週4日以上利用する者が47名、週1日から3日利用する者が19名、週1日未満が1名であった。
 
4 結果
 
4.1 点字ブロックの周知度とその区別について
 
4.1.1 点状、線状ブロックの周知度
 被調査者全員が点状ブロックと線状ブロックの存在を承知していた。また、67名中63名(94.0%)は各々の意味も正確に知っていた。なお、点状ブロックについては「注意」、あるいはそれに類する表現の回答、線状ブロックについては「誘導」、およびそれに類する表現の回答が得られた場合に「意味を知っている」と判断した。
4.1.2 点状、線状ブロックを区別しての利用
 被調査者全員に、「点状、線状ブロックを区別しようと思った時は、どの程度違いが認識できていると思うか」、並びに、「ホーム上において点状、線状ブロックをどの程度区別して利用しようとしているか」を尋ねた。その結果を表1、表2に示す。
 
表1 点状、線状ブロックの区別
  常に違いを
認識できる
大体違いを
認識できる
あまり区別
できない
その他
人数
( )内は%
40
(59.7)
16
(23.9)
7
(10.4)
4
(6.0)
 
表2 ホーム上での点状・線状ブロック区別しての利用
  常に違いを
意識して利用
時々違いを
意識して利用
違いを意識
せずに利用
その他
人数
( )内は%
12
(17.9)
23
(34.3)
28
(41.8)
4
(6.0)
 
 点状、線状ブロックの違いは、区別しようとした時は認識できていると考える人が8割以上であった(表1)。その割には、ホーム上で両ブロックを区別して利用しない人が多い(表2)。その理由を尋ねたところ(複数回答可)、「両ブロックを区別することに意識を集中するのは困難である」、(16名)と、「ホーム上では点字ブロックの存在自体が重要であり、両者の区別はあまり必要ではない」(16名)という意見が目立った。
 
資料編5
 
本研究に関わる既発表文献
 
「駅ホームの内外方情報を付加した点字ブロック開発の試み」
日本人間工学会関東支部第31回大会(2001.11.23〜24)講演集(46〜46ページ)
 
駅ホームの内外方情報を付加した点字ブロック開発の試み
 
○大野央人、藤浪浩平、水上直樹、鈴木浩明、四ノ宮 章(鉄道総研)、末田 統(徳島大学)
 
Prototypes of a tactile warning tile discriminating the in/outside of a platform
 
Hisato Ohno, Kohei Fujinami, Naoki Mizukami, Hiroaki Suzuki, Akira Shinomiya (Railway Technical Research Institute), Osamu Sueda (Tokushima University)
 
1. 背景
 視覚障害者が安全に歩行できるように、鉄道駅のプラットホームには視覚障害者誘導用ブロックが敷設されている。これは、運輸省(現国土交通省)が示したガイドライン1)に基づいて整備されてきたものであり、現在、大都市圏では100%近い駅で敷設されるに至っている。
 その一例として、ホーム縁端部から80cm以上の場所には幅30cmもくしは40cmの点状ブロックが連続して敷設されている。この点状ブロックは、当該箇所がホーム縁端部に近いことを警告するものであるが、ホームの内外方に関する情報は含んでいない。しかしながら、視覚障害者がホーム上で方向を失った後にホーム縁端部の点状ブロックに達した場合など、ホームの内外方に関する情報が重要となる場面は少なくない。このため、ホームの内外方を区別し得るブロックをホーム縁端部に敷設することが望まれる。
 そこで我々は、駅ホームの内外方情報を付加した点状ブロックのプロトタイプを考案したので、ここに報告する。
 
2. 新しいブロックの要件
(1)現行ルールとの整合性
 駅ホームヘの点字ブロック敷設が始まって既に30年以上が経過し、その敷設ルールは利用者にも浸透している。それゆえ、敷設域がホーム縁端部に限られるにせよ、現行の敷設ルールと矛盾するものを導入することは難しい。そこで、新しいブロックは、現行ルールで敷設されている点状ブロックを含み、さらに新たな要素を付け加えたものである必要がある。
(2)識別の容易性
 その「新たな要素」は足で触れて識別できるものでなければならないため、シンプルな形状であることが求められる。また、同じ理由により、点状ブロック部分との間隔も狭すぎたり広すぎたりしないように留意する必要がある。
(3)JIS規格との整合性
 今年9月に視覚障害者誘導用ブロックの形状がJIS規格2)によって標準化された。今後、点字ブロックの形状は同規格によって規定されることになる。そこで、新しいブロックも、該当部分についてはJIS規格に準拠する必要がある。
(4)ブロック幅の制限
 幅の狭い島式ホームにおいて、ホームの両外側にブロックを敷設できるためには、ブロック自体の幅が大きくなり過ぎないように留意する必要がある。
(5)施工の容易性
 既設の点状ブロックを活かしたままで所定の機能を発揮できるために、「新たな要素」部分のみを簡便に追加敷設できるように配慮する必要がある。
 
3. プロトタイプの設計
 以上の要件を検討した結果、駅ホームの内外方情報を付加した点状ブロックのプロトタイプとして5種類のブロックを考案した(図1)。以下に詳細を述べる。
(1)30cm四方または40cm四方の点状ブロックに、1本または2本の線状突起を付加した構成とする。
(2)点状突起の形状と配置はJIS規格2)の点状ブロックに準じる。
(3)線状突起の形状はJIS規格2)の線状ブロックに準じる。
(4)1本線タイプでは、点−線の最狭条件はJIS規格の線状ブロックの線間ピッチに準じた(プロトタイプA)。また、最広条件は「女性の靴幅がちょうどおさまる間隔」として、約80ミリの間隔とした(プロトタイプC)。また、この中間条件としてプロトタイプBを設けた。
(5)2本線タイプでは、線−線ピッチがJIS規格線状ブロックの線間ピッチに等しい条件(プロトタイプE)、JIS規格点状ブロックの点間ピッチに等しい条件(プロトタイプD)を設けた。
 
4. 今後
 今後、これらのプロトタイプを用いて視覚障害者による評価試験を行う予定である。
 
文献
1)運輸省:公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者のための施設整備ガイドライン、1994
2)JIS T 9251:視覚障害者誘導用ブロック等の突起の形状・寸法及びその配列、2001
 
謝辞
 本研究は、交通エコロジー・モビリティ財団の委託により、「視覚障害者用誘導警告ブロックに関する研究」の一環として行われたものである。また、本研究の実施に際し、「誘導・警告ブロック改善検討会」の委員の皆様にご協力頂いた。感謝する次第である。
 
◆1本線タイプ
 
◆2本線タイプ
 
プロトタイプブロック 付加線 点−線 線−線 備考
ピッチ
(mm)
間隔
(mm)
ピッチ
(mm)
間隔
(mm)
プロトタイプA 1本線 75 50.5 - - 点−線ピッチが、JIS線状ブロックの線−線ピッチに同じ
プロトタイプB 1本線 90 65.5 - - プロトタイプAとプロトタイプCの中間
プロトタイプC 1本線 105 80.5 - - 点−線間隔に女性の靴幅が納まる
プロトタイプD 2本線 75 50.5 60 33 線−線ピッチがJlS点状ブロックの点−点ピッチに同じ
プロトタイプE 2本線 75 50.5 70 43 線−線ピッチが、JIS線状ブロックと線−線ピッチに同じ
図1.5 種類のプロトタイプブロックの形状







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