日本財団 図書館


事例4 福野町(富山県)・出雲市(島根県)
〜スポーツ振興を目指したNPOとの協働〜
1. これまでの取組み
〈福野町〉
■スポーツクラブ連合の設立
 福野町は昭和63年度、文部省(当時。以下同じ)の「地域スポーツクラブ連合育成事業」に取り組み、町内7地区において地区内のスポーツクラブや同好会などを有機的に結んだ地区スポーツクラブ連合を設立し、それらを統括する福野町スポーツクラブ連合を発足させ、地域スポーツの振興を図る推進組織の確立を図った。
 これにより町全体のスポーツヘの取組みはスムーズになったが、運動好きの町民しかスポーツを行わないという課題は残されたままとなった。
 
■総合型地域スポーツクラブの設立
 幅広い町民を対象にしたスポーツ振興の大きな契機は、文部省の指定を受け平成8年度から3年間実施した「総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業」だった。
 同事業の導入に伴い、福野町では町民主導のスポーツクラブの育成と地域スポーツの振興を図っていくため、福野町体育協会、地区スポーツクラブ連合、福野町体育指導委員協議会、海洋センター育成士会など既存のスポーツ団体の協力・連携を得て、新たなスポーツクラブを設立することになった。
 町は、平成8年4月に設立準備委員会を、8月には運営委員会を立ち上げ、平成9年2月から町民などを対象に予備会員の募集を開始した。そして平成10年11月、「ふくのスポーツクラブ」(以下、「ふくのSC」)が正式に発足し、会員数約1,600人の任意団体としてスタートを切った。
 
〈出雲市〉
■スポーツ行政のアウトソーシング
 出雲市ではスポーツを通じて健康な市民生活を享受でき、明るく活気に満ちたまちづくりを推進するために、平成11年に「出雲スポーツ振興プラン21構想」を策定し、14年度までの4年間に、スポーツ行政の基盤整備とアウトソーシングを表明した。
 この構想では(1)人づくり(指導者の養成やNPO等関係団体の育成)、(2)環境づくり(出雲市が建設した9施設の管理運営と今後必要になる広域型スポーツ施設の整備等)、(3)システムづくり(地域住民主導のスポーツクラブの設立・育成)を柱としている。
 
■総合型地域スポーツクラブの設立
 平成12年3月に「NPO法人出雲スポーツ振興21」が設立され、同4月に活動をスタートさせた。同NPOは、市が11年に公表した「出雲スポーツ振興プラン21」を全市民に対し具現化していく推進役と位置付けられた。
 市では、直接企画・運営していたスポーツイベントの実施やスポーツ施設の管理運営とスポーツ団体事務、また新たなスポーツ振興事業としての総合型地域スポーツクラブの設置などを含め、多くのスポーツ行政を出雲スポーツ振興21に移管した。同時に市は市長部局に教育委員会のスポーツ・文化・市民学習業務を移管して文化企画部スポーツ振興課を設置、出雲スポーツ振興21と直接交流する窓口として地域スポーツクラブ支援室を14年7月に設置している。
 これにより、市と出雲スポーツ振興21が協働して「スポーツによるまちづくり」を進める事業推進体制が整備された。
 NPOの役員はスポーツ関係団体が中心であり、事務局(15人)は、財団法人教育文化振興財団の経験者と一般から公募した1〜2年間の契約職員で構成されている。同財団は、市の教育・文化・スポーツ施設を受託管理していたが、利用者の立場を考えた施設運営と自主財源事業の実現を考え、市はすべてのスポーツ施設運営をNPOに委託した。ちなみに、契約職員の給与はスポーツビジネスに関する個人の経験や年齢によって算定される。
 推進体制の整備を受け、NPOは出雲市から委託を受け、多種目、多世代でスポーツを享受し、健康づくりを推進するための組織として市内6つの中学校区と市内全域を対象とした合計7つの総合型地域スポーツクラブの設立・運営支援を行う事業をスタートさせた。14年度には、浜山中校区に「はまやまスポーツクラブ」を誕生させ、第一中学校区でも「出雲ファーストクラブ」が旗揚げするなど、17年までに6中学校区すべてに総合型地域スポーツクラブを設立する計画が進められている。
 
2. 福野町・出雲市における協働
〈福野町〉
 「ふくのSC」は、町の主導によりモデル事業の導入を前提に設立した団体である。
 当初からモデル事業の推進のために、町との連携は予定されており、町が「ふくのSC」に求めたのは、(1)町内7地区のスポーツクラブを始めとする地域スポーツ団体の連携強化・活性化、(2)地域住民へのスポーツの機会の提供、(3)地域住民の健康づくり事業の推進、(4)小・中学生への質の高いスポーツ活動の提供等であり、従来は町が行っていたスポーツ振興事業の大半であった。
 町が「ふくのSC」に委託した理由としては、専門的なスタッフがいない町が、町の事業として直営するよりも、「ふくのSC」が、(1)地域住民を主体とした活動を展開しており、住民ニーズに細かく対応できる、(2)町の職員の人事異動に左右されず、継続的に活動することができる等の利点があったからである。
 また町では、「ふくのSC」の円滑な事業展開が図られるよう、組織運営のアドバイスや町立体育館等の施設の提供などの後方支援を行っており、今後は青少年の健全育成・健康づくり事業、指導者育成事業など、関連する事業についても委託を検討し、クラブ事業の充実を図っていきたいとしている。
 
〈出雲市〉
■NPOがスポーツ行政を担うことのメリット
 出雲市は、スポーツ行政をNPOに委託した目的として、(1)スポーツ施設の効率的活用とサービスの向上、(2)財政削減効果をあげている。
 従来は施設管理担当部署が縦割りで、利用申請の手続が煩雑であったり、施設の使用時間が限られたりしていたが、NPOが施設を管理するようになって、手続が一元化されると共に、夜遅くまで施設を開放して欲しいとのニーズに応え、シルバー人材センターを活用しながら利用時間を朝8時半から夜10時まで拡大することができた。
 また以前は、教育文化振興財団の職員11名で出雲ドームの管理のみを行っていたが、NPOでは、事務職員などを中心にした15人でさらにクラブハウス、天然芝多目的広場や少年野球・ソフトボール場とその天然芝の管理など多くの自主事業を実施することで行政の効率化にも寄与している。
 アウトソーシングのメリットを、市は次のようにまとめている。
(1)ハード・ソフト両面の一元化によるスポーツ振興が実現(施設の管理業務やスポーツ教室・大会等の運営の一元化)
(2)受託施設を活動拠点として有効利用した展開が可能(社会環境やスポーツを取り巻く環境の変化にすばやく対応)
(3)窓口業務等の年中無休化等のサービスの向上(多目的スポーツ施設「サン・アビリティーズいずも」の定期休館日の廃止、また市立体育館に土日曜日にも職員を配置)
(4)自主財源によるスポーツ振興事業の展開
(5)スポーツ振興くじ(toto)収益金による公的支援の受け入れ窓口の整備
 
3. 課題と今後の展望
〈福野町〉
■NPO法人化と法人運営
 「ふくのSC」は、任意団体としてスタートしたが、クラブ設立2年目の平成11年後半から、法人化の検討を始めた。
 理由としては、(1)クラブ員の増加により運営が順調になったため、より自立した組織にし、多角的な事業展開を図っていく、(2)法人格の取得により、行政等から委託事業が受けやすくなり、事業の幅が広がっていく。同時にクラブの信頼性も高まり、クラブ員のさらなる獲得につながる。クラブ員が増加すれば経営基盤が磐石になるとともに社会性も高まって、企業や地域団体などからの支援を受けやすくなるという好循環をねらいに、NPO法人の取得を目指した。
 だが、NPO法人格は、様々な恩恵を受けたいという考えから取得したわけではない。法人化はクラブ発展の一過程として考えており、NPO法人は選択肢のひとつであった。クラブの目的を達成できるのであれば、株式会社でもよかったが、クラブの性格・活動の趣旨を勘案し、NPO法人としての認証を受けることとし、平成14年3月に法人格を取得した。
 しかし、「ふくのSC」は、モデル事業の受け入れを前提として、町主導で設立された団体であり、運営の自主性、独立性をどのように確保していくのかが大きな課題となっている。法人格の取得を契機として、自主事業を展開し、町との関係も対等な関係になりつつあることから、さらに自主事業を増やし、組織基盤の強化を行い、活動の自主性・主体性を確保する考えである。
 また、町もNPO等との協働は、「ふくのSC」との協働が最初であり、今後のあり方や、他の分野での協働、町としてNPO等とどのような関係を構築していくのか整理されておらず、手探りで事業を進めている状況である。
 しかし、「ふくのSC」を主体として、スポーツ以外の様々な分野で活動が活発化することを町は期待しており、支援等についても具体的な動きがあれば、検討していく考えである。
 
〈出雲市〉
■団体の自立を目指した収益事業の拡大と企画立案能力の向上
 出雲市とNPO法人出雲スポーツ振興21では、「スポーツを通したまちづくりで協働していく時に大切なことは、行政とNPOが戦略・戦術を共有することだ」という認識が共有されている。また、単なる民間委託ではなく、市との協働を成功させるためには、職員の資質の向上が必要だと出雲スポーツ振興21では考えている。特に事業等の企画立案能力を重視し、職員の資質を高めるために予算要求から結果までを、すべて職員個人の能力で行う「自己完結主義」を徹底している。NPOとして企画立案能力を向上させ、行政への提案・提言を行うとともに、自らの組織基盤を安定させるための収益事業を行わなければ、単なる貸し館業務で終わってしまうという危機感を持っている。
 一方、市でも出雲スポーツ振興21の設立当初は契約や管理運営のノウハウを伝えるために、市からNPOに1年間人材を派遣したが、できるだけNPOが自立できる環境を整えることが必要との考えから、2年目以降は人材の派遣は行っていない。行政がNPOを支援しすぎて、NPOの自主性の芽を摘み取ってしまわないことが重要であると市では考えている。
 
ふくのスポーツクラブ
1 「ふくのスポーツクラブ(SC)」の目的と運営方針
(1)「ふくのSC」の目的
 「ふくのSC」は、町民主導のスポーツ活動を展開し、スポーツコミュニティづくりを推進。「公益に寄与できる団体」として、福野のまちづくりに貢献。
(2)「ふくのSC」の運営方針
・組織のオープン化
 既存のスポーツ団体との連携、共同事業の開催と、各種団体、会員からの理事制による自主運営。
・施設のオープン化
 コンピュータネットワークシステムによる施設利用機会の提供と施設有効活用の促進。
・事業のオープン化
 住民スポーツニーズの把握と多くの参画が望める事業展開。
・活動のオープン化
 各種団体のスポーツのオープン化、教室・セミナーの自主開催、小・中・高の一貫指導体制の整備。
 
2 「ふくのSC」のプログラム内容
 「ふくのSC」は、幅広い年齢層を対象に豊富なスポーツのプログラムを提供。各プログラムは、会員からの提案や町民などのニーズに基づき理事会で決定。
 (1)体験会、(2)教室、(3)セミナー、(4)ジュニアスクールのクラブ員向け事業を実施。平成14年度のプログラムは表2のとおり。
 
表1 ふくのスポーツクラブ費
小・中学生 1,000円
一般(16〜59歳) 3,000円
一般(60歳以上) 1,500円
幼児・身障者手帳所持者 無料
*チーム・クラブ(10名以上)で入会すれば2割引
 
 
表2 平成14年度の年間プログラム
(1)体験会
 クラブの楽しさを体験してもらうため単発的に実施。クラブ員以外も参加できる。アウトドア体験会、よろずスポーツ体験会、夏休みジュニアサッカー体験会など6メニューを提供。
(2)教室
 年間を通じスポーツを体験したいクラブ員を対象に実施するプログラムで、指導者がつき受講料は有料。新体操教室、親子軽スポーツ教室、社交ダンス教室など14教室を提供。
(3)セミナー
 クラブ員を対象に、様々なスポーツに気軽に参加してもらうため用意したスポット的なメニューで、受講料は無料。初級バレーボールセミナー、やさしい太極拳セミナーなど26セミナーを提供。
(4)ジュニアスクール
 中・高校生のクラブ員を対象にしたスポーツ教室で年間を通じて実施し、年間活動費は有料。サッカー、バレーボール、剣道など8競技を提供。
 
NPO法人「出雲スポーツ振興21」の概要と活動状況
 NPO法人「出雲スポーツ振興21」は、平成12年3月に発足し、出雲市が担ってきたスポーツ行政を一手に引き継いだ。出雲スポーツ振興21は全出雲市民をメンバーにした総合型地域スポーツクラブであり、6中校区をまとめ、支援する中枢機関として立ち上がった。
 出雲スポーツ振興21は、NPOの社会的な理解がまだ不十分だった時期に設立されたため、市民の理解を十分には得られていなかったが、中学校区単位での総合型地域スポーツクラブの設立や、ワールドカップでは、アイルランドチームがキャンプを行ったが、その交流を支援したほか、出雲スポーツ振興21が中心になってスポーツ施設をスムーズに運用し、数々のイベントが成功させる等の具体的な成果が見えるにつれて、市民にも存在意義が理解されるようになっている。
 
 事業内容では、本来事業である特定非営利活動事業として、(1)各種体育・競技会・講習会・教室等の開催、スポーツクラブの開設、その他スポーツ振興に関する事業の実施または助言、(2)スポーツ指導者の育成・派遣、(3)スポーツ情報の収集・提供、(4)市から受託したスポーツ振興事業、(5)市から受託したスポーツ施設・備品等の管理運営、(6)スポーツ文化イベントの誘致、(7)スポーツ振興団体の運営または活動に関する連絡・助言または支援など。
 また収益事業としては、(1)スポーツ文化イベントの準備・開催・支援、(2)スポーツ用品等の斡旋、(3)スポーツオリジナル商品等の作成・販売としている。民間企業でイベント等のマネジメントで実績がある人材をNPOで雇用し、その能力を活かして、例えばイベント実施では、開催に伴う周辺事業(弁当の手配、花火の準備等)について、行政が行っていた時にはサービスとして実施してきた業務が、適正価格で有料化できるアイデアが生まれている。さらに、その収益の一部がスポーツ振興に還元される仕組みができ、将来の自立経営に向けて経営努力する意識が徐々に育っている。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION