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利用から癒しへ
 援助者がクライアントを利用することは誤りです。それは、援助者のニーズを患者との援助関係を通して満たしてしまうことになってしまうからです。
援助者のニーズ:
 アメリカでの調査結果ですが、援助職といわれる職業についている人の性格的な特徴は、他の職業についている人々と比べると依存的だということです。つまり自分から能動的に人間関係を築くのが困難だというのです。
 では、そのような人が援助者の役割を担ったとしたらどうなるでしょうか。クライアントを現実から分離させ、そして過度に自分に依存させることによって、自分のニーズをその援助関係の中で満たしていくことになってしまいます。これが利用ということであって、そこからは癒しのかかわりは生まれてこないのです。
 どうしたらいいかというと、援助者自身にも、そして援助そのものにも限界があるのだということを、かかわりの中で教えていく必要があります。
援助者にも限界がある:
 よく質問されるのですが、「毎夜、電話があるのですがどうしたらいいのでしょうか・・・」。断るのがとてもむずかしいというのです。そのとき、その人が求めているすべてを与えたとするとどうなるでしょうか。それは自己充足的、つまり他者がクライアントのニーズを必要以上に満たしてあげることによって、患者さん、もしくはクライアントが自己充足的な偽りの万能感の中に逆戻りしてしまうようになるのです。このようなかかわりからは、スピリチュアル・ケア・サイクルの中に入ることはできません。もちろん、危機的状況の中では、自分のスケジュールを無視しても援助しなければならないことはあります。しかし、普段の生活の中で援助を求められたときに、自分にも限界があるということをそうしたかかわりの中で少しずつ教えて、トレーニングしていく必要があるということです。あるいは、援助者はすべての問題に解答をもっているわけではないということをわからせていくのです。いろいろなことを聞いてくるでしょう。しかしその中にも自分にもわからないことがあるということを通して、限界があるということを示していくことによって、クライアント自身が自分の責任でしなければならない部分があるというものもわかっていくのです。それから、援助者にもどうしたらよいかわからないことを示していくことで、クライアント自身の限界も受容していくことも可能となっていきます。
 つまり、援助者にも限界があるということで、クライアント自身も傷ついたり弱ってもよいのだということが受け入れやすくなるのです。
答えは機械的でない:
 癒しの関係の中でいつも私が感じることは、スピリチュアル・ペインということは「1+1=2」、「5−3=2」であるというような意味での答えはなかなか出てこないのだということです。もちろん、そういう形で答えが出てくれば問題はないのですが、そうではないことがあまりにも多いのです。そのときに、援助者は必ずしも答えを与えなければならないわけではないという前提でかかわっていく必要があるのです。
 私は、カウンセリング講座の中で、自分というものに対して正しい確信をもっていると、つまり、自己充足ではない自分を受容しているときに、「ノー」と言えるようになるということを強調します。援助者にとっていちばん言いにくい言葉は、「ノー」、つまり「わかりません」、あるいは「できません」ということです。しかし、このことが言えないと、癒しの関係を築くことはできません。
 癒しの関係は、“分離”“依存”“利用”ではなくて、直視し、そして現実の中でどう対応できるかということを援助し、援助者にも限界があるのだということをかかわりの中で示していくことから始まるのです。もちろん、そのようなプロセスで必要なことは、その人への十分なサポートです。これがないとクライアントはスピリチュアル・ペインに立ち向かうことは困難です。十分にサポートされているという実感をもつことができると、直視でき、また現実の中で対応することが可能となり、さらに自分の限界も受け入れることができるようになるのです。
 これらのバランスをどのようにとるかということは、癒しの関係を築くのに不可欠です。これは容易にとれる姿勢ではありませんが、援助者にとっては重要な資質です。今日は詳しくお話しできませんが、そのようなことを意識しながら、援助者としてケアをしていただければ幸いです。







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