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8 散布ノズル
(1)散布ノズルの種類
 液滴の粒径を制御するのに用いる装置には、主として、以下の2方式が用いられている。
 
〔1〕圧力型ノズル
 圧力型ノズル(例えば、スプレーイング・システムの「T型ジェット」、デラバンの「雨滴」ノズル)、これは散布桿に沿って、一定間隔で取り付けられる。(図−V.1.5)
 
〔2〕ロータリー装置
 ロータリー装置(例えば、ミクロンエアのロータリーアトマイザー)、これは、風力によって、円筒型の網かごを回転させる。ポンプで送られてきた薬剤は、網かごによって、必要な粒径範囲の液滴になる。これらは、散布桿、または特性ブラケット(金具)に、より広い間隔を置いて取り付けられている。
 
図−V.1.5
スプレーノズル、作動原理と油分散剤の流れの方向を示す簡単な図面
(拡大画面:40KB)
 
A.
デラバンの「雨滴」ノズル、RA型:流体が接線方向から旋回室に入るのが特徴。
B.
スプレーイングシステムの「T型ジェット」ノズル:大粒径を得るにはストレーナー、旋回板を除く、また、大型機で用いるときはオイルフィス板も除くべきである。
C.
ミクロンエアのロータリーアトマイザー:可変ピッチ型のファン羽根と流体分配器内臓の5インチ網かごが取り付けてある。大粒径を得るためには、小型の3 1/2インチの網かごに取り換えねばならない。
 
(2)油分散剤散布ノズルへの改造
 「T型ジェット」ノズル、ミクロンエアの装置は、デラバンの「雨滴」ノズルと異なり、元来、農業用散布に必要な小粒径の液滴をつくるように、簡単に組み替えることができる。
〔1〕「T型ジェット」ノズルの改造
 「T型ジェット」ノズルの場合、旋回板を除き、開口径、約5mmのオリフィス板を選択する。さらにノズルを気流に平行に、後方に向けて取り付ける。「T型ジェット」ノズルに取り付けてあるゴム製ダイアフラムはポンプを停止したときに、油分散剤の流失を防ぐものであるが、油分散剤に接触していると、急速に劣化するので、頻繁に点検して、交換する必要がある。代替材質で、油処理剤に耐える材質のものは入手可能である。
 
〔2〕ミクロンエアの装置の改造
 ミクロンエアの装置の改造では、3 1/2インチの網かごに、10メッシュの目の粗い金網を取り付ける。さらに、標準型の11 1/2インチ径のプロペラの場合には、ファンの羽根を約70度に変えることで、回転速度を遅くすることも必要である。
 
〔3〕散布用機器使用にあたっての留意事項
 散布用機器は、とくに少量の水が混入すると、ゲルを生じやすい油分散剤を使用した場合、目詰まりを生じるおそれがある。それゆえ、散布用機器の全部品を、定期的に点検し、正しいメンテナンスを行なわなければならない操作担当者は、取り付けと使用方法について、総合的訓練を受け、また、実地訓練も頻繁に行なわなければならない。
 
(3)散布ノズルの使用
 圧力型ノズルとロータリーアトマイザーの両方が、ヘリコプター、農薬散布用単発機、小型双発機で用いられる。圧力型ノズルはまた、ダルラスDC4およびDC6のような大型機でも用いられる。しかし、ロータリー装置は必要な放出量を得るために、多数の装置を用いなければならないので、これらの航空機に適しているとは考えられていない。
 
9 油分散剤の粒径
(1)適切な大きさの液滴の散布
 液滴の大きさ。液滴の大きさは、油分散剤の効果に対して多大な影響を及ぼすが、これを制御することは容易ではない。一部の調査によれば、液滴の大きさが油層の厚さよりも大きい場合には、分散剤は油層と混合しないまま油層を通り抜けてしまうことが示されている。このような場合は、液滴を大きくしても効果は減少するだけである。だが液滴が大きい場合には、散布目標の油層から逸れてしまう可能性は少ない。これが効率の点で重要な要素であることは確かである。適切な大きさの液滴を散布するということは、空中から散布する場合にはとくに重要である。液滴の落下距離が長いため、液滴が小さい場合にはその多くが風で流されて損失してしまう可能性があるからである。
 
(2)液滴の大きさと粘度
 液滴の大きさは、散布する分散剤の粘度、揮発性、濃度および表面張力によって変化する。このうち、最も重要な物理的特性は、粘度である。油分散剤の粘度が小さくなると、液滴の直径の中央値も小さくなる。液滴が小さくなりすぎて、散布する分散剤が霧のようになり、散布目標から遠く離れた地点まで風で流されてしまうこともある。炭化水素溶剤をベースにした油分散剤で、粘度が5〜25センチストロークのものについては、空中散布は勧められない。表面活性剤の含有量がこれよりも多い分散剤は、粘度が30〜60センチストロークである。したがってこれらは、ヘリコプターや小型の固定翼飛行機を使って、わずか30フィート(9メートル)の高さから、対地速度87ノット以下で散布することができる。すなわち、油分散剤の粘度が60cSt以下の場合には、航空機の速度は87ノット(時速160キロ)を超えてはならない。速度がこれ以上速い場合は、スプレー・ノズルのチップは不要になる。散布される処理剤の粘度が60cSt未満であれば、ノズル部分での風のシヤーによって、分散剤の直径が約350μm以下の小さな液滴に砕け散るからである。
 表面活性剤の含有量がさらに多い自己攪拌型油分散剤の場合は、粘度が60センチストロークを超えるため、航空機の速度を上げれば散布できるが、それでも散布する際の推奨高度はわずか50フィート(15.2メートル)である。一般に、粘度が30センチストローク未満の油分散剤については、空中からの散布は勧められない。
 
(3)空中散布する液滴の大きさ
 空中散布テストでは、液滴の大きさが100ミクロン(μm)の場合には、風で流されてしまうため、油層に効果的に散布できないが、500μmの場合には油層上に散布できることが示されている。(1ミクロン=1ミリの1000分の1)空中から散布する場合は、液滴の大きさを350〜500μmにすることが有効と思われる。ただし、液滴の大きさを300〜1,000μmとすることを推奨する実験者もいるため、これらの数値は実施の際の一般的な範囲として考える必要がある。
 
(4)液滴の大きさと差違速度
 液滴の大きさを、空中から散布する段階で制御することは容易ではない。液滴の大きさは、対気速度や分散剤の流量、および散布のズルのサイズで制御することができるが、液滴が大きな場合には、気流によってこれが砕けてしまう。したがって対気速度および気流によって、液滴の大きさに影響を与えるはずの他の要因の影響が無効となってしまう可能性もある。
 実際には、差違速度(differential velocity)、すなわち航空機の速度から液体が排出されるときの速度を引いた速度が、液滴の大きさに影響する最も重要な要因であり、したがって大型機で散布する場合の効率に影響する最も重要な要因なのである。AIPおよびExxon Chemical Companyが実施したテストでは、この差違速度が秒速64メートル(124ノット)を超えると、油分散剤の効果は急速に低減することが示されている。油分散剤の粘度が小さくなったり、差違速度が増大したり、ノズル部での風のシヤーが増大するなど、液滴を大きくするような要因があれば、分散剤散布の効率および正確さは低減する。
 
(5)空中散布にふさわしい液滴の大きさ
 つまり一般的には、分散剤の液滴は、風に飛ばされて油層に到達しないほど小さくてはならず、油層を通過して沈んでしまうほど大きくてはならないことが要求されているのである。水上の船舶から散布する場合に、こうした適切な大きさの液滴を得るためには、ノズルのサイズがとくに重要になる。ただし大型航空機の場合には、ノズルのサイズにかかわらず、航空機の後ろ側に発生する風のシヤーにより、分散剤が理想的な大きさの液滴に分割される傾向がある。最終的には、計画の初期の段階において小規模な実験をおこない、実際の作業を開始する前に、空中散布にふさわしい液滴の大きさを定めることが望ましい。
 
10 空中散布の際に考慮すべき事項
(1)油分散剤の逸失を最小限にする
 風による吹送流、および空気の乱流による油分散剤の逸失を最小限にすることが必要である。大粒径の液滴にすることは、この点で役に立つが、さらに、航空機は可能な限り低空を飛ぶべきである。航空機の大きさと、作業条件にもよるが、通常、高度5−15mが用いられる。見馴れた基準点がない海上での高度の判断は困難であり、一部の航空機、とくに、大型機は電波高度計を備えて、超低空飛行時の操縦を容易にしている。散布は風に向かって飛行しながら行なうことによって、風によるドリフトをさらに抑制することができる。風上に向かって飛ぶことは、通常、どんな場合でも必要である。浮遊油が風の方向に伸びて、薄い光沢膜の領域や油面のない海面をはさんだ「リボン状の潮目」になる傾向があるからである。
 
(2)装置の較正試験(キャリブレーション)
 航空機と散布システムの特定の組み合わせについて、油分散剤のロスを評価し、有効な散布率を確認するために、計画段階でキャリブレーション(較正)試験のために、実際の散布飛行に模した試験飛行を陸上で実施することが望ましい。このような試験を簡便に実施するのには、飛行場で予想散布幅全域に、試料採取板を置く方法がある。それにより、散布率と粒径分布等の解析を行なうことができる。この試験により、散布幅全域で最も均一なパターンとなるように、ノズルの位置と間隔の最適化を図り、プロペラの後送流、および、翼端下流等の影響の補正を行なう機会が得られる。







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