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5.3 実験結果および考察
 
5.3.1 課題1の結果
 行動を観察した結果、主に以下の5点が確認された。
(1)混合ブロックが通常の歩行に負の影響を及ぼすような状況は確認されなかった
(2)瞬時に内方線の存在に気づく被験者もいたが、ほとんどの被験者はそれについて言及しなかった
(3)コの字迂回敷設箇所ではブロックから外れて方向を失認したり、杖で周りを詳しく探ったり、階段へ誘導する場所と間違えたりする行動が確認された。連続敷設箇所では確認されなかった
(4)階段からホーム縁端に進入するときに、縁端のブロックを超えて転落方向に進む人はいなかった
(5)線路平行方向の移動時に、縁端から階段へ誘導する分岐点に気づかない人が少なからず存在した。被験者の発言から判断すると、線路平行方向の移動時に階段を検出するためには、分岐部のブロックだけでなく、階段脇の壁や人の流れを用いることもあり、実験場にはそれらがなかったことも要因の1つであると考えられる
 
5.3.2 課題2の結果
(1)点状ブロックに内方線が付加されることについて
 点状ブロックに内方線が付加されることについて、現在の敷設方法によるものと内方線があるものを体験してもらい、内方線に期待される機能を説明した後に、その有効性を尋ねたところ、以下の結果が得られた。
 
表5.5 内方線の有効性に対する回答内訳(人)
回答内容 人数
役に立つ 19
役に立たない 2*1
21
*1 役に立たないと答えたうちの1人は、この課題の後に他の課題を進めていく中で、内方線の確認場面を繰り返すことで役立つという立場に変わった。
 
 役立つと考えた理由は大きく分けて5つであった。なお、( )内の人数は役立つと答えた19人のうち何人がその回答をしたかを示す。自由に発言してもらった中から抽出したので1人が複数回等をしている場合がある。
(1)ホームの内側と外側がわかる(17人)
(2)階段前の点状ブロックと区別できる(1人)
(3)ホームの長軸方向(線路と平行方向)がわかる(1人)
(4)縁端に向かって垂直に進んだときに杖が内方線にひっかかることによる警告効果がある(3人)
(5)ホーム縁端を移動する際の誘導の手がかりとなる(7人)
 
 役立たないという理由は以下の2つであった。
(1)線の形状や本数がわかりやすさを十分に満たしていない(1人)*1
(2)ローラーチップのついた杖では内方線がわからない(1人)*2
 
*1 この被験者は実験過程で混合ブロックは役立つという立場に変わった。
*2 この被験者が「わからない」と回答したのであり、ローラーチップが装着された白杖全般を示す訳ではない。
 
 混合ブロックの使い方について尋ねたところ、混合ブロックが広く普及した場合、ホーム長軸方向移動時に内方線を何らかの形で利用すると答えた人は12人いた。混合ブロックを長軸方向の移動に使うか否かを聞いたのではないので、特に言及しなかった被験者もいた。
 内訳は、以下の通りである。
 
表5.6 内方線の利用方法に関する回答内訳(人)
使い方 内訳 人数
内方線を長軸方向の移動に使う 足で内方線を利用する 9
杖を内方線に沿わせたり、ぶつけたりしながら利用する 4(1人は重複)
小計 12(9+4-1=12)
内方線を長軸方向の移動に使わない 使う可能性がないことはないが使うとは言い切れない 2
使わない 2
小計 4
特に言及なし 5
合計 21
 
 混合ブロックを長軸方向の移動に使うと答えた被験者の中に、「これまではホーム中央よりを歩いていたが、新たに内方線が付加されることで縁端よりを歩くことになる人」がいるかどうか、過去に実施した聞取り調査に参加した7人を対象に調べた。その結果、7人全員が過去の調査において「点状ブロックを誘導目的に利用している」と答えており、前記の疑問に対する答えは得られなかった。
 
 上記の各結果から、以下の2点が明らかになった。
(1)混合ブロックは自分の位置や方向を知ろうと思ったときに役立つ
(2)混合ブロックの内方線はホーム長軸方向に移動するときの手がかりになるので役立つ
 よって、混合ブロックをホーム縁端に敷設することは有効である。
 
(2)ホーム縁端の混合ブロックと構造物が干渉する場合の敷設方法について
 ホーム縁端の混合ブロックと構造物が干渉する場合の敷設方法として連続敷設を採用することについて、コの字迂回敷設部分と連続敷設部分を歩行してもらい、その理由を簡潔に説明した後に、それを支持できるか否か尋ねたところ、以下の結果が得られた。
 
表5.7 連続敷設を支持するか否かに関する回答内訳(人)
回答内容 人数
支持する 19
支持しない 2
21
 
 内訳を見ると、積極的に連続敷設を支持するというよりも、コの字迂回敷設の問題点を指摘するほうが多かった。理由は概ね6つに分類された。なお、( )内の人数は支持すると答えた19人のうち何人がその回答をしたかを示す(自由に発言してもらった中から抽出したので複数回答の場合もある)。
(1)迂回すると方向や位置がわからなくなる(8人)
(2)迂回部分はホーム始終端と間違えやすい(3人)
(3)構造物の線路側のブロックが無くなるのは困る(3人)
(4)連続敷設は簡潔である(4人)
(5)連続敷設は構造物に触ることができる。触ることで安全を確認する(3人)
(6)連続敷設はホーム縁端からの距離が一定である(2人)
 連続敷設を支持する人の中には、問うていないにも関わらず、構造物にぶつかっても怪我をしないようにクッションなどを設ける対策を要望する人が少なからず存在した。強く要望があった場合については、それぞれの実験者が記録用紙に記録を残していた。記録が残っていたのは6人であった。
 
 方向や位置がわからなくなることを具体的に示す行動指標として、課題1において、コの字迂回箇所でブロックから外れて方向を失認したり、杖で周りを詳しく探ったり、階段へ誘導する場所と間違えたりする行動が確認されたことが挙げられる。これらの行動が確認されたのは13人であり、そのうち11人が連続敷設を支持した。
 
 不支持の理由として以下の2つが挙げられた。
(1)迂回する方向を示して欲しい(1人)*1
(2)連続敷設ではブロックが完全に柱に被われてしまい、ブロックが途切れることもあるので困る。コの字迂回敷設でも困る(1人)*2
 
   *1 この人は、視覚障害者の同僚と一緒に外出することが多く、単独歩行にやや自信がないようであった。課題1ではブロックから外れる行動が観察された。
   *2 この人は、連続敷設、コの字迂回敷設のそれぞれに問題があるという立場であり、どちらか一方を支持しているわけではなかった。
 
 過去に実施した聞取り調査において、内方線がない状態で「連続敷設」と「コの字迂回敷設」のどちらが良いか質問したことがあるので、その調査に参加していた11人の結果を調べた。その結果を表5.8に示す。個別に理由を聞いていないので、詳細は不明であるが、内方線がない状態で「コの字迂回敷設が良い」としていた5人のうち4人が連続敷設指示になったことが注目される。
 
表5.8 
連続敷設に関連する過去の調査における回答と今回の実験における回答の比較(人)
*1 「連続敷設ではブロックが完全に柱に被われてしまい、ブロックが途切れることもあるので困るし、コの字迂回敷設でも困る」と答えた人
*2 迂回する方向を示して欲しいと答えた人
 
 上記の各結果から、以下の結論を得た。
 ホーム縁端の混合ブロックと構造物が干渉する場合の敷設方法として、連続敷設が支持された。なお、構造物に衝突する危険性を考慮すると、連続敷設のルール化においては、衝突した場合でも大事に至らないようにクッションなどを設けることを含んだルールとするか、もしくは、それを付帯事項として明記することが望まれる。







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