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(2)地方公共団体における現状の課題と対策
(1)地方公共団体における現状の課題
ア)地方公共団体におけるコスト
 地方公共団体の業務は、民間企業と異なり、「売上げ」や「利益」で判断できるものではない。しかしながら、財政状況が厳しい中で、各地方公共団体の危機感も高まってきており、事業費や人件費のカットといった歳出削減のための努力を鋭意行っているところである。
 一方、人件費等の間接費に対するコスト意識が希薄であるとの指摘がある。例えば、幹部から一般職員まで大人数で出向く首長への説明や、結論が出ないまま延々と続く会議を行うことで、「コスト」が発生しているという意識を持つことが必要なのである。
 現在、多くの地方公共団体で、事務事業評価を初めとした行政評価が行われており、様々な指標を活用して、事業の必要性や住民の満足度、事業の成果等を分析し、住民に対して公開するなどの取組が行われているところである。このような行政評価は、事業の見直しや予算配分に活用されてこそ行政改革に資するものであるが、このような政策議論を行う際には、事業の成果に着目した評価と同時に、その事業・サービスにどの程度のコストがかかっているのかという視点が必要である。特に、各地方公共団体ともに、厳しい財政状況の中で限られた人的資源・財源をどのような事業分野に投入すべきかという、いわゆる「選択と集中の議論」を行う際には、事業ごとのコスト情報は不可欠である。
 
イ)内部管理業務の評価
 総務、人事、財政、企画部門、さらには各部局の総務課、庶務課など、直接住民サービスに携わるのではなく、予算、人事、庶務・経理、評価等内部管理業務自体を評価する方法は難しい。また、決裁、支出伺いなど二重、三重の複雑な事務手続きも多く存在する。
 成果のみの行政評価では、このような内部業務の効率化には結びつかないため、業務プロセスの分析及び業務ごとのコストの把握が必要である。
 
ウ)民間委託が効率的か
 行政=非効率、民間=効率的という考え方があるが、民間委託は本当に効果的なのだろうか。もちろん、従来行政が担っていた分野を民間に委託することについては、
・行政の果たすべき役割が何か
・そもそも民間委託が可能なのか
・民間のノウハウを活用した方が効率的ではないか
・住民との協働の促進
といった政策的な議論が前提であり、コスト・効率性だけからの検討で結論が出せる話ではない。
 また、民間委託を検討する際に、本当に効率的でコスト削減になるのか、という議論も必要である。その際には、現在行政で担っている場合のコストを把握した上で、民間委託をした場合のコストとの比較が不可欠となり、この場合でも、検討の前提として、人件費をはじめとした間接費を含むコストの把握が必要となる。
 
エ)ABC導入に当たっての課題
○職員の反応
 ABCの導入に当たっては、職員の理解を得るためにも、
・作業量をできるだけ増加させないこと
・職員管理のためのツールとしないこと
が必要である。
 その他にも、
・業務・事業の種類によって、ABC分析になじむものとそうでないものとがあるのではないか。
・地方公共団体の業務は、一年を通して行われ、業務の繁閑の差が激しいため、分析期間の設定が困難ではないか。
・ABC分析のためにどの程度詳細なデータが必要なのか。
といった実際にどのような方法で導入し、数値の調査を行うべきかという課題もある。
 
(2)課題への対策
ア)コスト構造の可視化
 地方公共団体において人件費等の間接費をコストとして意識し、業務の効率化を検討するに当たっては、業務の現状を把握するために活動単位(プロセス)ごとのコストを可視化することから始めなければならない。
 そのためのツールとして、活動単位ごとにコストを把握し、そのコストを事業ごとに割り当てるABC分析の手法は有効である。このように業務のコスト構造が可視化されることにより、組織自体の業務改革のための有効な手段となるだけではなく、職員自身も業務の現状や問題点を認識することができ、業務改善のための意識を持つことが出来ると考えられる。
 
イ)費用対効果の把握
 ABC分析により、事業(サービス)ごとのトータルコストを把握することが可能となり、現在各地方公共団体において取り組まれている行政評価(成果の評価)とあわせて、費用対効果という観点から、事業の見直しも含む政策議論が可能となる。
 
ウ)ABCの円滑な導入
 ABCを導入する際、どこまで詳細な基本データを収集すべきかという課題がある。具体的な例を挙げれば、職員が従事している業務をどこまで詳細に分解し、従事時間についてもどこまで詳細に(5分単位か、30分単位かなど)記録しなければならないか、という問題である。データを分析するのであるから、詳細なものである方がよいという議論はもちろんあるが、詳細なデータを集めようとすればするほど、記録や集計の際の事務負担は増加し、また、得られたデータの分析に当たっても、かえって分かりにくいものになりかねない。
 導入に当たっては、業務プロセスの分類も10業務程度(例:資料作成、上司への説明、対外説明、会議、決裁・・・)にし、時間単位も15〜30分程度にする、あるいは年間の従事割合を5%刻み程度で割り振るなどの工夫が必要であろう。むしろ、この程度の「ザックリ」とした分析の方が業務プロセスのどこに問題があるのかが明確になるし、必要であれば、その後に個別の業務に焦点を当てて詳細な分析をすることも可能なのである。さらに、分析の対象を予算事業ごとにすることにより、人件費以外の直接事業費は、予算・決算のデータをそのまま活用するなど、事務費や管理費の割り当ての方法についても工夫が可能である。
 
エ)ITの活用
 データの収集、集計に当たっては、職員の負担を軽減するという観点から、ITを活用することが必要である。例えば、職員が日々の業務日誌(例えば、事業Aの資料作成に何時間、事業Bの会議に何時間など)を作成した際のデータが自動的に集計されるソフトウェアを構築すれば、ABC分析のための特別な負担を強いることなく、必要なデータを入手することも可能となる。
 
(図)学校給食におけるABCの活用事例
学校給食業務フロー
(拡大画像:34KB)
 
 
活動別事業費
(拡大画像:80KB)
 
 
 
個別活動の詳細分析(これもABC)
(拡大画像:57KB)
 
 
(3)地方公共団体への活用
(1)まずはザックリABCの導入から
 地方公共団体については、もともと原価、間接費といった意識が薄いなかでABCという会計手法を導入するため、当初から詳細な分析を行おうとしても、職員の負担が大きく、また理解も得られにくいと思われる。
 そこで、まずは、ABCがどのような手法で、どのような成果が得られるのかを理解してもらうこと、また、職員にコスト意識を持ってもらうことから始める意味でも、ザックリとしたデータの収集から始めるべきであろう。さらに、ABCは、最初から全部局で導入しないと効果が出ないというものではなく、例えば、ある部局、課レベルから試行的に実施することも可能である。それによって、データの収集方法やコストの割り当て方法についての課題等が浮き彫りになり、全庁導入に当たっての参考となるだろう。
 
(2)原価計算対象は予算事業ごとに
 現在、多くの地方公共団体で取り組んでいる行政評価においては、おおよそ「予算事業」の単位で活動の成果を評価している。そこで、行政評価の重要な指標としてのコストを把握するためにABCを活用する場合には、原価計算対象は、「予算事業」ごとにコストを集計するのが現実的であると思われる。
 これにより、事務事業評価シートには、パフォーマンス評価を示す成果指標とともに、その事業に要したコストが明確になることにより、予算査定や事務事業の見直しに係る議論が行い易くなる。
 
(3)人件費を中心とした分析
 原価計算対象を予算事業とすることにより、消耗品費等の事務費は簡単に各事業に割り当てることが可能となる。あとは、職員の業務従事時間を中心に活動データを把握すれば、光熱費、減価償却費等の管理費についても事業ごとの職員の業務従事時間を基準にして、各事業にコストを割り当てることが可能である。一方、業務プロセスの改善の議論を行うための資料としては、業務従事時間を含む人件費の分析が中心となると考えられる。
 
(4)目的はBPR(→ABMへの発展)
 ザックリとしたABC分析によりプロセス単位での業務内容及びコストが可視化されるため、例えば次のようなBPR(業務再構築)のための重要な資料としても活用できる。
○事務手続きの見直し(簡素化):省会議、省ハンコ、IT化
○適正な人員配置、人材の動的活用
○多様な雇用形態の活用
○委託化・アウトソーシングのための議論







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