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第23回国際水槽会議(ベニス)報告
試験水槽委員会
1 会議概要
加藤洋治(東洋大)
 第23期の国際試験水槽会議(International Towing Tank Conference, ITTC)の本会議は、平成14年(2002年)9月8〜14日の間、イタリア、ベニス市で開催された。会場は当初市内でという計画であったが、費用節約のため、ベニス市の一番東のはずれにある海軍大学校(Scuola Navale Militare、“F. Morosini”)で開催された(写真1)。海軍大学校ということで、なかなかいい雰囲気であったが、本会議場に当てられた講堂は視聴覚機器がいま一つで、良くも悪くもイタリア的であった。
 ベニスでの開催ということで何時にも増してご夫人の参加が多く、ソシアルプログラムも盛り沢山であったが、「ホテルが高くて」という声もあり、話題の多いITTCであった。表1に参加機関数(参加人数は現在のところ不明)、表2にプログラムを示す。日本からの参加機関数は18で他の国に比べて飛びぬけて多い。
 今回のITTCで特筆すべきことはOcean Engineering Committeeの復活である。6年前の21期の総会の時、それまで常設の技術委員会が中心であったものを、4つの常設技術委員会と、原則として1期3年の特設技術委員会(10程度、期によって異なる)に分ける大改革をした。その時、Ocean Engineering CommitteeもSeakeeping Committeeと一緒になり、Loads and Response Committeeとなった。
 ITTCとして今後目指す分野として、やはり海洋があるのではないかという日本の主張が通って、今回の復活となった。また海洋環境についての特設技術委員会も設けられることとなった。
 
写真1 会場となった海軍大学校
 
表1 第23回国際水槽会議の参加機関数
Geographic
Area
Countries
included
M. O.
Attending
Total
M. O.
Americas Argentina - 1
Brazil 1 1
Canada 2 3
U.S.A 9 14
subtotal 12 19
Central Europe Austria 1 1
Belgium 1 2
Germany 6 7
Netherlands 2 2
U.K. 4 7
subtotal 14 19
East Asia China 8 9
Korea 7 7
subtotal 15 16
Northern Europe Denmark 1 1
Finland 2 3
Norway 1 1
Poland 1 3
Russia 1 3
Sweden 2 2
subtotal 8 13
Pacific Islands Australia 1 1
India 1 4
Indonesia - 2
Japan 18 20
Malaysia 1 1
subtotal 21 28
Southern Europe Bulgaria 1 1
Croatia 1 1
France 2 5
Greece 1 1
Iran - 1
Italy 5 6
Portugal - 1
Romania - 1
Spain 2 2
Turkey 1 1
subtotal 13 20
Total 83 115
 
表2 第23回国際水槽会議プログラム
(拡大画面:110KB)
 
 3年後にイギリス・エジンバラで第24期総会を行うことを決め、第23期ITTCは7日間の幕を閉じた。
 
2 理事会(Executive Committee)
加藤洋治(東洋大)
 ITTCの最高の議決機関は3年ごとに開催される総会である。しかし総会での議決はご多分にもれず、ほとんど形式的なものである。これに対し理事会と評議会が人事や運営を実質的に決めている。評議会(Advisory Council)は英語名が示すように、総会や理事会のアドバイスをする役割を果たすという趣旨で設立された。このため決定権はなく、総会での提案はすべて理事会が行うという建前になっている。
 理事会は6つの地域の代表の理事6名と議長、計7名で構成されている。6つの地域の構成国は表1に示されている。議長はその期の開催国から選出される。第23期はイタリアINSEANのGrazioliが務めた。任期は最長2期6年であるが、最近はいろいろな理由で交代が多く、6年務めたのはアメリカのBeck教授と小生のみであった。
 一方、評議会委員はそれぞれの機関の代表の集まりであるため、10年、20年と長く務める委員が多い。また委員数(加盟機関数)も多いため、最近では実質的な審議は評議会で行われ、理事会はそれを追認するだけということが多い。唯一の実質的な審議は人事に関することである。もっとも理事会理事は全員、評議会に参加しているから、あまり不満がないのかもしれない。
 理事会は総会の期間中、2回開催された。イランのシャリフ工科大学のITTC加盟と、24期技術委員会委員の人選が主な議題であった。24期の理事会・技術委員会委員については、6章に述べている。
 
3 評議会(Advisory Council)
木下 健(東大)
 総会会期中の9月8日と12日にAdvisory Council(AC)が開かれた。会期中とあって、AC32機関の全機関の代表が出席した。新たにイランのSharif University of TechnologyのITTCメンバー研究機関としての参加を理事会(EC)に推薦することとした。懸案であったITTCの常設のinternet web site(http://ittc.sname.org)がSNAMEのweb siteの中に設けられた。今後、順次、このwebsiteに第8回以降のproceedingsを貼りつけることにした。多くの技術委員会から提出されたITTC標準手順がQuality Control Groupへの提出が大幅に遅れ、さらにISO標準やITTCのSymbols & Terminology Listに準拠しておらず、次回に課題を残したことが報告された。次期の常設委員会、専門委員会、グループ案をECに上申することとした。24期のAC副議長に土岐直二博士(三菱)を選出した。今期に議論してきたITTC参加費について、ECとACの幹事は各委員へ提案内容を次回委員会(2003年9月)の1月前までに送付し、次回委員会で議論することとした。最後にWillem van Berlekom氏(SSPA)を23期に引き続き24期のACの幹事に決定した。24期のAC議長はMurdey氏(IMD)である。
 
4 技術委員会およびグループ討論(Technical Committees and Group Discussions)
4.1 常設委員会およびグループ
Resistance Committee
児玉良明(海技研)、日下祐三(三井昭研)
 本委員会の委員9名のうち出席した7名を代表して委員長のF.Stern教授(米国Iowa大学)が、与えられたタスクに基づき、1)抵抗分野の流体現象のモデリング、2)実験流体力学の動向、3)CFDの動向、4)船の曳き波とウォッシュ、5)曳航水槽実験における不確かさ解析:船の姿勢と波形、6)CFDにおける不確かさ解析、7)実船外挿法の不確かさ解析について発表を行った。これらの詳細については、本誌本号の児玉の報告を参照されたい。1)については実船実験データが少ないことが問題であること、5)については実施を容易にするためスプレッドシートがQuality Manualの形で提供されたこと、6)については2000年にエーテボリで開かれたCFDワークショップの結果を基に更新すべきであること、7)については第1歩であり摩擦式についての議論をすべきであることなどが説明された。討論では、CFDの不確かさ解析に関して更新されたQuality Manualに依然として問題があること、曳航水槽試験における計測誤差の大きさ、CFDに基づく船型最適化の実用性、新しいペイントの粗度計則法などRoughness関連、などが取り上げられた。
 本委員会は第24期も引き続き活動を行うことになり、9名中5名が新委員に交替した。ベニスでの会議最終日に、新委員長のCampana博士(INCEAN)以下、代理を含め新委員6名が会合をもち、年内に第1回会合を開催することで合意した。なおその後、第1回会合は12月9日、10日に、新委員長のお膝元のローマで開催することになった。そこでは、セクレタリを選び、各委員のタスク分担を決める予定である。なお、新タスクは、1)実験流体力学の動向:光学的計測法等、2)実験流体力学における不確かさ解析:計測精度の向上を目指して、3)CFDの動向:実船状態、自由表面等、4)曳航水槽試験における不確かさ解析:実験設備間のバラつき、5)CFDにおける不確かさ解析:実例に基づく改良、6)船の曳き波とウォッシュ:遷移臨界状態および超臨界状態、の6つである。
 
Propulsion Committee
白勢 康、増子 章(IHI)
 Propulsion Committeeの報告は9月10日の午前中に行われ、委員長のS. Jessup博士(米国テイラー水槽)より以下の9つのタスクについて報告された。(1)推進関係の研究のレビュー、(2)ITTC推奨手順書のレビュー、(3)Azimuthing推進器の性能推定法、(4)新しい手順書等の必要性明確化、(5)推進器の受動的要素の尺度影響レビュー、(6)推進器の数値的設計・解析法のレビュー、(7)プロペラ―舵干渉の実験技術・解析法のレビュー、(8)推進器の流力弾性現象の解析・実験法のレビュー、(9)文献集の更新。
 (1)ではSurface Piercing Propellerの試験に関する標準手順書が必要なこと、一軸メガコンテナ船の推進、ポッド推進試験の問題点等が説明された。(2)では模型スケールキャビテーションテスト、キャビテーション発生の記述について、ITTC推奨手順書が見直された。(3)に関しては各機関での試験法がレビューされ、ポッド推進器の試験法および外挿法に関する暫定的な手順書が作成された。(4)ではキャビ試験における模型プロペラの精度検定に関する指針や後進性能予測法、平板摩擦抵抗式、形状影響係数の決定法、エーテボリ2000ワークショップでのCFDによる形状影響予測結果等がレビューされた。平板摩擦抵抗式に関してGrigsonのFriction Lineが推奨されたが、議論のあるところであろう。(5)についてはスクリュープロペラ、推進器付加物の尺度影響、RANSを用いたスケーリングが扱われた。(6)では揚力面理論、境界要素法、RANS等の適用状況のほか、特にAzimuthing推進器、ポッドプロペラに対するCFD技術がレビューされた。これらのほか、Twin-Skeg船型の実船有効伴流率推定に関する討論があった。
 本委員会も第24期引き続き活動を行う。メンバーは1名を除き全て新委員で、総員9名となる。次期のタスクは、(1)模型プロペラ形状の精度に関するITTC手順書の作成、(2)推進器のコンピュータを用いた設計法および数値解析のレビュー、(3)副次的な推進器(Tunnel、Azimuthing、Dynamic Positioning Devices等)の設計および性能に関するレビュー、(4)曳波および浅海域での推進器に関するレビュー、(5)有効伴流、キャビテーション、推力減少率等に関する数値解析法のレビュー、(6)メガコンテナ船の推進器に関するレビューとなっている。
 
Manoeouvring Committee
芳村康男(北大)
 本技術委員会の報告は5日目の9月13日(金)の2番目のセッションで、A.H. Nielsen(DMI)の司会のもとで行われた。メンバーは主査のS. Cordier(フランス)、セクレタリーのM. Vantorre(ベルギー)を中心にB. Petersen(デンマーク)、K.P. Rhee(韓国)、P. Trgrdh(スェーデン)、M. Triantafyllou(USA)及びその代理のF. Hover(USA)、Z.J. Zou(中国)、そして日本から長谷川(阪大)、その後任の平野(三井昭島)があたった。
 本委員会は上海での前回総会における初回会合後、MIT、パリ、SSPA、三井昭島、DMIにおいて計5回開催され報告書が作成された。この内容について主査のS. Cordier、続いてM. Vantorreから概要説明がなされた後、Written Contribution(2件)及びOral Discussion(3件)の討議が行われた。
 報告は、まずTaskの確認を行い、日本のRR74を含む各国の操縦性に関する研究グループの活動の紹介を行った後、最近の研究成果について、1)操縦流体力の推定、2)操縦運動のシミュレーション、3)模型試験技術、4)実船操縦性試験及びバリデーション、5)AUV(自航潜水艇)の操縦性、の5項目について研究成果と技術の現状について示された。これらの詳細については多岐にわたるので省略させて頂くが、1)の操縦流体力や2)の操縦シミュレーションでは従来よりもCFDに対する期待の高さが前面に出され、報告の結論においても、プロペラ・舵を含む粘性流体のCFD計算が今後益々広まるとし、シミュレーションでは更に非定常CFDの発展が期待されるとしている。また今回特にIMO操縦性基準に関して、応答モデルをベースとして針路安定指数の操縦性に及ぼす影響の検討を行ったことが示された。3)の模型試験については、今回あまり目新しい手法はなく、自由航走模型試験に関して各機関の手法を把握すべくアンケートを行った結果が紹介された。標準実験手法としては、拘束模型試験ではPMMだけでなくCMTについても確立が必要であり、自由航走模型ではEsso Osaka以外のバリデーションデータも必要としている。4)の実船試験ではIMOの操縦性基準に関連して、日本と韓国で貴重なデータが収集されたこと。またこの基準に関連して、設計段階でより正確な実船操縦性の推定、載荷状態の違いの修正、波・風等の外乱影響の修正を確立することが重要としている。また、5)の潜水艇の操縦性能の推定においては水上船と同様なアプローチが必要としている。
 以上の報告に対して2件のWritten Contributionがあり、貴島(九大)は設計段階の操縦性推定精度にはなお問題が多く、早急に上記4)の結論をITTCとして行うべきこと、及び藤野(東大)は浅水・制限水路の操縦性推定において流体力のメモリー影響検討の必要性についてコメントされた。また、Oral DiscussionではAUVのPMM手法の問題、浅水域の船体沈下(squat)の標準推定法の必要性等が議論された。
 なお、次期の本委員会はB. Petersenを主査として、K.P. Rhee(韓国)、P. Trgrdh(スェーデン)が留任し、新任としてF. Stern(USA)、A.C. Hochbaum(ドイツ)、Z.Y. Liu(中国)、P. Perdon(フランス)、M. Landrini(イタリア)、および著者の9名が務めることとなった。
 
Loads and Responses Committee
小寺山亘(九大)
 The Committee of Load and Responseの報告は第4日目の午前中10時45分から90分に渡って行われた。会場は会期の後半であったにもかかわらず、多くの聴衆を集め、関心の強さを窺わせるものであった。委員長の小寺山教授、九州大学が報告の全体部分の説明を行い、委員会セクレタリーのProf. Johan Jounee、Technical University Delftと委員のDr. Timothy Smith、Naval Surface Warfare Center(David Taylor Model Basin)が委員会提案のNew Procedures(“Validation of Seakeeping Computer Codes in the Frequency Domain”と“Floating Offshore Platform Experiments”)の紹介を行った。
 日本水槽委員会としてワーキンググループを結成して、慎重に調査して提案した“Procedure for Seakeeping Experiments”と“Procedure for Prediction of Power Increase in Irregular Waves from Experiments in Regular Waves”の大幅修正案は両方とも異議無く採択された。さらに1996年の第21期ITTCでOcean Engineering CommitteeとSeakeeping Committeeが統合され、22期、23期と続いたLoads and Responses Committeeは元の2つの委員会に分解され、基の形に復帰することになった。これは主に日本水槽委員会からの強い要望に基づくもので一つの成果といえる。しかしながらこれらの委員会活動には日本としては特別の責任を負ったとも言える。
 次期ITTCにおいては、Seakeeping CommitteeとOcean Engineering Committeeには、当該分野における実験法、計算手法のレビューといったルーチンの仕事以外に、以下のようなtaskがそれぞれ課された。
Seakeeping Committee
・耐航性計算コードのvalidation手法の確立
・船体構造の特性を考慮にいれた、船首・船尾スラミング、海水打ち込みなどに関する実験及び数値計算の標準的手法の確立
・whipping荷重を求めるための標準的実験手法の確立
・パラメトリックローリングのリスクと大きさに関する推定手法の確立
・運航限界基準のレビュー
Ocean Engineering Committee
・浮体運動計算コードのvalidation手法の確立
・ライザーや係留システムの付加された浮体の横揺運動の推定法のレビュー
・渦励振(VIV)に関する研究動向の調査とVIVを伴うシステムのモデル化手法の提案
・浅水域を対象とした水槽試験における波スペクトル、応答の非線形性、係留のモデル化などに関するガイドラインの設定
・短波頂不規則波スペクトルの計測法、精度、解析法、検証法などに関する標準的手法の提案
・100年に1度の極限海象における非線形影響のモデル化に伴う不確定性の評価のための、水槽試験・数値計算・理論的考察・実海域データの比較検討
・波のモデル化とシミュレーション手法のレビュー
 水槽委員会としてSeakeeping Committeeに推薦した影本 東京大学教授は委員長として、さらに柏木 九州大学教授は委員として承認された、またOcean Engineering Committeeに推薦した肥後 広島大学助教授も委員として選ばれた。
 23期に引き続き24期も日本造船学会水槽委員会として、これらの委員に対する力強い支援をお願いして、報告を終わります。
 
Quality Systems Group
土岐直二(三菱重工)
 23期のQSGは、(1)22期に発行されたRecommended Procedure集を拡充し改訂する、(2)Benchmarkingに関するRecommended Procedureを作成する、(3)計測器の検定手順について調査する、という三つのTaskを推進した。
 Recommended Procedureの拡充・改訂については、殆どのRecommended Procedureが新たに拡充・改訂されたと言っても良く、新たに大Volumeが発行された。22期は「QSG委員長が強烈な指導性を発揮して推進してきた」という状況であったが、これが23期末にて一段落し、今後は各技術委員会の活動が主体となる(より正常な)状況に移行して行くと期待される。Benchmarkingに関しては具体的な記述が難しく、哲学的なRecommended Procedureが作成された。データ等を交換してBenchmarking Studyを行う際のGeneral Rule(参加各機関の権利保護の面で留意すべき事項など)が書かれているので、そうした活動をリードされるとか参加される場合には、参照されると良い。
 計測器の検定手順に関しては、当初「我々が使っている1m、1kgの精度は幾らかといった、計測基盤に関する調査だ」と聞いていたが、ノギスやマイクロメータの検定手順といった計測器メーカーの仕事について中国の基準を英訳したものが発行されただけであった。
 来期のTaskとしては、(1)Recommended Procedure集を拡充し改訂する、(2)専門用語と標準記号のリストをISO31にしたがって改訂し、データベース化する、(3)計測器の検定手順を拡充し完成させる、(4)各技術委員会が実施するValidation workを支援する、が与えられている。







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