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ホーム縁端を警告するブロックの敷設状況調査
 
1. 背景と目的
 現ガイドラインにおいて、ホーム縁端を警告するブロック(以下、ブロック)は、縁端から80cm以上離して敷設することになっている。従って、路線や駅によってブロックの位置は90cmや110cmなど様々である。また、縁端から120cm程度の位置にある構造物(柱など)と交錯(干渉)する場合、構造物を避けるために縁端から180cm程度離して直線的に敷設するなど、個々の状況に応じて様々な対応方法がみられる。しかし、このような状況について、これまで定性的・定量的な把握はされていなかった。そこで、ブロックの上限値を議論する際に必要となるブロックの敷設状況に関する参考資料を作成することを目的として本調査を実施した。
 
2. 方法と調査内容
2.1 調査対象事業者
 全国の175の鉄軌道事業者を調査対象とした。回答は162社から得られた。ただし、路面電車やケーブルカーなどのホームについての回答も含まれており、必要に応じて分析対象から除外した。
 
2.2 主な調査内容
(1)ホーム縁端の点状ブロックの標準的な敷設位置(=点状ブロックをホーム縁端からどの程度離して敷設しているか)について
(2)ホーム全面(長軸方向)にわたって標準的な敷設位置よりも内方側(=線路から離れる方向)に点状ブロックを敷設している事例について
 
2.3 調査時期、および担当箇所
(1)調査時期
 調査時期は2002年7月である。
(2)担当箇所
 調査用紙を各鉄軌道事業者に配布し、その回答を調査用紙に記入してもらった。調査用紙の作成、およびデータの整理、分析に関しては鉄道総合技術研究所が担当した。調査用紙の各鉄軌道事業者への配布、および回収は国土交通省鉄道局と地方運輸局が担当した。
 
3. 結果
3.1 標準的なブロックの敷設位置
 各社におけるブロックの標準的な敷設位置の分布状況をグラフに示す(図1、2)。これは、回答のあった162の鉄軌道事業者のうち、主に普通鉄道(JRや私鉄などの一般的な鉄道)を所有し、かつ、ホーム縁端を警告するブロックを敷設している120社の回答を分析対象としたものである。
 
図1 ホーム縁端を警告するブロックの敷設位置(1)
(敷設位置を範囲で回答した場合、上限値と下限値の中央値をその事業者の代表値とした)
 
図2 ホーム縁端を警告するブロックの敷設位置(2)
(敷設位置を範囲で回答した場合、上限値をその事業者の代表値とした)
 
 標準的なブロックの敷設位置は、80〜90cm未満の範囲にある事業者が約半数を占める。また、80cm以上110cm未満の範囲で、全体のおよそ9割を占める。なお、事業者ごとの標準的な敷設位置のうち最小値は40cm(40cm〜60cmと回答)、最大値は150cm(110cm〜150cmと回答)であった。
 
3.2 標準的な敷設位置よりもホーム内方側に点状ブロックを敷設している事例
 ホーム全面(長軸方向)にわたって標準的な敷設位置よりも大きく内方側(=標準的な敷設位置よりも30cm以上ホーム内方側)にブロックを敷設している事例について、1)何cm程度内方側に敷設されているか、2)その理由などを挙げてもらった。
 今回の調査では、全体で97の該当事例が挙げられ、例えば、ホーム縁端から200cm以上離れた位置にブロックが敷設されている事例数は27であった。標準的な敷設位置より大きくホーム内方側にブロックを敷設している理由は、全体の2/3が柱に起因するものであった(←96事例について述べられた理由のうち、柱に関連していたのは65事例)。
 
 
ホーム縁端を警告するブロックの敷設位置に関する自由意見
 
 実験終了後に、ホーム縁端を警告するブロックの敷設位置がもつ意味について、被験者に尋ねた。これは、ブロックの敷設位置が影響を及ぼすと思われる事柄(「敷設位置が異なることにより距離の思い違いによる危険が生じる」という観点以外)を35人の被験者注)に尋ねたものである。主な自由意見を、利用場面、あるいは評価の観点ごとに分類し、( )内に人数(複数回答可)を示した。ただし、これらは、被験者自身が日常的に感じていることだけではなく、実験条件のブロック敷設位置を体験して推察したものも含まれる。
 
注)雨天により、ホーム縁端を警告するブロックの敷設位置に関する実験を中止した被験者1名を含む。
 
1. 音による電車の動静・扉の開閉の判断
(1)電車の動静判断(10)
→ブロックが大きくホーム内方側に位置すると、列車が停止したことや、当該ホームヘ電車が進入したことを音で確認することが困難になる。
 
(2)扉が開く音の確認(16)
→ブロックが大きくホーム内方側に位置すると、電車の扉が開くことを音で確認することが困難になる。
 
2. 列車への乗降時
(1)乗車時のブロックから列車までの距離感(15)
→ブロックからホーム縁端までの距離が使い慣れているものより長いと、乗車時に列車やホーム縁端になかなか到達しなくて不安を覚える。あるいは、その距離が使い慣れているものより短いと、ホーム縁端や列車に突然、到達することもあり驚きを覚える。
 
(2)乗車までの所要時間(11)
→ブロックが大きくホーム内方側に位置すると、扉の開いている時間内に乗り込むことができるかという点で焦りを覚える。
 
(3)降車時のブロック確認(12)
→降車後に、すぐブロックを確認したいが、大きくホーム内方側に敷設してあると、ブロックが敷設されてないのか、あるいはブロックを跨いでしまったのかと考えて不安になる。
 
3. 現在位置の確認、ホーム縁端の警告性
(1)現在位置・ホームの内外方向の確認その1(29)
→ブロック上で現在位置・ホームの内外方向を確認したい時、容易に(=白杖を縁端方向に差し出す、あるいは1、2歩程度で)それが確認できるためには、ブロックがホーム縁端からある程度の距離内にあることが必要である。
 
(2)現在位置・ホームの内外方向の確認その2(15)
→ホーム長軸方向にブロックに沿って移動している時に、自分の歩行位置からホーム縁端までの距離などを確認したい時、容易に(=白杖を縁端方向に差し出す、あるいは1、2歩程度で)それが確認できるためには、ブロックがホーム縁端からある程度の距離内にあることが必要である。
 
(3)ホーム縁端を警告する意味が弱まる(7)
→(一般的に)ブロックがホーム縁端から大きく離れていると、それがホーム縁端部を警告しているという意味合いが弱くなる。
 
4. ブロックよりホーム外方側のスペース(余裕度)
(1)ブロックよりホーム外方側のスペースその1(14)
→(特に状況は指定しないが)ブロックからホーム縁端までのスペースがある程度は必要である。ブロックがホームの縁端に近過ぎると危ないと思う(よろけることや、晴眼者とぶつかることがあるので)。
 
(2)ブロックよりホーム外方側のスペースその2(8)
→ホーム長軸方向にブロックに沿って移動している時に、ブロックからホーム縁端までのスペースがある程度は必要である。ブロックがホームの縁端に近過ぎると危ないと思う(よろけることや、晴眼者とぶつかることがあるので)。
 
(3)電車との距離(4)
→ブロックがホーム縁端に近過ぎると、(通過)電車に触れそうで怖い。
 
5. 晴眼者の歩行位置、立ち位置との関係(7)
→ブロックがホーム縁端から大きく離れていると、混雑している駅では、今以上にブロックより外側を歩く人や、そこに立って待つ人が増えるのではないか(晴眼者とぶつかることが増える、視覚障害者がブロックを利用し難くなる点を危惧する)。
 
6. その他
 その他、一般的に、「普段、自分が利用し慣れている距離であれば良いが、利用し慣れていない距離であると、いろんな意味でブロック利用し難くなる」(5)という意見などがあった。なお、ブロックの敷設位置については、(ある程度の範囲内に)出来るだけ統一して欲しいとの意見がほとんどであった。
 
 この「視覚障害者用誘導・警告ブロックに関する研究」の報告書については、下記のことをご承知ください。
 
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