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介護は学び
 「介護」は「学び」なり。そう考えれば、起こることすべてが介護する側にとっての学びとなる。こう思えば、親の面倒をみられてありがたい、と考えられる。−坂口久美子
 
 痴呆になった実母と暮らす福岡市の坂口久美子さんは、自分の介護体験を『超人バッキー らくらく介護への道』(NECメディアプロダクツ)にまとめました。
 最期まで「私たちの母」として看取りたいと引き取りましたが、介護は知らないことだらけ、とまどい、怒り、不安が次々と押し寄せてきました。
 薬剤師という職業柄、故金子卯時雨先生の創健理論を勉強していたので、その理論である「活きるための条件」を介護に生かすことにしました。それは「活きるためには、(よい)環境のなかで、生活体が、神経や心を働かせながら、呼吸をし、水を飲み、食物を食べ、動いていなければならない」というものでした。
 介護とは自分自身の外に出て、苦しんでいる存在と一体になることです。時には、相手から“乱れ”を突きつけられ、自分も揺らぐ行為でもあるのです。
 これが支配−従属の関係におちいらず、おたがいの自由の放棄に向かわずにすむためには、どうすればいいのでしょうか。
 おたがいに共存していくためには、そこに想像力や判断力のはたらきが必要となってきます。
 ほんらいケアは、「私」を「他者」のなかでよみがえらせる営みでもあります。「私」は「他者」との関係のなかで人間になるのです。しかし現実には、「他者」と「私」の間には巨大な暗闇(不条理)が横たわっています。それはまた一人ひとりの人間の弱さと呼んでもいいでしょう。
 弱々しくいろんな苦しみにおちいりやすい私たちに必要なのは、生き死にの指針です。そのために自分の衝動、夢、欲望、嗜好、善悪観、意志などについての学びが求められています。
 「痴呆」とは、「ぼけ」「ぼやけ」というフィルターで覆い隠された、人である。
 
 これは長い介護体験から坂口さんが発見した言葉です。
 坂口さんは家族、介護を支えてくれる仲間とのつながりのなかで社会性を取り戻す実母をみて、次のようにのべています。
 
 いつも笑ってみよう。思っていることをさらけ出してみよう。こだわっていることを、手放してみよう。逃げてもムダ。
 そして、肉体的・精神的に老いて「助け」を必要とする親に、もっと耳を傾けて。
 
 介護をやってみることで坂口さんは、また新たな視野が広がったといいます。
 生きていることは学ぶこと、学ぶことは生きていること。これを坂口さんの介護体験は教えてくれています。







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