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11 散布作業の管理と安全
(1)散布作業の管理
〔1〕司令用航空機
 海上で油分散剤を使用する場合、散布方法のいかんに拘わらず、高価な薬剤の無駄を防ぐために、その有効性について、客観的、連続的な評価が行なわれなければならない。船艇または航空機による散布を有効に行なえるようにするために、上空の航空機から、その作業を指示することが必要である。これには軽飛行機または、ヘリコプターが適当であるが、滞空時間が長く、散布用の航空機、または、船艇、および地上管制センター等との間の通信機能が良好なものでなければならない。
 
〔2〕司令用航空機の役割
 司令用航空機にいくつかの役割を与えることができる。それは、油が最も凝集しているところ、あるいは、最大の脅威を与える油塊を確認する任務、散布用の船艇または航空機に目標を指示する任務、散布の正確度と処理の有効性を判断する任務等に用いることができる。これらの機能は、とくに視界の限定された船艇による散布の場合に重要である。大型機を散布に使用する場合も、低空飛行中の乗員には、油の層と薄い光沢膜の区別が非常に困難であり、とくに、油塊が散乱している場合には、とくに区別しにくいので、上空からの支援が推奨されている。小型機では、パイロットが、この技術についての経験を有していれば、そのパイロットが、一人でこれらの全ての業務を行なうことができる。
 
(2)散布作業の組織及び安全
〔1〕支援体制
 昼間の時間を最大限に活用し、散布操作等を持続するためには、確立した組織が必要である。このためには、装備設備の日常メンテナンスと夜間の物資補充が必要となる。航空機と船艇に対する燃料と油分散剤の補給も確保されなければならない。ドラム缶入りの油分散剤は、小規模作業にはタンクローリー車等から大容量ポンプを用いて補給しなければならない。
 
〔2〕安全な手順
 空中散布の場合、海上を超低空で飛行することは、極端に困難な作業なので交替要員が必要になると見られる。困難な条件下においても、通常の安全のための全ての手順を守らなければならない。船艇で作業する者と支援活動に従事する者は、油分散剤の使用の際の遵守事項を熟知していなければならない。また、特定製品の特別注意事項に関しては、各メーカーと相談しなければならない。
 
〔3〕油分散剤の成分
 油分散剤がこぼれると、作業場、特に船艇の甲板は滑りやすく危険である。漏れこぼれを生じさせないよう取り扱いに十分注意しなければならない。油分散剤には、また、グリースを溶解する成分を含んでいるので、潤滑機構にかからないうよう、とくにヘリコプターの後部ローター機構にかからいよう、また、露出したゴム部品を劣化しないように定期点検することが勧告されている。油分散剤は、塗装に悪影響を与える傾向があり、また、風防スクリーンと窓に用いられている応力のかかった透明アクリル樹脂に微細なひび割れを生じるおそれがある。従って、船艇と航空機には、定期的に清水洗浄しなければならない。清水は油分散剤だけでなく、海水飛沫も除去する。
 
V−2 メキシコ石油イクストックI油井流出油に対する分散剤の空中散布7)
1 概要
(1)暴噴の発生
 1979年6月3日、メキシコカンペチェ湾南部にあるメキシコ石油のイクストークI号試掘井が暴噴を起し、掘削プラットフォーム、掘削パイプを損壊した。
 油は約49mの海底から噴出し、メキシコ湾にひろがったが、分散剤の空中散布によって一部を除いてメキシコの海岸は油汚染を免れることが出来た。
 この油流出事故に関しては、史上初めての大規模な空中散布が行われ、自己攪拌型分散剤を航空機から空中散布して相当な効果をあげたとされている。
 
(2)史上初めての大規模な空中散布
 分散剤を有効に使用した結果、油が沿岸、特にえびの稚魚の移動する重要水域に侵入するものを防止することが出来た。海岸から30〜40kmの水域を脅かす危険な油塊に対する航空機による処理が、沿岸約1600kmにわたって行われた。処理した油の厚さは50〜75ミクロン至0.15〜0.2mmであった。上空から見ると、油の漂う海面は一面白銀のように見え、噴出点付近では黄褐色のエマルジョンであり、又暗褐色の濃厚な塊であったが、その量は1km2に50〜185kl程度であった。これらの油は、4〜6ヶ月海上にあったものも含めて完全に処理された。
 
(3)使用航空機
 ここで使用された航空機はDC−6及びDC−4であり、いづれも以前に分散剤散布の陸上実験が行なわれた際使用されたものである。これらの機体は1回の飛行に11.4klの分散剤を搭載することが出来、今回の作業に当っては5ヶ所の基地から出動し、延べ1000時間493回(DC−6B:425回、DC−4:68回)の飛行を行い、毎回平均5.1km2をカバーしている。分散剤投下量は、1ha(100m×100m)当り18〜37l(平均散布率:19l/ha)、2590km2の海域をカバーし、使用分散剤5,700klであった。
 
図−V.2.1 空中散布の行われた海域
(拡大画面:281KB)
 
2 契約と初期作業
(1)メキシコ石油とコンエアの契約
 エクソンケミカル社は暴噴発生の翌日メキシコシティーにある関連会社から連絡を受け、6月6日、7日の両日メキシコ石油で簡単な打合せを行い、そこでは沿岸の環境被害軽減のための分散剤の使用が検討された。最大の関心事は、海岸から沖合30〜40kmにかけて行なわれているえび漁業であった。この海域はプランクトン状のえびの稚魚が海面近くに浮遊して移動する通路に当っている。空中散布にすぐれた経験を持つコンエア航空が6月7日の会議でメキシコ石油と契約を締結した。
 
(2)初期作業
 最初の契約では分散剤散布用装備のあるDC−6 1機を使用することになっていた。
 契約が行なわれた時点で、コンエアのDC−6Bは出動準備を充分整えており、必要部品の搭載、通常点検を行なった後7日深夜離陸、8日早朝ヒューストン到着、同日8.5klのコレキシット9527を機体内タンクに積載した。また、同日2機のバーキュリーズC−130が各機100ドラムの分散剤を搭載してカンペチェのシウダッド・デル・カーメンに向かった。コンエアの運航、技術責任者もシウダッド・デル・カーメンに8日到着した。6月9日、更に200ドラムが空輸された。エクソンケミカルの技術担当者とDC−6Bは同日正午頃到着し、17:30第1回の散布飛行が行なわれた。そのころエクソンケミカル社及びエクソンUSA社は支援のためのチームを編成し、初期作業の調整、技術援助、原料手配、輸送の促進に当った。







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