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VII−1 杉樹皮製油吸着材に関する認証と性能検証
1 国土交通省型式承認取得
 国土交通省型式承認は、船舶安全法、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(海防法)の規定に基づく検査を合理化するための制度であり、油吸着材もその取得対象となっている。杉樹皮製油吸着材の普及を行う上で、ユーザーの製品に対する性能評価の目安ともなるため、昨年度末に技術基準に適合することを示す性能試験を実施した。
 その結果、杉樹皮製油吸着材は自重の9.27〜9.68倍のB重油を吸着し、自重の6倍以上のB重油吸着という基準を満たすなど、全項目で良好な成績が得られたため、製造者であるぶんご有機肥料株式会社から平成14年7月12日付けで型式承認申請が行われた。製造設備等の審査を経て、同9月10日付けで国土交通大臣より油吸着材(型式名「杉の油取り」、第P−577号)の型式承認がなされた。
 
2 波浪中における「杉の油取り」油吸着材の吸油性能と挙動の検証
日時:
平成14年7月30日(火)〜8月1日(木)
場所:
志布志湾コープ・ベンチャー号重油流出事故現場 (鹿児島県大崎町、志布志町、東串良町)
調査員:
海上災害防止センター
調査研究室調査研究員
永島 隆久
 
月野 良久
大分県産業科学技術センター
材料科学部研究員
斉藤 雅樹
 
 同月25日深夜に発生したパナマ船籍の貨物船コープ・ベンチャー号の座礁事故に伴って現場海域に流出した燃料のC重油を、「杉の油取り」油吸着材を用いて回収し、波浪中での挙動を検証する実験を行った。
 初日(7/30)、情報収集と観察によると、船体からは残留するC重油が徐々に流出を続けており、油包囲と回収を兼ねてポリプロピレン製のポンポン型ブームを流出部付近に展張していた。総流出量は積載量と残存量の差から50〜600kLと推定され、流出したC重油は折からの波浪で拡散されて、既に薄い油膜となっていた。油の大半は海岸に漂着し、波打ち際から10〜20mのところに黒い帯を形成しているが目立つほどではない。が、周囲のきれいに見える乾いた白砂を棒切れで掘ると、砂の下から親指大の油塊が顔を出す状況であった。
 二日目(7/31)、油回収作業船に同乗して実験を行った(海上災害防止センター・永島氏)。使用した製品は汎用タイプのマット型が20枚、高粘度油用のオイルフェンス型の1本である。流出油は、船体破断部から徐々に漏出する油が周囲に浮遊している程度で、油膜が一面にある状況ではなく、海面に部分的に油膜が点在している状況であった。「杉の油取り」油吸着材で流出油の回収を試み、浮遊する油膜については問題なく吸着・回収を行うことができた。また、波浪は船体付近で複雑化し波高は数十cm〜1mと幅がある状態であったが、「杉の油取り」油吸着材の挙動は安定しており、波浪中で吸油・回収に支障をきたす現象は観察されなかった。
 この後、少し強くなった風の影響で船体周辺は波が干渉し、波高が1m以上ある状況のため、船体への衝突および作業員の落下の危険があり、実験は中止を余儀なくされた。浮遊している流出油の量が少なく、十分な検証が行えたとは言えないが写真−VII.1.3に示すように油膜が充分にあれば水槽実験と同様な吸油効果があると推察される。引き続き、同様の検証を行うことが重要であると思われる。
 
写真−VII.1.1 座礁・破断したコープ・ベンチャー号
 
写真−VII.1.2 浮遊する流出油(C重油)
 
写真−VII.1.3
使用した杉樹皮製油吸着材 使用前(右)と使用後(左)







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