日本財団 図書館


寄り添うこと・折り合うこと
理不尽な死と折り合う
 人間は死ぬ。この厳粛な事実から、誰ひとり逃れることはできません。そして、たいていの場合、理不尽な理由によって人間は死んでいくのです。
 実際に、あなたの家族や親しい友人が死に直面したとき、どのように対応すればよいのでしょうか。誰にも確実にやってくる死に対して、私たちはどこかで折り合っていく必要があるのではないでしょうか。ただし、この折り合ってというのは、たんなるあきらめではありません。
 医学史の立川昭二さんは、『病いの人間学』(筑摩書房)のなかで「『折り合う』ということは、闘うのでもなく、あきらめるでもなく、重ね合って溶け合うことである」とのべています。
 私たちは、子どものころから苦悩に打ち勝つこと、乗りこえることが大事だと教えられ育ってきました。しかし、なかなか解答の見えない苦しみや悲しみに対して、それらと和解し、折り合っていく知恵も必要ではないでしょうか。
 生きるうえでの悲しみと喜び、苦しみと幸せは正反対の場所にあるのではありません。このような正反対のものを折り合わせ、重ね合わせ、そして、溶け合っていくところに生きる深さがあるのです。
 
「一日一話」の永遠の絆
 ショートショートの作家、眉村卓さんは、2002年5月、愛妻、悦子さんを亡くしました。67歳。がんという病魔と闘った5年間のことが話題になりました。
 病気に苦しむ悦子さんを励まそうと、卓さんは「一日一話」のショートショートを書き、病床で読んで聞かせました。
 病状が悪くなると、つとめて明るい話。体調の良いときは、ひねりをきかせた話。「一日一話」は、悦子さんの病状と卓さんの心境との合作でした。
 人間の生命には、生物学的生命と精神的生命の二つがあります。生物学的生命の絆は時に限りがありますが、精神的生命の絆は永遠です。
 卓さんが悦子さんのために書いた1778話のショートショートは、永遠の絆として残り、多くの人びとに読み継がれていくことでしょう。
 
苦悩との和解
 このように、愛する者の死に際しては、ぴったりと寄り添い、そこにいることが何よりも大切です。
 寄り添い、同伴することによって、死にゆく人と看取る人の双方が“目前の死”と和解していくことができるからです。
 緩和ケアと取り組んでいる鹿児島市の堂園メディカルハウスでは、人生の最期の舞台にふさわしい美的空間づくりにアートを取り入れるなど、さまざまな工夫をこらしています。そして、患者に寄り添いながら、家族を含めた心のケア、あるいは魂のケアをめざしています。
 死にゆく人と看取る人の双方が、死と和解していく光景に立ちあってきた医師、堂園晴彦さんは、次のような詩を書いています。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION