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中山間地域等直接支払交付金実施要領
 
第1 趣旨
 中山間地域等は流域の上流部に位置することから、中山間地域等の農業・農村が有する水源かん養機能、洪水防止機能等の多面的機能によって、下流域の都市住民を含む多くの国民の生命・財産と豊かなくらしが守られている。
 しかしながら、中山間地域等では、高齢化が進展する中で平地に比べ自然的・経済的・社会的条件が不利な地域があることから、担い手の減少、耕作放棄の増加等により、多面的機能が低下し、国民全体にとって大きな経済的損失が生じることが懸念されている。
 このような状況を踏まえ、食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号。以下「新基本法」という。)第35条第2項において「国は、中山間地域等においては、適切な農業生産活動が継続的に行われるよう農業の生産条件に関する不利を補正するための支援を行うこと等により、多面的機能の確保を特に図るための施策を講ずるものとする。」とされたところである。
 このため、耕作放棄地の増加等により多面的機能の低下が特に懸念されている中山間地域等において、担い手の育成等による農業生産の維持を通じて、多面的機能を確保する観点から、国民の理解の下に、以下に定めるところにより、中山間地域等直接支払交付金を交付する。
第2 直接支払いの基本的考え方
1 基本的考え方
(1)生産条件が不利な地域の一団の農用地(農地又は採草放牧地をいう。以下同じ。)において、耕作放棄地の発生を防止し、水源かん養、洪水防止、土砂崩壊防止等の多面的機能を継続的、効果的に発揮するという観点から、既存施策との整合性を図りつつ、対象地域、対象者、対象行為等を定める。
(2)交付金の交付は、生産性の向上、付加価値の向上等による農業収益の向上、生活環境の整備等により、生産条件が不利な地域における農業生産活動等(農用地における耕作・適切な農用地の維持・管理及び水路、農道等の維持・管理をいう。以下同じ。)の自律的かつ継続的な実施が可能となるまで実施する。
2 推進上の留意点
(1)国民合意の必要性
ア 直接支払いは我が国農政史上例のないものであることから、広く国民の理解を得るためには実施に当たって明確かつ合理的・客観的な基準の下に透明性を確保する必要がある。
イ また、新基本法に基づく政策であることから、国際的に通用することはもとより、国内で理解を得るためにも、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書1Aの農業に関する協定(以下「農業協定」という。)に合致した政策とする必要があり、具体的には、同農業協定の附属書2の13に規定する次の要件を満たすものでなければならない。
(ア)条件不利地域とは、条件の不利性が一時的事情以上の事情から生じる明確に規定された中立的・客観的基準に照らして不利と認められるものでなければならない。
(イ)支払額は生産の形態若しくは量、国内価格又は国際価格に関連し、又は基づくものであってはならず、かつ所定の地域において農業生産を行うことに伴う追加の費用又は収入の喪失が限度とされる。
(2)国と地方公共団体の緊密な連携
 耕作放棄を防止し、農業生産活動等の継続を実効性のあるものにしていくためには、地方公共団体の役割が重要であり、国と地方公共団体が密接な連携の下に実施していくことが必要である。
(3)政策効果の評価と見直し
 交付金は我が国農政史上初めての手法であり、制度導入後も中立的な第三者機関を設置し、実行状況の点検、施策の効果の評価等を行い、基準等について不断の見直しを行っていくことが必要である。
第3 交付金の仕組み
 国は、第4の1の対象地域のうち第4の2の対象農用地において第6の2の(1)の集落協定又は同(2)の個別協定に基づき5年間以上継続して行われる農業生産活動等を行う農業者等(農業者、地方公共団体が出資する法人(以下「第3セクター」という。)、特定農業法人(農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号、以下「基盤強化法」という。)第23条第4項に定められるものをいう。以下同じ。)、農業協同組合、生産組織等をいう。以下同じ。)に対し、市町村が交付金を交付するのに必要な経費につき、都道府県が交付金を交付するのに必要な経費に充てるためあらかじめ資金を積み立てるのに必要な経費について、交付金を交付する。
第4 対象地域及び対象農用地
1 対象地域
 交付金の交付対象となる地域(以下「対象地域」という。)は次の(1)から(9)までの地域とする。
(1)特定農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律(平成5年法律第72号)第2条第4項の規定に基づき公示された特定農山村地域
(2)山村振興法(昭和40年法律第64号)第7条第1項の規定に基づき指定された振興山村地域
(3)過疎地域自立促進特別措置法(平成12年法律第15号)第2条第1項の規定に基づき公示された過疎地域(同法第33条第1項又は第2項の規定により過疎地域とみなされる区域を含み、平成12年度から平成16年度までの間に限り、同法附則第5条第1項に規定する特定市町村(同法附則第6条又は第7条の規定により特定市町村の区域とみなされるものを含む。)を含む。)
(4)半島振興法(昭和60年法律第63号)第2条第1項の規定に基づき指定された半島振興対策実施地域
(5)離島振興法(昭和28年法律第72号)第2条第1項の規定に基づき指定された離島振興対策実施地域
(6)沖縄振興開発特別措置法(昭和46年法律第131号)第2条第1項に規定する沖縄
(7)奄美群島振興開発特別措置法(昭和29年法律第189号)第1条に規定する奄美群島
(8)小笠原諸島振興開発特別措置法(昭和44年法律第79号)第2条第1項に規定する小笠原諸島
(9)地域の実態に応じて都道府県知事が指定する自然的・経済的・社会的条件が不利な地域(以下「特認地域」という。)
2 対象農用地
 交付金の交付対象となる農用地(以下「対象農用地」という。)は、対象地域内に存する農用地区域(農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号。以下「農振法」という。)第8条第2項第1号に定める農用地区域をいう。以下同じ。)内に存する一団の農用地(1ha以上の面積を有するものに限る。)であって、次の(1)から(5)までのいずれかの基準を満たすものとする。
(1)勾配が田で1/20以上、畑、草地及び採草放牧地で15度以上である農用地(以下「急傾斜農用地」という。)
(2)自然条件により小区画・不整形な田
(3)積算気温が著しく低く、かつ、草地比率が70%以上である市町村内に存する草地(以下「草地比率の高い草地」という。)
(4)次のア又はイの基準を満たす農用地であって、市町村長(市町村長が判断することが困難な場合には、都道府県知事)が特に必要と認めるもの。
ア 勾配が田で1/100以上1/20未満、畑、草地及び採草放牧地で8度以上15度未満である農用地(以下「緩傾斜農用地」という。)
イ 高齢化率が40%以上であり、かつ、耕作放棄率が次の式により算定される率以上である集落に存する農地
(8%×田面積+15%×畑面積)÷(田面積+畑面積)
(5)(1)から(4)までの基準に準ずるものとして、都道府県知事が定める基準(以下「特認基準」という。)に該当する農用地
第5 中山間地域等直接支払市町村基本方針
 市町村長は、交付金の交付を円滑に実施するため、地域の実情に即し、中山間地域等直接支払市町村基本方針(以下「基本方針」という。)を次により策定する。
1 基本方針は次に掲げる事項を内容とする。
(1)趣旨
(2)対象地域及び対象農用地
(3)集落協定の共通事項
(4)個別協定の共通事項
(5)対象者
(6)集落相互間の連携
(7)交付金の使用方法
(8)交付金の返還
(9)生産性・収益の向上、担い手の定着、生活環境の整備等に関する目標
(10)実施状況の公表及び評価
(11)その他必要な事項
2 基本方針は、原則として平成16年度までの方針とする。
3 市町村長は、基本方針を策定し、又は変更しようとするときは、都道府県知事にその認定を受けるものとする。
第6 直接支払いの実施
1 対象者
 交付金の交付の対象となる者(以下「対象者」という。)は、次に掲げる者(農業所得が同一都道府県内の都市部の勤労者一人当たりの平均所得を上回る者として農村振興局長が定める者を除く。)とする。
(1)2の(1)の集落協定に基づき、5年間以上継続して農業生産活動等を行う農業者等
(2)2の(2)の個別協定に基づき、5年間以上継続して農業生産活動等を行う認定農業者等(認定農業者(基盤強化法第12条第1項の認定を受けた者をいう。以下同じ。)、これに準ずる者として市町村長が認定した者、第3セクター、特定農業法人、農業協同組合、生産組織等をいう。以下同じ。)
2 対象行為
 交付金の交付の対象となる行為(以下「対象行為」という。)は、次の(1)又は(2)に掲げる協定(その策定又は変更につき農村振興局長が別に定めるところにより市町村長の認定を受けたものに限る。)に基づき、5年間以上継続して行われる農業生産活動等とする。
(1)集落協定
ア 集落協定は、対象農用地において、農業生産活動等を行う農業者等の間で締結されるものであって、次の(ア)から(ケ)までの事項を規定したもの(ただし、(キ)、(ク)については、任意的事項)とする。
(ア)協定の対象となる農用地の範囲
(イ)構成員の役割分担
(ウ)農業生産活動等として取り組むべき事項
(エ)交付金の使用方法
(オ)生産性や収益の向上による所得の増加、担い手の定着等に関する目標
(カ)食料自給率の向上に資するよう規定される米・麦・大豆・草地畜産等に関する生産の目標
(キ)集落の総合力の発揮に資する事項
(ク)将来の集落像についてのマスタープラン
(ケ)市町村の基本方針により規定すべき事項
イ 集落協定は一団の農用地ごとに締結する。ただし、複数の一団の農用地を含めて1つの協定を締結することもできる。
(2)個別協定
ア 個別協定は、第4の2の(1)から(5)までのいずれかの基準を満たす農用地において、認定農業者等が農用地の権原を有する者との間において基盤強化法第4条第3項第1号に規定する利用権の設定等又は同一生産行程における基幹的農作業のうち3種類以上(草地にあっては1種類以上)の作業の受委託について締結されるものであって、次の(ア)から(オ)までの事項を規定したものとする。
(ア)協定の対象となる農用地
(イ)設定権利等の種類
(ウ)設定権利者、委託者名(出し手)
(エ)設定権利等の契約年月日、契約期間
(オ)交付金の使用方法
イ 次のいずれかに掲げる認定農業者等が、アに掲げる事項に加えて、農業生産活動等として取り組むべき事項を協定に規定する場合は、第4の2の(1)から(5)までのいずれかの基準を満たす当該認定農業者等の自作地も協定の対象とすることができる。
(ア)一団の農用地すべてを耕作している者
(イ)都府県にあっては3ha以上、北海道にあっては30ha以上(草地では100ha以上)の経営の規模を有している者
3 交付額
(1)農業者等への交付額は、集落協定又は個別協定に位置づけられている農用地について、(2)に掲げる地目及び区分毎の交付金の交付単価に各々に該当する対象農用地面積をそれぞれ乗じて得た額の合計額とする。
(2)国の交付金による交付単価は、次に掲げるア及びイの表中の(1)とする。
 また、地方公共団体が、国の交付金と併せて一体化して行う交付金の交付の上限単価は、同表中の(2)とする。
 なお、地方公共団体において、国の交付金と一体化した交付金の交付等が行えるよう、所要の地方財政措置が講じられている。
ア 傾斜農用地等の10a当たりの交付単価
 
地目 区分 (1)国の交付金による交付単価 (2)国の交付金と併せて地方公共団体が体化して行う交付金の交付の上限単価
急傾斜 10,500円 21,000円
緩傾斜 4,000円 8,000円
急傾斜 5,750円 11,500円
緩傾斜 1,750円 3,500円
草地 急傾斜 5,250円 10,500円
緩傾斜 1,500円 3,000円
草地比率の高い草地 750円 1,500円
採草放牧地 急傾斜 500円 1,000円
緩傾斜 150円 300円
注1:第4の2の(2)及び(4)のイに該当する農地については緩傾斜の単価と同額とする。
注2:特認基準に係る国の交付金による交付単価は、(1)に2/3を乗じた額とする。
 
イ 規模拡大加算(認定農業者等及び集落協定の構成員である新規就農者が平成12年度以降、新たに利用権の設定等又は農作業受委託契約の締結を行った対象農用地について、5年以上の期間継続して農業生産活動等を行う場合に加算される額)の10a当たりの交付単価
 
地目 (1)国の交付金による交付単価 (2)国の交付金と併せて地方公共団体が一体化して行う交付金の交付の上限単価
750円 1,500円
250円 500円
草地 250円 500円
注:特認基準に係る国の交付金による交付単価は、(1)に2/3を乗じた額とする。
 
(3)一農業者等当たりの受給額の上限は100万円とする。ただし、多数のオペレーターを雇用する第3セクター及び多数の構成員からなる生産組織等には適用しないものとする。
4 交付金の返還等
(1)集落協定又は個別協定に違反した場合には、市町村長は、農村振興局長が別に定める基準により交付金の返還等の措置を講ずることとする。
(2)市町村及び農業委員会は、交付金を返還するような事態を防止するため、認定農業者等に利用権の設定等又は農作業の受委託をあっせんし、耕作放棄が生じないよう指導することとする。
5 実施状況の確認
(1)市町村は、集落協定又は個別協定に定められている事項の実施状況について確認する。
(2)確認事務、確認体制等については、「中山間地域等直接支払推進事業実施要領」(平成12年4月1日付け12構改B第137号農林水産事務次官依命通知)による。
6 証拠書類の保管
(1)市町村は、交付金の交付申請の基礎となった証拠書類及び交付に関する証拠書類を交付金の交付を完了した日から起算して5年間保管しなければならない。
(2)交付金の交付を受けた者は、会計経理を適正に行うとともに、交付を受けた日から起算して5年間経理書類を保管しなければならない。
7 交付金の交付の終了
 交付金の交付は、次の(1)から(3)までのいずれかに掲げる場合には終了する。
(1)集落においては、担い手が規模拡大等により集落の中核として定着すること等により、本交付金の交付がなくても集落全体として農業生産活動等の継続が可能となり、耕作放棄のおそれがないと判断される場合
(2)市町村においては、当該市町村内のほとんどの集落で(1)の状態となり、未達成集落の農用地について、達成集落の担い手が利用権の設定等又は基幹的農作業の受委託により農業生産活動等の継続が可能となり、耕作放棄のおそれがないと判断される場合
(3)農業者においては、農業所得が同一都道府県内の都市部の勤労者一人当たりの平均所得を上回る場合(当該農業者が水路・農道の管理や集落内のとりまとめ等において中核的なリーダーとしての役割を果たす担い手となっている場合及び当該農業者が個別協定により農用地を利用権の設定等又は基幹的農作業の受委託により農業生産活動等を行っている場合を除く。







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