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1. 指針のねらい
(1)定義
(1)市民公益活動
 近年の人々の考え方は、物質的な豊かさを求める志向から心の豊さを求める志向へと変化し、一人ひとりの生活習慣や価値観が多様化しています。
 このような状況の中、社会的課題に自主的・主体的に取り組む市民の活動は、年々活発になっており、またその活動分野も福祉、環境、国際交流、まちづくりなどのあらゆる分野に拡大し、社会の新しい力となりつつあります。
 このような活動は、「ボランティア活動」「社会貢献活動」と呼ばれています。
 
 本指針では、このような社会に貢献する市民の活動の内、次のいずれにも該当する活動を「市民公益活動」と称し、支援の対象とします。
 
・自主性・自立性に基づく活動
・市民の生活の向上や改善に結びつき、社会に貢献する活動
・継続的な活動
(将来的に大きな効果が見込まれる萌芽的な活動も対象とします)
・営利を目的としない活動
(ただし、活動により生じた収益があり、その余剰利益が組織の構成員に分配されず、本来の活動目的に再投資される場合は、営利を目的としない活動と見なします)
・市民に対し常に活動内容が開かれた活動
 
 なお、本指針では政治上の主義や宗教の教義を広めることを主たる目的とする活動は支援の対象としません。
 また、市民事業も同様のものとします。
 
(2)市民事業
 全国各地では、市民が主体となるさまざまな起業活動が展開されています。
 これらの活動には、NPO法に基づく団体が行う起業活動と、企業法人をめざす起業活動の2つのタイプがあります。
 このように市民が自ら主体的に行う、地域の課題解決、生きがいづくり、雇用の創出に繋がる新たな起業活動は、今後のまちづくりを行ううえで重要な活動であり、また産業振興を図るうえからも重要なものと考えます。
 このため、本指針では、こうしたNPO活動や、次に掲げる要件を満たす企業法人をめざす起業活動を「市民事業」と位置づけ支援していきます。
・市民が起こす、地域課題の解決や、地域のニーズに対応した、物・サービスを提供する事業。
・事業により得られた利益が配分され、労働の対価を得る事業
 
(2)現状と課題
(1)我孫子市の現状
 我孫子市では、市の重要課題である手賀沼浄化を推進する活動など、さまざまな環境保全活動が展開されています。
 さらに、福祉、国際交流、まちづくり、生涯学習、消費者活動、地域の環境改善活動などの分野にも広がりを見せており、既に2団体がNPO法人を取得しています。
 こうした市民の活動は、今後もますます増加していくことが予想されます。
 市では、これまで市民の活動に対し、相談、行事の後援・共催、補助金の交付、ボランティアセンターの設置、「市民活動災害補償制度」の創設など、さまざまな支援を行ってきました。
 さらに、平成12年度予算編成から、補助金に関しては貴重な財源を有効的に活用していくという視点から、「公募制」を採用し、有識者で構成される「補助金等検討委員会」で補助金交付団体の選定を行う試みを始めました。
 一方、平成9年度に実施した「我孫子市におけるシニア男性の地域社会での今後の活動意向調査」では、定年後の生活のイメージについては、9割の方が何らかの形で働きたいと考えており、起業については、過半数の方に起業意向があることがわかりました。また、介護保険制度の導入による新たな福祉サービスの提供主体への期待や、女性の起業意欲の高まりなどにより、市民事業への支援方針の確立が必要になっています。
 
(2)全国の動向
 阪神・淡路大震災では、救援活動やボランティアの受け入れが従来型の画一的な行政の対応では機能しなかったことから、現場でボランティア活動をコーディネートした非営利活動、団体の役割が再認識され、これを契機として市民活動は社会的に大きな潮流となり全国的に拡大しました。
 このような全国的なうねりの中で、平成10年3月にNPO法(特定非営利活動促進法)が制定されるとともに、それぞれの自治体が市民活動支援のための取り組みを行っています。
 各自治体では、NPO法に伴う関連条例の整備、市民公益活動支援に関する指針や条例の制定、「市民活動サポート・センター」の開設、市民・企業・行政が「協働」したパートナーシップ型事業を展開するなどの動きが活発化しています。
 一方、市民事業と似た活動としては、イギリスで発祥した「コミュニティ・ビジネス」があります。このような活動は日本でも各地で研究や実践が展開されており、兵庫県では阪神・淡路大震災の時に活躍したボランティア活動が基礎となって、雇用の場を創出するなど、市民による起業が活発化しつつあります。
 
(3)課題
 活発な市民の活動が市内で展開されている中で、課題も顕在化しています。
 人材や活動資金の不足、事務機能が整備された活動拠点がないなどの個々の課題や、情報の受発信を一元的に行う場がないこと、活動団体相互の交流の場がないため情報交換や認識不足により双方の協力関係が構築できないなどの課題があります。
 このように、市民の活動は、脆弱な活動基盤などさまざまな問題を抱えながら活動しています。
 このため、十分に力を発揮できる活動しやすい環境の整備という側面的な支援の視点から、全庁的な支援体制のもとに、より包括的な支援策を実施していく必要があります。
 また、今までの市の支援対象は、活動が一定程度定着し成果が明らかであると認められたものが中心であり、萌芽的、先駆的な活動に対しては支援しにくい側面が見られます。また、これらの支援は均等・平等に行われるのが一般的であり、結果的に薄くまんべんなく支援されることで、支援の効果が分散されるという傾向があります。
 さらに、行政の分野別の支援が前提なため、複数分野にわたる活動への支援が不十分になってしまい、新たな社会問題に対応するための先進的な活動に支援の手が及ばない状況となっています。
 今後、市民の活動を支援するにあたり、行政の縦割り的な対応などのしくみの問題や、どのような活動にどのような支援を行うことが効果的なのかについて、既存の支援概念を改めて問い直す必要があります。
 さらに、市民と行政の「協働」を基礎としながら、市民の自発性を尊重し、市民の持つ能力やエネルギーを十分引き出すことができ、活動がさらに発展し自立できるよう、柔軟で効果的な支援策を検討する必要があります。
 
(3)ねらいと役割
(1)期待される効果
 市民の活動は、益々活発化し活動分野やサービスは拡大しています。これは、市民の「まちづくり」に対する意識の変革が一つの要因になっています。
 従来の、行政が市民に一方的にサービスを提供するのでも、市民が行政に一方的に要求するのでもなく、「まちづくり」は市民と行政が手を取り合って行った方がより良いまちづくりができるという考え方によるものです。
 このことから、市民と行政はお互いの責任感に基づく適切な役割分担のもとでさまざまな市民ニーズに対応したまちづくりを「協働」して行っていくことが必要となります。
 これにより、市民が行政との連携を通じて自らまちづくり活動に参加し、地域公共サービスの提供主体となる市民が出現することにより、まちは生き生きと活動する市民により活性化していきます。
 さらに、市民事業を展開することにより、市民にとって身近なサービスの提供が図られるとともに、市内で生き生き働く市民が増えることにより、地域の活性化や産業の活性化につなげることができます。
 
(2)施策の必要性
 「地方分権推進法」に基づく勧告の中では「民間活動等との連携・協力」がうたわれています。このことから、地方分権は中央から地方への分権だけでなく、地方自治体と地域の活動団体などとの連携もあってはじめて実体的なものとなると考えられています。
 このことは、「住民自治」の観点から言えば、これからの市民社会では地域住民と行政は共に地域社会を支える当事者であり、市民は社会サービスの受益者であると同時に担い手であるということになります。
 このように、市民と行政の関係が変化する中で、我孫子市は単なる東京のベッドタウンとしての横並びの住宅都市ではなく、分権に対応した独自のまちづくりを行うことが重要となります。
 このため、これからの自治体運営では、市民・企業・行政が知恵を出し合いながら、その自治体、地域ならではの独自のまちづくりの方向性を生み出すためのしくみを確立することが必要となります。
 
(3)行政の役割
 以上のことから、これからの行政運営はハードを中心とした行政運営だけでなく、行政だけではできない市民や地域のアイデンティティー形成をめざして、極めて多様で質の高いサービスの提供を行うことが必要となります。
 行政サービスの質をより高めるためには、市民・企業・行政がよきパートナーとして連携し、積極的に「協働」することが必要で、いままでの行政施策について「協働」の視点から見直しを行うことが重要になります。
 市民・企業・行政がよきパートナーであるということは、行政が市民に対して一方的にサービスを提供するという関係を超えて、市民と行政がお互いの立場をよく理解・尊重し、対話を通じて、新しい時代を一緒になって切り開いていこうという関係を持つことです。
 また、積極的に活動の掘り起こしを行い、既に地域で地道に行っている活動を把握し、その活動を評価する姿勢が必要です。
 さらに、地域のニーズに応える市民公益活動や市民事業をこれからのまちづくりを進める上で極めて重要な役割を担う活動として受け止め、そうした活動と連携して地域を支えるまちづくりを進めることが重要です。
 このため、「協働」という視点に立って積極的に行政施策を進めていくとともに、情報や機会の提供など支援のための環境をつくることが必要となります。
 また、「協働」のまちづくりを進めるためには、企業の果たす役割は重要となります。企業自らが社会貢献活動を行ったり、社会貢献を目的として行われる市民の活動に対し応援を行うための環境を整備することも行政の役割の一つと考えます。







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