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事例6 大和市(神奈川県)
〜新しい公共を目指した市民との協働〜
1. これまでの取組み
■市民活動団体実態調査の実施
 大和市は、平成11年4月に市民活動課内に市民活動支援担当を新設し、協働に向けた支援策を講じるための準備を開始した。同年11月に庁内指針となる「市民活動支援に関する取組み方針」を決定し、平成12年4月にはNPO関連課長会議やNPO職員ワーキンググループ等の庁内連携体制を確立している。
 市は、市民と行政の協働で行うまちづくりへの具体的な第一歩として、市民活動団体の現状を把握することから始め、平成12年8月に市民活動団体実態調査を実施した(市内のNPO法人かながわ環境教育研究会に企画・分析等の業務を委託)。
 これにより、非常に多くの市民活動団体が活動している実態が把握できた。
 
■大和市新しい公共を創造する市民活動推進条例の制定
 大和市は、平成12年度に実施した「市民活動団体実態調査」の結果や市民の参加意欲の高まりなどを背景に、市民、市民団体、事業者、行政が、どのような理念のもとで、どのように協力していくべきかについて検討をはじめた。平成13年1月に14名の委員(学識経験者2名、団体代表者6名、公募市民6名)からなる検討会議を発足させ、平成14年1月までに全体会議8回、作業部会12回を開催し、条例素案をまとめ、市は、この素案をもとに平成14年6月、「大和市新しい公共を創造する市民活動推進条例」を制定(同年7月1日から施行)した。
 本条例では「新しい公共」という概念を「市民、市民団体、事業者及び市が協働して創出し、共に担う公共をいう」と定義(第2条)、基本理念として明記(前文、第2条)し、市の役割は、第6条で「市は、市民活動を推進するための総合的な施策を実施し、市民等及び事業者が新しい公共を創出するための環境づくりを行う」とし、「市民活動を推進するために必要な情報公開の徹底」や「市の施策や計画等の策定に当たり、早い段階からの市民参加を促進する」ことを盛り込んでいる。
 まだ、条例が具体的に機能しているわけではないが、市では、(1)市民、市民団体、事業者、市の協働によるまちづくりの推進、(2)市民活動活性化の環境づくりの促進、(3)市民参加の促進、(4)市民事業(市民等及び事業者が行う社会に貢献する自由で継続的な市民活動)や協働事業(市民等、事業者及び市が、お互いの提案に基づいて協力して実施する社会に貢献する事業)など具体的な取組みを進めることによる多様な公共サービスの提供、を期待している。
 
<市民活動団体実態調査>
1)調査の概要
 調査は、市内の市民活動団体をはじめ、学習センターやコミュニティセンターの利用団体、市の各課で把握している市民活動団体など、総数1,124団体に調査票を郵送して実施した。回収数は831通(回収率74%)で、このうち有効な回答を得られた829件を解析の対象とした。
 
2)結果の概要
 調査の結果に現れた市民活動団体の姿は下記の通りである。
 
(1)団体の特徴
 団体の約80%は、会員数30名未満、年間活動費50万円未満。また、参加している人は50歳以上が約80%で、女性の比率の高い団体が約75%に達した。
 
(2)団体の性格
 活動のうち、社会的な活動をしている団体が29%で、仲間内の活動を行っている団体が71%だった。ただし、仲間内の活動を行っている団体の33%は、チャンスがあれば社会的な活動をしてみたいと希望した。
 
(3)活動分野
 活動分野は、「文化・芸術」が30%、「スポーツ・健康促進」が23%で、「環境保全」、「保健・医療・福祉」、「教育」、「まちづくり」などの多彩な活動が続いた。
 
(4)情報の受発信
 活動のための情報の受発信は、市の広報誌や口コミ、イベントなどが主で、電子ネットワークの活用は進んでいなかった。
 
(5)「協働」について
 豊かな市民社会づくりのためには、「協働が重要である」と考える団体が多く、社会的な活動団体では96%に達した。また、社会的な活動団体のうち67%が、行政との協働を「考えている」と回答した。さらに、「協働のための行政支援として重要であろうと思う項目」では、社会的な活動団体が「補助金」(11%)、「市民活動センター」(10%)、「研修、人材育成」(9%)を挙げたほか、仲間内の団体では「会合の場の提供」(17%)、「広報誌の利用」(14%)、「市民活動センター」(10%)となった。
 
(6)活動上の課題等
 活動を進める上で困っていたり、改善したいこととして、社会的な活動団体では「資金」と「運営」を挙げ、仲間内の団体では「活動の場」と「会員」を上げた。
 
2. 大和市における協働事業・支援事業
■NPO法人支援パイロット事業
 大和市では平成12年に、NPO法人の活動基盤の強化と、市民活動と行政との協働の仕組みづくりを推進することを目的として「NPO法人支援パイロット事業」を創設している。
(1)対象
 市内において公益的な活動を行っているNPO法人
(2)支援の内容
 情報の提供、活動場所の提供、財政的支援、公共サービスにおける参入機会の提供等
(3)支援の状況
(1)情報の提供
 事業融資に関連した商工相談指導の実施(平成14年度)
(2)市の施設の提供
 移送サービスを行うNPO法人の福祉器具などの保管場所と駐車スペースの提供(平成12年度〜現在)
(3)財政的支援
 保健・福祉分野の5NPO法人へ総額85万円を補助(平成14年度)
 
「ワーカーズ・コレクティブ ケアびーくる」への支援
 NPO法人「ワーカーズ・コレクティブ ケアびーくる」は、障害者、高齢者、病弱者などの移動制約者の外出を支援するための移送サービスを行っていおり、市の「NPO法人支援パイロット事業」により下記の支援を受けている。
(1)場所等の提供
・車椅子対応車2台、車椅子、携帯スロープ等の保管場所
・会議室の無料使用
(2)コーディネイト等活動費助成 30万円
(3)その他支援・連携
利用者の紹介、技術的援助
(4)パイロツト事業外の連携
法人市民税(均等割)減免。福祉タクシー等利用助成券
 
「かながわ環境教育研究会」への支援
 NPO法人かながわ環境教育研究会では、平成9年2月の設立当初から県や各市との環境関連の協働事業に数多く取り組んでいるが、平成11年9月にNPO法人として認証を受けた後は、大和市から市とNPOの橋渡しを行う中間支援組織に位置づけられ、平成12年には、市の市民活動課から「市民活動団体実態調査」の企画・解析を委託されている。現在、市のNPOへの支援策の一環として、下記の事業が委託されている。
(1)自発的環境学習推進事業(環境総務課との協働事業)
(2)地域通貨「ラブス支援事業」(情報政策課との協働事業)
※なお、調査時点では、市の「NPO法人支援パイロット事業」を受けていないものの、今後は受ける方向で検討している。
 
■協働の具体化が課題
 大和市では、「大和市新しい公共を創造する市民活動推進条例」に、市民等、事業者及び市が相互理解を深めながら対等の関係で協力・連携しながら実施することを進めようとしている。
 しかし、条例の制定等により理念は明らかにされつつあるが、実際の協働事業については、NPO法人支援パイロット事業により支援を行っている事業はあるものの、進展していない現状にある。
 
3. 課題と今後の展望
■具体的な取組みの積み重ねが必要
 大和市では、新しい公共を創造する市民活動推進条例の制定により基本理念は示されたものの、市の担当窓口の統一化、支援拠点となる市民センター設置等の協働事業を推進する体制の具体的なあり方については、現在検討を行っている段階であり、協働事業を実施している状況にはない。一方でNPO法人支援パイロット事業(以下「パイロット事業」)において支援を行っているNPOの中には、継続的に活動を続け、十分な活動実績を有しているNPOもある。そのようなNPOと具体的な協働事業を実施し、実施過程において明らかとなった課題等について、パイロット事業において積み重ねてきた経験と併せて支援体制の検討に反映し、NPOを含めた市民団体の現状に応じた協働事業の推進体制を構築しながら、協働事業を実施することにより条例の理念や目的を具体化していくことが課題となっている。
 条例ができたことで市が変わるのではなく、市との役割分担のもと、責任と自覚をもちながら市民が活動していかないと協働は成功しないと市は考えており、市民の意識改革の必要性も認識している。
 また、市では協働事業の推進を図る観点から、事務事業評価において「市民活動との協働」欄を評価書に設けて、事業年度ごとに市民活動との目標領域を設定させ、事後評価において実績を提出させている。このため各事業課においては、市民活動との協働を意識しながら事業を実施していくことになり、協働事業の実施について前向きに検討が行われることを期待している。
 
ワーカーズコレクティブ「ケアびーくる
 高齢になっても障害があっても、買い物をしたり外出し、安心して暮らせるアクセスフリーのまちづくりを目指し、平成10年5月設立、平成11年9月NPO法人化。大和市内または隣接する地域の居住者(移動制約者)に、移送サービスを行っている。
 
NPO法人「かながわ環境教育研究会」
 「環境教育に関するサポート・サービス」を提供することで社会に貢献することを目指し、神奈川県環境学習リーダー養成講座受講者らが中心となり、平成9年2月設立。以来、千葉県環境財団でのこども環境講座等、県や各市との協働事業に数多く取り組む。平成11年9月にNPO法人化。







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