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事例3 草津市(滋賀県)
〜子育て支援における協働事業〜
1. これまでの取組み
■地域コミュニティとテーマコミュニティの融合を目指す
 草津市は平成11年に策定した「第4次草津市総合計画(くさつ2010ビジョン)」で、宿場町として人・モノ・情報の交流がさかんに行われてきた伝統を今に受け継ぎ、活力のあるまちづくりをしていこうとし、「パートナーシップで築く『人と環境にやさしい淡海(おうみ)に輝く出会いの都市』」を目指す都市像に据えた。
 行政は公正・公平の原理原則をもって、責任と役割を果たし、市民には市民の責任と役割があり、行政とは違った行動原理の中で社会貢献していく。行政と市民が互いに今、何をなすべきなのか、できるのかを考え、課題解決に向かって協働(パートナーシップ)したまちづくりを進めていこうとするものである。
 翌12年度には、パートナーシップ推進課を設置、同年7月、有識者らによる「草津市パートナーシップまちづくり研究会」を設けた。研究会では、市民活動団体にアンケートを実施したり、市民活動交流会を開催し、パートナーシップに関する職員研修も行った。
 翌13年3月に提言書をまとめた。提言では、「市民と行政がともに学びながら育っていくことを基本に、人と人とのあたたかなコミュニケーションにより信頼関係を深め、地域コミュニティとテーマコミュニティの連携・融合による厚みのある市民自治を育み、草津らしい協働のまちづくりを進めます。」と記している。
 草津市は、歴史のある町であり、京阪神の通勤圏として新しい住民も増えつつあるため、自治会を中心とした地縁的な組織が確立している一方、テーマごとに組織されたNPO等の活動も活発である。したがって、行政が「市民とのパートナーシップ」を追求する場合はその両面を視野に入れる必要があり、市民の側も両面が融合してこそ市民自治の担い手としての力を持つことになると市では考えている。
 
地域コミュニティとテーマコミュニティ
 地域に基づく住民の連帯をコミュニティといい、町内会などの自治会が該当する。近年の少子高齢化や都市化を背景として、地域活動に無関心な人々も多くなってきた。そのため、子育て、防災、リサイクル等特定のテーマを対象に地域の人々が連帯して活動するケースが増えてきた。そこで従来型の自治会(地域コミュニティ)と区別する意味でテーマコミュニティという言葉が使われることがある。
 
■まず、市職員が市民から信頼されることから
 研究会での検討と並行する形で、12年10月、庁内検討会を作り(公募による課長補佐〜係長級の職員を中心に21名がメンバー)、(1)市民と行政のコミュニケーションの促進、(2)市民との協働の推進、(3)市民活動の支援、の3つのテーマで協働のあり方を検討した。
 これを受け、13年度からは、「あったか市役所21」運動がスタートした。これは、市民とのパートナーシップをうたうからにはまず市役所や職員の側が、市民から親しまれ信頼される存在にならなければならないという理由で始まったものである。
 具体的には、あいさつや電話応対、そしてお役所言葉の見直し、名札の大判化、週1回水曜限定ながら各種証明窓口の時間延長(午後8時まで)、ニュースレターの発行等を行っている。
 また、14年6月から「あったかくさつみんなでトーク」を始め、市民団体やグループの依頼に応じて、市職員が市の事業や施策について出前トークと市民との話し合いを行った。各課から40のテーマが挙げられている。これまでの約半年で、20回ほど開催している。
 
2. 草津市における支援事業
■市民活動支援の拠点施設としてまちづくりセンターを設置
 平成13年6月、前述のまちづくり研究会提言を受けて、「草津まちづくり市民会議」が設立された。公募による市民を中心に、市民活動や地域活動の代表者なども含む23人のメンバーで構成。活動は委員による自主運営が基本となっている。
 市民会議の1年目の活動で焦点となったのは、市民活動支援の拠点施設となる「草津市立まちづくりセンター」(14年7月にオープン)の位置づけや運営のあり方である。受付業務や施設の管理は市の外郭団体である(財)草津市コミュニティ事業団が行うが、運営については市民活動団体と行政による「まちづくりセンター運営協議会」が担い、パートナーシップによる運営が行われる。センターに登録した60の市民活動団体に対して運営への参加を呼びかけ、17団体が運営協議会に加わっている。
 まちづくりセンターは、(1)各地域におけるまちづくり活動の情報を集約・発信すること、(2)まちづくり活動の担い手となる人材を育成すること、を大きな柱としている。施設には、会議室、団体活動室、多目的室、サロン、資料室、相談室を置き、会議室やサロンは誰でも利用可能で、団体活動室は登録している「まちづくり団体」のみ利用できる。またまちづくり団体には、会議室等の利用料や冷暖房費の減免やメールボックスが利用できるなどの特典もある。
 
■3つのプロジェクトで具体的な支援を開始
 まちづくりセンターに関する協議が一段落した後から、次の3つのプロジェクトをスタートさせた。
 
(1)人材育成プロジェクト
 まちづくりのリーダーとして活躍できる人材の発掘・育成を目的とする。このプロジェクトでは、各種の講座やイベントが活発に行われている。たとえば男女共同参画に関する講座、天井川として知られた草津川がつけ替えられたことを受けて、旧草津川の跡地利用を話し合うためのシンポジウム、平成14年が中山道が整備されて400周年にあたるため、それを記念してのシンポジウム、また、3月には草津のまちに関心を持つ大学生・院生がこれまでの研究成果を発表することになっている。
 
(2)拠点整備プロジェクト
 市民活動支援の拠点施設のあり方に関する検討を行うもので、現在は、公民館の活用を研究中である。市内にはほぼ小学校区ごとに1つ、合計12の公民館があり、ここを地域の活動拠点としてどう生かしていくか、またまちづくりセンターとの連携をどのようにとっていくか、などが課題である。市民会議の委員が手分けして各公民館に聞き取り調査を行ったり、市民活動団体にアンケート調査を実施している。
 
(3)交流プロジェクト
 代表的な活動としては、「パワフル交流市民21」の開催がある。市民活動団体同士が交流の場をつくることを目的として、各団体がブース出展し、活動の内容をアピールしたり、発表会を行う催しである。市民会議が実行委員を公募し、市民主導で企画運営を行うこととしている。15年3月には3回目が予定されており、まちづくりセンターに登録している団体だけでなく町内会などにも参加を呼びかけていくという。
 市民会議は1年目が研究・提言を主とし、2年目は実践に軸足を移しているが、市は、市民会議が提言主体か実践主体なのか、まだ明確に結論づけていない。当面は両方の機能を担っていくことになりそうである。
 
■市民団体から事業提案を受け公開の場で助成団体を採択
 草津市による市民活動支援の具体例としては、「ひとまちキラリ助成」がある。市民活動団体や個人からまちづくり活動の提案を受け、公開ヒアリングを実施して3つを選び、上限10万円(継続が認められた場合は2年目が上限20万円)の助成を行っている。初動期の活動を支援して自立につなげていくという趣旨から、既に行っている活動ではなく新たな事業提案に対して助成することとしている。
 13年度から始まり、22団体が提案。障害を持つ人と持たない人が一緒にまち歩きを楽しむイベント、外国籍の子供たちの居場所づくり、乳幼児の親子が集う子育てサポート広場の3件が採択された。
 14年度は16団体が提案。ヒアリングの結果採択されたのは、若い母親の子育てを支援する活動、高齢者のとじこもりを防ぎ自立を支援する高齢者サロン、美術館・学校・地域の連携による美術教育の3件が採択された。
 課題は、助成件数が少ないことである。15年度以降、1件あたりの金額を減らしてでもその分多くの活動を支援する方針である。また採択されなかった提案をどう生かしていくかという問題もある。真摯な提案も多いだけに、同事業の運営委員会ではできる限り詳しく不採択の理由や提案内容に対するアドバイスを伝えるように心がけているという。
 
■NPO支援に特化したコミュニティ支援センター
 市民活動支援拠点としてのまちづくりセンターの他に平成10年に設置された「草津コミュニティ支援センター」がある。(財)コミュニティ事業団が施設の無償貸与を受けて管理を行い、登録した市民団体が運営会議を組織して自主運営を行う形態をとっている。施設の機能も、活動や会議の場の提供、情報センター的役割など、まちづくりセンターと似通った部分が多い。また、まちづくりセンターと支援センターの両方に登録している団体も少なくない。
 基本的に支援センターはNPO等のテーマを持って活動している団体の支援に特化し、一方まちづくりセンターはNPOに限らず地縁的団体やボランティアグループ、個人などより広範な層を支援することを目的としている。
 
3. 草津市における協働事業
■子育て支援事業をNPO法人に委託
 市民活動団体との具体的な協働事業の例として、NPO法人「子どもネットワークセンター天気村」への委託事業がある。就学前児童の一時預かりや子育てについての相談をその主な内容としている。緊急地域雇用対策事業を活用したもので、天気村がこの事業のために指導員を新規雇用している。
 草津市は人口が増加傾向にあり、なかでも、草津駅周辺を中心に相次いで建設されているマンションヘの転入者が多く、夫婦と小さな子どもだけの家族で近所に祖父母や親しい知人がいないというケースが少なくない。したがって、子育て支援は市にとっての重要な課題であり、国の事業を活用して新たな支援策を打ち出すことになった。
 天気村への委託料は、緊急地域雇用対策事業の一環という性格上、人件費が大半で、指導員3名分の賃金・社会保険料・交通費が500万円弱。そのほか情報誌の印刷費、一時預かりで使用する文具や遊具など、人件費と合わせて合計600万円程度である。
 NPOへの委託事業を始めた背景としては、まず市民自治の定着、市民と行政との協働と連帯を一層促進し、行財政改革を進める中で、行政サービスをNPO等が担っていくことが望ましいという市の判断があった。
 委託先の天気村は、これまで幼児の野外体験活動などを実施してきた豊富な実績と独自の施設を保有し、活動意欲もあると市は高く評価している。行政・市民双方からの認知度の高さ、NPO法人格を取得していることなどの理由で、委託先は現実問題として天気村以外になく、随意契約とした。天気村でも活動の幅が広がるとともに人件費が出るし、事業の進め方などについてもできる限り希望を聞いてくれたことなど、行政側の姿勢に強い共感を示している。
 スタートしてまだ半年ほどの段階だが、就学前児童の一時預かりには月平均約50件の利用があるなど、順調に推移し、訪問保育の利用がないなどの課題はあるものの、ねらい通りの成果があらわれていると市は評価している。
 また天気村でも新たな契機として積極的に受け止めており、また、子育て支援策などについて、市がシステムをつくっても地域の細かいニーズにはNPOが対応する必要があると考えており、両者の役割分担の必要性を指摘する。
 
4. 課題と今後の展望
■地域コミュニティとテーマコミュニティの連携・融合の促進
 以上見てきたように、草津市ではパートナーシップの核となる組織や施設が整備され、具体的な事業レベルでの連携も始まっている。以前に比べると、市民の間に自分たちの責任で自分たちのまちをつくっていこうという動きがずいぶん活発になってきた。
 しかし、地域コミュニティとテーマコミュニティの連携・融合については、まだまだ進んでいない。また、支援センターとまちづくりセンターとの役割が不明確なこともある。しかしながら、地域コミュニティの中にも、たとえば、団地の中で一人暮らしの老人を元気づけるといったテーマを持った活動が新たに芽生えつつある。このような動きを加速し、地域コミュニティとテーマコミュニティの連携・融合を進めていくことが課題となっている。
 
NPO法人「子どもネットワークセンター天気村」
 天気村は昭和62年に任意団体として設立され、平成11年にNPO法人の認証を取得した、15年以上の歴史を持つ団体である。
 活動の中心は、「こんぺいとう自然保育園」。「地球が遊び場だ」をキャッチフレーズに、野外活動を基本とする保育を行っている。週5日のうち月・水・金の3日間は野外活動の日。行く場所はさまざまで、そのときの季節を感じることのできる場所を求めて移動する。その日の天気も大事にし、雨だったらカタツムリの見られそうなところへ行ったり、風が強ければその風を感じられる場所を選ぶ。ありのままの自然の中でありのままの自分をさらけ出すことが、子供たちに与えられた唯一の課題だ。「こんぺいとう」という名前には、「こんぺいとうの突起のようにいろんなところから角をにょきにょきと出してほしい」という、子どもたちへのメッセージが託されている。ここから巣立って大学生になり、今度はボランティアとして参加しているという若者も少なくない。
 また、「くさつあそび隊」は、異年齢による体験活動集団。毎月、「街」「バリアフリー」「アート」などのテーマを決め、それにちなむ場所へ出かけていく。この活動でおもしろいのは、「エココイン」という仕掛けが入っていることである。メダカ、ホタルなど琵琶湖の水にちなむ小動物が描かれた12種類のエココインを用意。活動に1回参加するごとに1枚コインがもらえ、12種類揃えれば協賛企業提供の環境グッズと交換できる。
 ほかにも、障害児のサマーホリディ、母子交流の場を提供するベビープレイグループ3世代交流もちつき大会、里山プレイレンジャー事業など。そのほとんどが公的支援や助成を受けていない自主事業で、収支を見ると収入の約3分の2を自主事業が占めている。







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