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VI 自己攪拌型油分散剤の効果的な散布方法に関する調査研究
VI−1 調査目的
 流出油の油防除方法の一つとして油分散剤による処理方法がある。この処理方法は国内外で事故時に多く採用されており、顕著な処理事例として、メキシコ湾カンペチェ、イクストーク1号油田の暴噴事故時(1979.6.3〜1980.3.23、噴出推定量64万kl以上、メキシコ石油公社発表)に固定翼航空機による493回の分散剤原液散布飛行(飛行1000時間)が実施され、一部地域を除いてメキシコ湾の海岸は油汚染から免れることができ、流出油の分散処理が有効であったとの報告がある。
 これら数多くの流出油分散剤処理の事故事例があるが、その分散性能については定量的に計測した事例が少なく、海中における分散分布及び油分濃度の調査結果がほとんどないのが現状である。
 この油分散剤散布等の実海域における分散性能の調査研究については、米国、カナダ、英国等で実施されているが、いずれも海中に浮遊し拡散漂流する油分混合水のサンプル採取位置(幅方向、鉛直方向の採取位置)の設定やサンプル採取時間との関連が適切でなく野外実験の難しさがある。その要因としては、実海域の広さ、海潮流、波浪、海水温、気温、風速等の海象・気象の環境条件の複雑さに加え、計測に必要な航空機、船舶、計測器具、人員等に膨大な物量と費用を必要とすることが挙げられる。
 その他に分散剤の散布方法として原液散布法及び海水希釈散布法とがあり、これら散布法による分散剤の油分散の性能評価については実施されていない。
 一方、実験室規模実験の試験法は、海外を含めるとおよそ40種があり、容器、形状、振とう法及び試験水の多寡等多種多様である。これらの試験法における分散剤の散布は、予め混合法と原液散布法の2通りがある。
 予め混合法は、試験油量と分散剤量との比率を定め、これらを予め混合した混合油を試験容器の海水面に滴下して攪拌する。
 原液散布法は、容器中の海水面に試験油を投入し、油膜が一定となった均一状態の油面上に分散剤を滴下して攪拌する。油量が少ない場合、分散剤を滴下した際にハーディング現象(油と水との界面張力が限りなく0に近くなり、油層を一方向に押しつける)が発生する。この場合は、やり直すことになる。また、ロールオフ現象(油層面から分散剤が水面に流れ落ちる)があり、油面上に均一に分散剤を滴下するのが難しい点が挙げられる。このため分散性能値にばらつきが生じ、再現性が悪い欠点がある。
 このことから、各国の試験法の試験油と分散剤の散布法は、分散剤のばらつきが少なく、再現性の高い安定した性能値が得られる予め混合法が大勢を占めている。
 なお、我が国の分散剤の分散性能試験法である舶査52号及びMDPC法は予め混合法を採用している。
 上述のとおり、実海域実験と実験室との分散性能の相関関係に関しての研究は、海洋の環境条件の複雑さや海水量の違い等により未だ手探りの状態である。
 そこで、本調査研究では実験室実験による予め混合法、原液散布法及び海水希釈散布法の分散性能を調査し比較検討するとともに、自己攪拌型油分散剤の効果的な使用法について調査することとした。
 なお、各散布法による分散性能値を比較検討するための試験法について、様々な実験調査を行ない、それぞれの散布方法による分散性能試験法を3ヶ年に亘り開発し、原油及びC重油を用いて分散性能を調査した。
 3ヶ年の本調査研究の成果を以下に示す。
 
VI−2 試験方法
1 試験法に関する要件の抽出
 分散剤の散布は上述した予め混合、原液散布及び海水希釈散布の3方法がある。
 平成12年度は、この3散布方法による分散性能を評価する試験法を確立するため、過去における当センターの研究実績及び文献等から次の要件を抽出した。
 
(1)油量と投入分散剤量との関係
(2)分散剤量と海水量との関係
(3)攪拌時間
(4)静置時間
(5)原油の自然分散量
(6)海水量と容器との関係
(7)攪拌方法
イ. 舶査52号の縦揺れ振とう法
ロ. 自己攪拌型の横揺れ振とう法
ハ. プロペラ攪拌法
(8)サンプリングの採取法
(9)油分抽出法
 
 更に、試験油量と分散剤投入量について、次の要領で検討し、前述のハーディング現象及びロールオフ現象の発生を抑止した。
イ. 300ml分液ロートに人工海水100mlを入れる。
ロ. 供試原油(アラビアンライト原油)を海水面上に均一な油層厚さとなるよう投入する。調査結果によると原油5ccで油層厚さは1.5mmとなる。
ハ. 原液散布は粒状散布とし、デスペンサー(分注器)による滴下法を採用した。
 この滴下法により原油のハーディング現象を抑止することができた。また、油層厚さが1.5mmでロールオフ現象が発生しないことがわかった。
ニ. 海水希釈散布についても上項と同じ手法を採用する。
 以上により、油層厚さ1.5mmで原液散布あるいは海水希釈による分散剤散布でハーディング現象及びロールオフ現象が発生しないことがわかった。
 
2 各要件の実験方法とその結果
 平成13年度は平成12年度に抽出した要件について実験研究を行った。
 その結果は次のとおりである。
(1)容器
 海水、油及び分散剤の3液体を混合攪拌するため、容器は密閉型とした。また、後述の海水量や振とう回数等による容器内の液体挙動の問題がある。更に、容器内の水面の油層に分散剤を粒子状で滴下するには、ある程度面積が大きく空間を必要とする。以上のことから、市販品の分液ロート100ml、200ml及び300mlの3種について作業性等を調査した結果、油層全域にシリンジが行き届く300mlを選定した。
(2)海水量
 上項で選定した分液ロート300mlを使用して、海水量を100ml、150ml及び200mlをそれぞれ分液ロートに入れて、海水の挙動等を調査した。この結果、海水の挙動は海水量が多くなる程動きが穏やかになる傾向を示した。この現象は容器内の空間の多寡が影響し、空間が大きい程動きが激しい。
 前述のように海水希釈散布法では、海水+分散剤を散布して試験を行うことから、海水量が増すことを考慮して本試験法の海水量は100mlとした。
(3)油量(厚さ)
 分散剤を油面に直接散布(滴下)して開水面が発生しない油層厚さを調査した。調査は前項で決定した海水量100ml(分液ロート300ml)の水面に原油を適宜投入して、その油面に分散剤を滴下して開水面の発生の有無を調査した。
 その結果、少々の振動や水の動きで開水面が発生しなかった油量5ml、油層厚さ1.5mm(油量を分液ロートの海水面面積で割った計算上の厚さ)とした。
 なお、油の投入は5mlシリンジを使用した。
(4)振とう法
 舶査52号及びMDPC法の振とう法は、それぞれ縦揺れ法及び横揺れ法で、容器形状や海水量等が異なる。
 本試験法で採用した分液ロートは舶査52号の100ml容器に対して300ml容器、海水量は50mlに対して100mlと大きく、後述する攪拌回数との関連もあり横揺れ振とう法とした。
(5)攪拌回数及び攪拌時間
 上述の(1)、(2)、(3)、(4)項の決定パラメーターを用いて攪拌回数の予備試験を実施した。予備試験は、原油5ml、分散剤0.2ml、散布率4%で性能値のバラツキを避けるため予め混合で実施した。なお、攪拌時間は、種々実施して比色法により舶査52号の攪拌時間と同じ5分間とした。また、試験は分液ロート2本で実施しそれぞれ50ml中の分散油量を合計した油量を100ml中の残油量とした。
試験結果を表−VI.2.1及び図−VI.2.1に示す。
 
表−VI.2.1 振とう回数・静置時間と分散率との関係
振とう回数
(回/分)
静置時間(分)
1 2 3
100 0.9643 0.8891 0.8715 0.8281 0.7748 0.8079
合計 1.8534(g) 合計 1.6996(g) 合計 1.5827(g)
42.7(%) 39.2(%) 36.5(%)
120 1.0667 0.9929 0.9354 0.9459 0.8849 0.8516
合計 2.0596(g) 合計 1.8813(g) 合計 1.7365(g)
47.5(%) 43.4(%) 40.0(%)
150 1.1532 1.0287 0.8253 0.7628 0.6740 0.6698
合計 2.1819(g) 合計 1.5881(g) 合計 1.3438(g)
50.3(%) 36.6(%) 31.0(%)
 
図−VI.2.1 振とう回数と分散率の関係
 
 振とう回数と分散率との関係は、図−VI.2.1に示すように静置時間1分では振とう回数が多い程分散率が高い。静置時間、2分及び3分では、振とう回数が120回/分がピーク値で150回/分が最も低い分散率を示した。
 この150回/分の低い分散率の要因として、海水量と振とう回数の関係で海水の運動が激しく、油粒を包み込んだ界面活性剤が剥離して静置時間が長くなる程、油粒同士が合一して早く浮上するものと推測される。
 なお、静置時間1分でも同じ現象ではあるが静置時間が短いため、浮上中の油粒子がサンプリングされ分散率にカウントされることにより、高い分散率を示したものと考えられる。
 以上の推察から振とう回数は、各静置時間とも高い分散率を示す120回/分とすることとした。
(6)静置時間
 静置時間と分散率との関係は、静置時間が短い程分散率が高い傾向を示す。しかし、前項で述べたように振とう回数150回/分の静置時間、2分及び3分では他の振とう回数の分散率よりも低い結果が得られた。
 実海域では海面は絶えず動いていること、また、前項の振とう回数120回/分との組合せを考慮して静置時間は3分とすることとした。
(7)サンプル採取量
 舶査52号のサンプル採取量は、全量(52ml)の約60%、30mlで、そのうちの25mlについて油分抽出薬で油分を抽出する。本試験法も同様の比率で採取することとして安定した水中油滴型(粒子径が小さい)の下層から、全量(100ml)の60%、60mlでそのうちの50mlを油分抽出薬で油分を抽出することとした。
(8)油分抽出法
 「工場排水試験法のJIK K 0102」に準拠するが、油分抽出薬はn−ヘキサンに変えてクロロホルムとした。
 
 以上の結果を基に、異なる散布法による分散性能を評価するための試験方法を開発した。







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