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IV. 各分野での協働事例
事例1 白石市(宮城県)
〜スキ場の存続を契機とするNPOとの協働〜
1. これまでの取組み
 白石市は、第4次白石市総合計画に掲げた「市民と行政のパートナーシップによるくらし日本一のまちづくり」を具体化するために、平成12年に「白石市民活動支援センター」を設置し、NPOを含む市民活動団体全般の促進を目指してはいるが、NPOを対象とした特段の支援策等は実施していない。しかし、民間企業が経営から撤退したスキー場の存続のために、地元住民が集まってNPOを設立し、市との協働事業としてのスキー場経営、南蔵王山麓の森林環境の再生・保全活動における協働事業等、体系だった支援ではなく地域に密着した活動を行っているNPOとの個別の事業において協働事業を行う等の取組みが行われ始めている。
 
2. 白石市における協働
■スキー場の再建における協働
 平成11年に経営が行き詰まった民間の事業者から「みやぎ蔵王白石スキー場」が、白石市に無償譲渡された。市ではスキー場の経営に関してノウハウがなく、近隣の町営や第3セクターによるスキー場も経営に苦しんでいたこと等から対応に苦慮していた。そのような時に、地元の雇用の確保と地域の財産であるスキー場を守るために、市民の側から、広く賛同者を集めてNPOを立ち上げ、スキー場を運営していくことが提案された。
 住民は運営を行うために、平成11年4月に「不忘アザレア」を設立した(特定非営利法人としての認証は12年8月)。「不忘アザレア」には、医師や地元の旅館業者、主婦など様々な立場の人たちが設立に参加し、地元の企業も法人会員として参加するなど、広範な分野から参加が得られているのが特徴である。地元のスキー場を守るという身近な課題について、ごく普通の地元の人が中心になって設立されたということが、より広範な分野からの参加を可能とした。
 市は不忘アザレアの設立を受け、譲渡を受けたスキー場の整備を行い、管理運営を委託することとした。現在、リフトの運転をはじめ、ゲレンデの整備やレストランの営業、イベントの企画運営などの業務を担うほか、スキー場内の植栽事業やみやぎ蔵王の清掃登山などの環境保全活動にも積極的に取り組んでいる。
 不忘アザレアでは、スキー場の運営については、クレーム情報の一元管理による迅速な対応や「スキー場料金」と椰楡される食堂の料金を引き下げるなど、利用者の声を聞きながらの利用者の視点にたった運営を心がけている。こうした利用者のニーズに沿った運営を行うことにより、平成11年のシーズンから13年にかけて、3年連続で利用者数が増加する等の成果が表れている。
 市営でなく「不忘アザレア」が運営を行ったことにより、利用者の視点に立ったスキー場運営が行えた点や、地元の様々な分野の人が「不忘アザレア」に参加しているため、運営面での課題等の解決について、地域でのネットワークを活かしながら解決している点について評価される。
 
■森林保全と植林事業における協働
 市では「蔵王のブナと水を守る会」と森林の再生・保全について協働事業を実施している。「蔵王のブナと水を守る会」は、「ブナ林の皆伐に反対し、南蔵王一帯の森林環境を守ること」と「中腹部に荒れ地として放置されたところを、落葉広葉樹林に復元すること」を目的として活動している団体である。平成13年に、以前から森林の再生事業に取り組んでいた荒れ地の隣りの土地1.3haが売却されることとなり、その土地を取得して森林として整備するために、取得することを模索したが資金的に余裕がなかったことから、市と市民が一体となった森林管理を行い、森林として再生が終了すれば「不伐の森」として永久に引き継いでいくこと等を市に提案し、市もこの提案を受け入れて「蔵王のブナと水を守る会」の共有財産として管理していくこととしている。
 市では、土地の取得について協力のほかに、当該土地について固定資産税を減免する等の支援を行っている。
 
3. 課題と今後の展望
■地域住民による地域に根ざした活動
 白石市では、地域が抱える課題について、地域住民が主体的に活動したことが成功のポイントといえるであろう。
 市では、「不忘アザレア」や「蔵王のブナと水を守る会」との協働の経験から、NPOの特性である自主性や独自性を最大限に尊重することを前提として、行政の得意とする部分とNPOの得意とする部分を効果的に組み合わせ、行政の様々な分野においてNPOとの協働を進めていく必要性を認識している。
 また、スキー場施設の改修等の必要性等、当初は想定していなかった課題に直面するたびに市とNPOが議論を行いながら運営を行っている。新たに協働事業を行うに際しては、市とNPOの役割分担や責任の範囲の明確化が必要となるだろう。
 
NPO法人「蔵王のブナと水を守る会」
 蔵王のブナと水を守る会は、昭和61年5月に発足し、「ブナ林の皆伐に反対し、南蔵王一帯の森林環境を守ること」と「中腹部に荒れ地として放置されたところを、落葉広葉樹林に復元すること」を活動目標に掲げ、植林活動などを行っている。平成2年には、国立南蔵王青少年野営場での植林実験が許可されたことを契機にグリーンレンジャーを組織し、植林活動と同時に樹種の識別、森林の仕組み、遷移などの基礎学習をスタートした。
 平成10年末には、これをナショナルトラスト運動(貴重な自然環境の保護や歴史的建造物などの保存のために、広く一般の人々からの支援を募って土地や建造物を買い取り管理して後世に残していこうという運動)へと発展させた。また、平成11年3月には宮城県内第1号のNPO法人としての認証を受けた。
 主な活動として、「植林祭」のほか、「森の教室」を開き、森林や植物の学習、植林実験などの実習を行い、その成果を森林づくりに還元している。
 
NPO法人「不忘アザレア」
 発足は平成11年4月(NPO法人としての県認証は同年8月)。白石市内で山岳遭難救助活動やスキー場における青少年育成活動などを行っていた市民らが集まって、事業者の撤退によって一度は宙に浮いたかたちになったスキー場を、地域の財産として市民の手で支えようと結成された。







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