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2. 我孫子市における協働
■我孫子市の考える協働の定義
 我孫子市では、協働を「性格(団体の目的、長所、短所など)の異なる主体が、対等な立場で、それぞれの長所を活かして、共通の目標に向けて協力すること」と定義して、すべての「協働」の基本に置いている。そして、NPO等と市の「協働のまちづくり」の類型を、(1)自主活動・連携型、(2)市事業への参画型、(3)共同事業型の3つに分けて、それぞれの関わり方を示している。
 
(1)自主活動・連携型
 NPO等と行政が、それぞれの事業を自分の責任で行いながら、共通の目標に向けて連携することを示す。
 たとえば、高齢者・障害者のための住宅改造を実施する場合、NPO側は依頼を受け、バリアフリーの視点で住宅改造を自らの事業として行う。一方、市側は市の制度として高齢者・障害者へ住宅改造の費用の2分の1の助成を行う。
 また、高齢者への食事サービスを実施する場合、NPO側は月3回、手作りのメッセージカードをつけたお楽しみ弁当を届ける。一方、市側は食事づくりが困難な高齢者に夕食の配食サービスを行い、安否の確認とともに生活を支える等である。
(2)市事業への参画型
 市事業の一定部分をNPO等や市民が担うもので、市民の知恵や力を活かし、より市民ニーズに合った効率的な事業展開が可能になるものを示す。ただし、事業の最終責任は市が負うものとする。
 事業委託(委託契約)として、たとえば、近隣センターの管理・運営を地域のまちづくり協議会に委託、市民会館内のレストラン跡の厨房を活用しNPOに調理等を委託し高齢者への毎日型配食サービスを行う、などがある。
 市民参加として、市民手づくり公園事業のように地域住民の話し合いで公園を設計し、作業も住民自身が行うものもある。
(3)共同事業型
 一つの事業をNPO等と行政が共同で行い、責任を分担するものを示す。
 以下で紹介するボランティア・市民活動サポートセンターの運営がこのケースにあたる。市民・社協・市のそれぞれが役割と責任を分担して共同運営をするものである。
 
■ボランティア・市民活動サポートセンターのオープン
 平成14年4月に「ボランティア・市民活動センター」(通称:サポートセンター)が市民会館内にオープンした。これは、前年度の「市民活動センター」の整備にあたっての設立準備会の議論に加え、社会福祉協議会の「ボランティアセンター」との統合を検討した結果、「市民活動センター」(平成13年6月、市設置)と「ボランティアセンター」(平成7年1月、社協設置)を統合し、「我孫子市ボランティア・市民活動サポートセンター」としてオープンしたものである。このような統合は注目される。その背景には、
(1)広く市民活動を支援するととらえたときに、市民活動支援センターと、ボランティアセンターがそれぞれ行う事業に重なる部分が多いこと
(2)ボランティアセンターでは、無償のボランティア活動だけでなく、幅広い活動を展開しようとしていた。同時に補助金依存体質からの脱却も課題であった
(3)市民活動センターでは、臨時職員1名体制のため、提供するサービスの限界があった
といったことがある。
 統合による経費節減も含め、利用者へのサービス充実・効果的な運営のため、市民活動の支援窓口の一本化を図ったのである。
 この「ボランティア・市民活動サポートセンター」は、市と社協の両者による共同設置、市民と市と社協の3者による共同運営として、運営委員会を設置して運営している。運営委員会のメンバーは、市民6名・社協3名・市4名で構成されている。運営委員会は責任と権限を持ち、その決定には市も従う義務を負うというものであり、このような運営形態をとることにより市もセンターの運営に責任をもって主体的に参加し、運営団体にのみ運営を押しつけるのではなく、市として運営に関与している。また、市の市民活動支援課と社会福祉協議会で構成される事務局が置かれている。
 「市民活動サポートセンター」としては、サービスの提供をより充実させることができ、「ボランティアセンター」としては、社協が行ってきたセンターとしての役割を継続して行うとともに、福祉分野以外の活動などの幅広い情報提供ができ、結果、両者の幅広い支援が可能になったのである。また、活動団体相互の連携や交流などが期待できる。ボランティアコーディネーターは、コーディネーターの名称になるとともに、従来の役割を継続しつつ幅広い市民活動の相談役を担っている。ボランティアセンターが行ってきたボランティア保険、移送サービス事業、ボランティア団体助成金は、統合せず社協事業となっている。
 
■市職員の意識改革を図る
 幅広い市民活動の支援施設や制度を設置してきている我孫子市では、今後さらに協働を進めるために、職員の意識改革に力を入れている。平成14年2月には、13年度に実施した協働事業の内容と今後の展開について、全課を対象に調査を行っている。
 14年度には、市職員の意識調査を行い、さらに「協働のまちづくり手引書」を作成し、全職員に配布する。手引書は、「協働とは?」「なぜ協働か?」「NPOとは?」といった基本的なところから入り、NPOの論理と市の論理がぶつかったときの対応などを含め、ケースごとに具体的な事例を紹介しながらわかりやすい表現で作成することにしている。
 また、市では平成14年、日本NPOセンターに1年間1名の職員を派遣研修に出し、NPOに関する基本的な知識や、多様な人間関係を体験し、NPOや中間支援組織にどう対応していくかを学ぶ試みもしている。
 
■市民活動・NPOの支援事業
 ボランティア・市民活動サポートセンターでの場の提供、情報の提供、機会の提供などの支援とあわせて、平成14年度には以下のような施策を実施している。主なものを紹介する。
●市民活動支援パソコン講習会
 市民活動を行っている・行おうとしている人を対象に、チラシや会報の作成、ホームページの作成、インターネットなど市民活動で実際に役立つパソコンの知識と技術を身につけてもらうための講習会である。講師は市民団体に委託している。
 
●市民手作りシンポジウム
 協働のまちづくりのモデル事業として、市民自らが企画・運営するためプランナーを募集し実行委員会を組織して、市民手作りのシンポジウムを開催する。
 
●市民事業・コミュニティビジネス支援講座
 市民事業・コミュニティビジネスを立ち上げるための支援を行う講座を開設する。パネリストには、専門家や全国でコミュニティビジネスを行っている人を招く。市では、コミュニティビジネスを「市民が起こす、我孫子という地域に役立つ事業」と定義している。
 
■市民活動・NPOとの協働事業
 先に述べたように、我孫子市は従来から市民活動が盛んな地域であった。NPOとの協働を推めるにあたって、市では市内で活動する市民活動団体の実態把握から進めていった。平成12年8月に実施した市民活動団体調査では150団体であったが、平成14年12月の調査では230団体にもなっている(NPO法人は2団体から10団体に)。
 協働事業の主な実施例を紹介する。
●古利根公園みどりのボランティア
 明治〜昭和にかけての利根川改修工事の際に、川の蛇行部分が取り残されてできた三日月型の沼が古利根沼である。水と緑の自然豊かな地で、「利根川100景」(建設省)「茨城の自然100景」「我孫子市第4回景観賞」に選ばれている。
 バブル時代に沼の所有者と開発業者により開発申請が出されたが、地域住民を中心とした「古利根自然を守る会」が昭和63年に結成され、開発反対運動が起きた。その後、バブル崩壊、沼の所有権の移転などがあり、市の古利根周辺整備構想、周辺緑地の購入・借入などを経て沼周辺の保全活用に向けての気運が高まり、市の公園緑地課のボランティア募集により平成12年4月から「古利根公園みどりのボランティア」の本格的活動が始まり現在に至っている。
 市民の自主的参加の活動であるが、ボランティアの庶務は、公園緑地課において処理している。
 活動内容としては、沼周辺の森づくり全般、具体的にはササ刈り、下刈り、枝下ろし、樹木やマダケの伐採などを月に1〜2回実施している。
 市民の緑の保全に対する意識が高まっている反面、人手不足や経費の増大などにより管理が行き届かない緑地が年々増えてきている。市では、こうした緑の維持管理や市民が自主的に取り組める仕組みづくりをNPOやボランティアとの協働により図っていこうとしている。
 
●パソコン楽しみ隊
 IT時代に対応し、市内の小中学校でもパソコン教育を進める必要があった。そうしたときに、会員のパソコンに関する知識・技能を地域社会に役立てるために発足した「パソコン楽しみ隊」から申し入れがあり、学校でのパソコン教育の支援がスタートしたものである。
 当初は一つの中学校での指導から始まったが、今では市内の小中学校での活動に広がっている。さらに、身体障害者福祉センターで身体障害者や高齢者へのリハビリを兼ねたパソコン指導も行っている。活動が進むにつれて受け入れ体制側の理解も深まり、現在では学校での指導は1,000円/1日、障害者施設は無料で活動をしている。
 学校教育の現場での支援活動のため、生徒と関わる範囲の線引きや、担当教師との呼吸合わせがむずかしいなどの苦労もあるが、指導を受けた生徒たちは自然体で受け入れており、指導の成果は顕著に認められる。また、世代間の交流が自然な形ででき、お互いのプラスになっている。
 
3. 課題と今後の展望
■NPO・自治会等さまざまな活動との協働によるまちづくりを進める
 我孫子市は、「市民自治によるまちづくり」を最終目標にしている。その実現のために「協働のまちづくり」という手法を用い、その行政手段の一つとしてさまざまな市民活動(個人・ボランティア・NPO団体)への支援施策を行うという3段階で考えている。
 市は、地域の実態をよく理解している多くの市民が、市政に参画することを目標としている。そのため、はじめに支援ありきという考え方はとらず、支援はあくまで目標に対する手段であると考えている。
 自治会等の既存の地縁的な組織の位置づけも、今後の課題となっている。自治会の地域活動もいわばNPOといえる。市民活動支援課では、地縁的なつながりである自治会や近隣センターの運営を担うまちづくり協議会の活動と、市民活動・NPOといった活動をいかにマッチングさせて、新しい活動を生み出すかが課題であると考えている。







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