VII−2 杉樹皮製油吸着材の微生物分解処理技術の開発
1 開発の趣旨
杉樹皮製油吸着材の特徴は、天然廃棄物である杉の木の皮を原料とする100%天然素材の油吸着材という点であり、かつ従来品並みの吸油性能、価格を実現した点にある。その、製造、使用、処分という製品の生涯における環境負荷はいずれも石油原料製品に比較して小さい。例えば、製造時に使用するエネルギーは、工程が自然乾燥・粗粉砕・縫製とシンプルで熱処理を伴わないために小さくて済む。使用時には、全量回収が原則の油吸着材を万一、回収し損ねた場合であっても吸着材自体が生分解性のため環境に与える影響は小さくて済む。処分時には、焼却の際のダイオキシン類発生は基準よりはるかに小さく(800℃焼却時で0.00049TEQ以下。基準は10TEQ以下)、また発生熱量も石油製品より小さくて済む。
一方、せっかく生分解性を持ちながら焼却処分では十分に特徴が活かされていないという声も多く、さらに環境負荷の小さい処分方法、すなわち微生物活動によって油吸着材を吸着した油ごと分解処理する技術の開発が求められていた。
昨年度に日本財団調査研究事業で行われた「杉の皮を使った流出油回収技術の機能向上と微生物分解処理技術の開発研究」において、ビーカー(約20g規模)、好気発酵処理装置(約20kg規模)、フィールド(数十kg規模)の三種の実験が行われ、ビーカーでの実験は有意のデータが得られなかったものの、中型好気発酵処理装置の実験データでは、比較対象のオガクズに対して2週間後で23%、4週間後で15%まで残留油分が減少していた。また、フィールドにおいては8週間経過後に臭気や蝕感で油分を感知できない程度になっており、油分が微生物により分解されたことを示す結果であると考えられた。
一方、これまで得られたデータはいずれも単発の実験であり、再現性や実験・分析方法の検証が必要なことから、昨年度と同様の実験に加え、新たに小型好気発酵処理装置による油分分解を試みることとした。
2 小型好気発酵処理装置による油分分解実験
(1)実験の方法
目的は、再現性の確認と、最大分解油分濃度を特定することにある。実験で用いる好気発酵装置には以下の点が必要である。
〔1〕閉鎖された空間であること(他の微生物の混入が無い、油分の飛散が無い)
〔2〕微生物活動に必要な温度、湿度を保てること
〔3〕攪拌機能が備わっていること
〔4〕換気機能が備わっていること
以上の点と価格面を考慮し、家庭用生ゴミ処理装置(東芝GO−S20A)を小型好気発酵処理装置として用いた。サンプルは表−VII.2.1に示すように4台の同型の装置で並行して実験を行った。堆肥原料には、ぶんご有機肥料(株)(大分県竹田市)におけるバーク堆肥製造工程の1年経過後のものを使用した。使用油はC重油である。No.1は50000ppm、No.2は100000ppmの油分濃度とし、コントロールとしてNo.3は油を投入しないサンプル、また、No.4はNo.1と同条件のものを、開始時に120℃の乾燥機内で48時間殺菌処理を行ったサンプルとした。
開始時のサンプルの含水率(110%程度)を保持するために実験期間中、週1回、各サンプルの含水率を計測し、不足分の給水(0.7〜2kg)を行った。また、分解の推移を知るために各サンプルにつき、処理槽内の適当な位置10箇所以上から薬匙にて採取し、四塩化炭素抽出重量法で残留油分濃度を測定した((株)住化分析センターに委託)。
なお、家庭用生ゴミ処理装置(東芝GO−S20A)は期待どおりの加温機能が得られず、通常運転だと30〜40℃程度の温度上昇にとどまり、一般的なバーク堆肥製造工程の70℃前後に遠く及ばなかったため、外部に恒温水槽を設け、装置内部が50℃以下に低下しないようにした。
実験期間は、平成15年11月11日〜平成16年1月6日である。
表−VII.2.1 |
小型好気発酵処理装置による油分分解実験のサンプル |
サンプル |
C重油 (kg) |
堆肥原料 (kg) |
総量 (kg) |
油分濃度 (ppm) |
備考 |
No.1 |
0.2 |
3.8 |
4.0 |
50000 |
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No.2 |
0.4 |
3.6 |
4.0 |
100000 |
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No.3 |
0.0 |
4.0 |
4.0 |
0 |
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No.4 |
0.2 |
3.8 |
4.0 |
50000 |
実験開始直前に120℃にて48時間殺菌処理 |
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(2)実験の結果および考察
図−VII.2.1に示すとおり、いずれのサンプルの測定値からも傾向らしきものは読み取ることはできなかった。原因として、
〔1〕油分計測のためのサンプル採取の問題(槽内が均質でない)
〔2〕微生物活動の問題(温度、水分量、加温方法、換気、攪拌頻度、装置規模など)
〔3〕装置間(No.1〜4)の遮蔽の問題
などが考えられる。
すなわち、〔1〕では見かけ容積約10L程度の試験体の10箇所以上から薬匙で油分測定用サンプルの採取を行っているが、この際に油が塊状に集まっている部分を採取したり、逆に油分の著しく希薄な部分を採取したりしている可能性がある。このため、このようなサンプル採取によるデータの変動範囲を検証しておく必要がある。また、表−VII.2.2に示すとおり、実験開始時における油分濃度は理論値と実測値に大きな開きがあり、また、実測値は量であるNo.1とNo.2のとNo.2の差を反映しておらず、このサンプル採取法における問題を表している。
〔2〕については、恒温水槽を使用しても装置内温度は50℃程度にしか上昇せず、一般的なバーク堆肥工場の70℃に比して20℃程度低い状態であった。微生物活動が活発でない結果と考えることもできるが、表−VII.2.3に示すとおり生菌数は、市販の生ゴミ処理装置をしのぐレベルであり、結論を出すにはさらなる検証が必要である。また、装置内温度を70℃に強制的に保つ改善策も考えられるが、必ずしも自然の発酵熱による温度上昇の場合と菌相が同じになるとは限らないと考えられる。
また、この装置では攪拌頻度は30〜90分に2分程度(バー3本による水平軸回転方式)のものであり、換気・攪拌が十分でなく、好気性微生物が必ずしも好気活動を行っていない可能性も指摘されている。
装置の規模が小さいことによる安定性の欠如が原因で微生物活動に良好な環境が与えられていない可能性も検討する必要がある。
〔3〕については、表−VII.2.3のNo.4サンプルの生菌数が示すとおり、開始時に殺菌処理を行ったにもかかわらず、8週経過時には他のサンプルと遜色ない値となっている。これは、各装置の換気機能を通じて近い場所に置かれた他の装置から、No.4装置内に微生物が侵入した可能性が考えられる。
写真−VII.2.1 恒温槽
写真−VII.2.2 小型好気発酵処理装置(東芝GO−S20A)
写真−VII.2.3 装置内部の堆肥原料(サンプルNo.1)
図−VII.2.1 残留油分の推移
表−VII.2.2 開始時における油分濃度(ppm)
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実測値 |
理論値 |
No.1 |
13000 |
50000 |
No.2 |
12000 |
100000 |
No.3 |
200 |
0 |
No.4 |
13000 |
50000 |
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表−VII.2.3 8週経過時の生菌数 [cfu/g wet weight]
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好気性 好熱菌数 |
好気性 常温菌数 |
大腸菌群数 |
No.1 |
2.80×107 |
6.40×107 |
1.20×106 |
No.2 |
4.60×107 |
2.60×107 |
6.40×104 |
No.3 |
4.40×107 |
3.40×107 |
5.40×104 |
No.4 |
1.50×106 |
2.00×107 |
7.72×106 |
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