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事例3 大分県庄内町
〜交流体験施設の企画・運営における協働〜
1. これまでの取組み
■交流体験施設の設置を契機に
 庄内町では平成11年3月をもって廃校となった旧長野小学校を交流体験施設として活用することになり、施設で行う交流事業の内容について検討した。
 町は、町職員で体験施設運営プロジェクトチームを作り、事業内容を検討した。町内在住者が事務局長を務めるNPO法人「緑の工房ななぐらす」の活動に着目、「一般の人々に対し、自然とのふれあい、人と人のふれあい事業を行い、自然と人間とが共生する地域づくりを目指す」という「緑の工房ななぐらす」の目的に庄内町の交流体験施設のコンセプトが合致すると考え、交流体験事業の企画・運営について事業委託することになった。
 
■NPOの理解から始める
 町には、NPOについて十分に理解している町職員がいなかったことから、緑の工房ななぐらすとの協働事業を実施するにあたって、町長をはじめ、町職員がNPOに関する研修を受け、基礎的な知識を身につけ、具体的な内容について検討を行っていった。
 町では、NPOが参加することにより、様々なノウハウや専門知識を持った人々が集まることが期待でき、それらの人をネットワーク化することにより、地域活動等の様々な活動に取り組み、地域の活性化を図っていくことができると考えている。
 
2. 庄内町における協働
■「しょうない里山学校」の実施
 庄内町と「緑の工房ななぐらす」が協働で行っている「しょうない里山学校」は、豊かな庄内の自然を生かした環境にやさしい地域づくりと、それを支える人づくりを進めることを目的として、平成14年4月に第1回が開催されている。
 町の自然環境、農村資源を活用して多くの人とふれあい、自然と風土を肌で感じ、原体験を未来の子どもたちへ引き継ぐための活動として、「おもしろく」「わかりやすく」「ためになる」交流体験活動を、地域住民も交えた参加者全員で創り上げていこうというものである。
 コンセプトとしては、週末、田舎ぐらしの楽しさを発見し、住んでみたくなる町と思える環境づくり、(1)温かい出会い、体験ができ、都市と農村の「心と物」の交流ができる場づくり、(2)地元の人材活用、自然活用によって地元も元気になるプログラムづくり、(3)より幅広い人々への環境教育プログラムづくりとなっている。
 
■NPOと意思疎通がとれず初回は失敗
 「しょうない里山学校」は平成14年10月までに第4回まで開催されているが、町では事業を円滑に推進するためには、町と「緑の工房ななぐらす」が役割分担を確認し、お互いに事業の目的を認識したうえで協力関係を築き、事業を実施していくことが必要であると考えている。
 背景には、第1回目の里山学校について、運営がスムーズにできなかったという反省がある。当初、町では運営・企画について委託した以上、準備や運営に関する詳細は緑の工房ななぐらすが担当してくれるものだという認識で事業を進めてしまい、事前に十分な意思疎通ができなかった。このため、運営上の問題点や役割分担について確認ができておらず、結果として運営が混乱してしまったのである。
 第2回目以降の里山学校の開催にあたっては、基本的な事業内容の企画と運営全体のコーディネイトは緑の工房ななぐらすが担当したが、講師の招へい(人選はNPO)手続、参加者の募集、会場の設営・警備・運営等の細かい点については全て町が担当した。事前にそれぞれの役割を細かく分担・整理するとともに、意見交換を行う機会を可能な限り設けて、問題点について十分に検討し、運営がスムーズに行われるように配慮している。
 
■協働事業の評価
 町ではしょうない里山学校の運営事業について緑の工房ななぐらすに委託したことについて、
・住民や行政が気づくことのできない地域外の人間から見た町の地域資源や魅力について発見してくれた
・町にはないネットワークや知識を活かして、参加者のニーズに応えたプログラムを組み立てることができた
・里山学校の準備等を、NPOや地域住民と連携して取り組んだため、町の職員の意識改革につながった
といった点を評価しており、今後も事業を継続していくことを考えている。
 
しょうない里山学校の内容
・第1回しょうない里山学校「みんなで創ろう里山学校」
〔4月27日(土)〜28日(日)庄内ゆうゆう館ほか〕
 交流体験施設「庄内ゆうゆう館」で里山学校を展開していくにあたり、里山学校への理解と協力を得られるようにするため、町内外の関心のある人や関係者に参加してもらい、「里山学校」というものについてともに考え、地域資源の有効活用と保全のためのアイデアと意見交換を行った。
●主なプログラム
・講演
・庄内の伝統文化体験(庄内神楽)
・フィールドワークの実施「庄内をもっと知ろう!」
 
・第2回しょうない里山学校「田んぼの分校。畑の分校」
〔6月1日(土)〜2日(日)庄内ゆうゆう館ほか〕
 庄内の美しい景観の一つである棚田の魅力を再発見し、棚田での田植えの体験や、畑での野菜の植えつけなどによって、土とふれあい、それらの農作業で思いきり汗を流すことと、夜のホタル鑑賞やネイチャーフォトで感性を呼び覚まし、自然のなかにいることの心地よさを体感し、庄内の里山の自然や、農業を愛する心を育てた。
●主なプログラム
・「田んぼの分校」〜田植え作業〜
・「畑の分校」〜夏野菜を植えよう〜
・野外パンづくり体験
 
・第3回しょうない里山学校「山の音楽会」
〔8月2日(金)〜4日(日)庄内ゆうゆう館ほか〕
 「オリジナル楽器を作ろう。山の音楽会」をテーマに、民族楽器奏者を招き、里山散策をしながら、豊かな自然のなかにあふれる音や、神秘に感じたことを音楽で表現する創造の楽しさを体験した。
●主なプログラム
・オリジナル楽器づくり
・ワークショップ
・竹とんぼづくり、神楽体験、神楽ばやし
 
・第4回しょうない里山学校「山の祭り、大収穫祭」
〔10月19日(土)〜20日(日)庄内ゆうゆう館・体育館ほか〕
 田んぼや畑での収穫の楽しさと、大変さを体験し、自分たちが日々食べている作物がどのように育てられているのかを学ぶ。地産のそばでそば打ち体験をするなど、新しい庄内の魅力を再発見する目的で開催した。
●主なプログラム
・そばの収穫・脱穀・粉ひき・そば打ち
・わらぞうりづくり、いもほり
 
3. 課題と今後の展望
■事業の継続を目指して、地域に根ざした活動を行うため運営協議会を立ち上げ
 町では、しょうない里山学校を単発的なイベントとしての「里山学校」で終わらせるのではなく、将来的には、交流の拠点として常設型の「里山学校」を実施することを目指している。そのためには、地域住民、町、緑の工房ななぐらす等の運営に参加するさまざまな主体が参加した運営協議会のような組織を立ち上げ、NPO等が持っている専門知識やノウハウを活用しながら、地元住民の主導により地域に根ざした活動を行い、事業として継続していくことが必要であると考えている。
 
■地元住民の参加と活用
 しょうない里山学校において実施するプログラムは、交流施設である「ゆうゆう館」や田畑、川、森など町のあちこちをフィールドとして利用したプログラムが多く、開催を重ねていくにしたがって、住民にも事業が知られるようになり、運営ボランティアや自分の得意分野の講師として参加を希望する住民が集まり始めている。町では、里山学校を継続的に開催し内容を充実させていくためには、里山学校の運営への地元住民の参加は必要不可欠の要素であると考えている。
 また、第3回目の里山学校の開催から、高校生が運営ボランティアとして参加している。町では、若い世代の里山学校の運営への参加も事業の継続実施のために必要な要素だと考えており、担い手を育成するために緑の工房ななぐらすとの協働事業として、高校生ボランティアの育成を目的とする「ジュニアサポート研修」を実施している。
 
■町内の参加者の確保が課題
 当初、しょうない里山学校の目標として、町の良さを知ってもらうことを大きく掲げたため、町の広報だけでなく、新聞等で広く募集を行った。そのため、町外からの参加者、特に大分市等の都市部からの参加者が多く、相対的に町内からの参加者が少なくなってしまった。都市と農村との交流ということでは成果があったが、地元の人が地元の良さを知り、地元の人のネットワークを作っていこうというしょうない里山学校のコンセプトが十分に達成できなかったと町では考えている。
 
■NPOとの協働の意味を正確に把握する
 NPOに全てを任せるという姿勢では、うまく事業が回っていかなくなる。NPOは行政では実行できない部分をサポートするのだという考え方のもとに相互が詳細に打合せをし、役割分担のもとに事業を進めていくことが基本である。
 NPO法人との連携は、これからますます必要性を増していくことは間違いない。
 しかし、地域の実情や環境をしっかり把握しているNPOでなければ、NPOの特性を生かしながら、地域の実情にあった連携を行うことが難しく、従来から行われているような民間委託と同じ結果となってしまうと考えている。実際、地元になじんでいないNPOが、ただちに、円滑に活動していくことは困難である。そのために、NPOが活動しやすいような体制づくりや、NPOのノウハウを活用しつつもはじめは行政が相当の部分を担っていくことも必要であろう。
 大分市等の都市部ではNPO等も多く存在している一方で、町内NPO等の数が少ない現状では、手間ひまをかけて協働事業を各分野に広げて実施することは難しいと考えている。しかし、機会があれば町としてNPOとの協働について積極的に進めていきたいと考えている。
 
NPO法人「緑の工房ななぐらす」
 平成12年9月1日設立。「自然とのふれあいや心のふれあいを通して環境の大切さを伝える」ことを目的としたNPO法人。
 主な事業として、行政との協働で行っている「しょうない里山学校」(次頁参照)のほか、「ななぐらす自然学校」、「ななぐらすの村キラリ」(村づくりプログラム)、「プロジェクトワイルド指導者養成」などがある。さまざまな特技や技術を持つ人を「ななぐらす応援団」として登録し、ボランティアとして参加してもらって活動を行っている。







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