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第4章 地域福祉交通サービスの課題整理
 本章では、高齢者・障害者のためのSTS・移送サービスだけでなく、高齢者・障害者のモビリティの向上を促すコミュニティバス等の地域交通サービスを含めて、広義の地域福祉交通サービスの計画推進にあたっての課題を整理する。
 
4.1 交通計画の課題
(1)モビリティの必要性(政策と計画)
1)基本的な視点
 今後、交通バリアフリー法に基づき、公共交通機関の分野においてもバリアフリー化が推進されることとなるが、同法で示される施策が実行されても、高齢者・障害者のモビリティの確保は十分ではない。ノーマライゼーションの視点から市民の生活や福祉の向上を目的として、福祉交通のあり方を検討していく必要がある。この中で、高齢者・障害者の移動を含めた生活に必要な最低限の基準作りも必要と考えられ、福祉交通の整備は福祉行政、交通行政の双方に関わってくる課題である。
 
2)福祉交通を含めた地域の公共交通整備計画の課題
 地域全体の公共交通整備と併せて福祉交通を計画することが重要である。
 公共交通のユニバーサルデザイン化を基本としつつ、公共交通だけでは対応しきれない場合、個別のサービスを供給していくことを考えることにより、限られた財源の中で高齢者・障害者の移動支援を実現するポイントとなる。
 
(2)一般交通と福祉交通の協同(地域交通のユニバーサルデザイン化)
 地域交通整備の中で、高齢者・障害者の交通を計画する際に、以下のシステムが考えられるが、特に、地域交通のシステムのユニバーサルデザイン化を図り、交通システム全体で高齢者・障害者の移動支援を実現していく必要がある。
・高齢者・障害者の障害度などに応じて特定のサービス(STS)を供給するシステム
・高齢者・障害者の移動支援を優先しつつ効率的生活交通供給の観点から健常者と混乗するシステム
・市民を対象とする地域交通サービスの中で、バリアフリー化を図り、高齢者・障害者の移動支援を図るシステム
 
1)一般交通の領域拡大
 バス事業における進入撤退の自由化等を背景に、過疎地域を中心として、バス交通の撤退が進行し、地域住民の移動手段の欠如が深刻な課題になっている。また都市部では、都市がスプロールによって広域に分散して形成されている場合、自動車交通中心で公共交通が弱体化している。特に、公共交通を必要とする高齢者・障害者にとって、移動手段を失うこととなる。
 我が国の都市計画マスタープラン、交通マスタープラン策定の際に、高齢者・障害者を含む全ての人を考慮した交通計画を明確に示すことは困難である。その理由は、移動困難者のデータがないこと、バス未満の交通手段(STサービス、フレキシブルな運行をしているバス、コミュニティバス等)の計画がないことにある。
 例えば、コミュニティバスの利用可能性をどれだけ高齢者・障害者に広げるか、フレキシブルな運行をしているバス(デマンド型交通システム)の利用をどれだけ一般の人に広げるか、車いすごと乗車できるノンステップなタクシーの車両の普及を図る等の視点から、横断的に交通システムを設計する手法を確立することが整備推進のために重要である。一般交通の領域拡大でも高齢者・障害者へのサービスの提供が困難な部分が残されており、福祉交通による補完が必要である。
 
2)福祉交通による補完
 このような状況において生活交通維持のための公共交通の再整備・維持の計画が求められているが、この計画の中で、STS、移送サービス等福祉交通を位置づけ、効率的かつ効果的に高齢者・障害者の移動支援を実現していく必要がある。
 環境面負荷の軽減などの視点も踏まえて、公共交通機関を中心としたコンパクトな都市構造に変えてゆくことも必要である。
 
(3)福祉施設整備計画との連携
 市民の生活・経済活動において移動負荷が少ないコンパクトな地域を形成していくことが、持続的・効率的にまちを維持していくために重要である。
 例えば、交通バリアフリー法による公共交通のターミナル等の整備とハートビル法による周辺の公共施設等の整備の連続性に配慮するような方策も必要だと考えられる。
 福祉交通整備においても、例えば、公共施設、福祉施設を集中的に設置し、当該エリアにアクセスとしての公共交通を整備すること、集中的に発生する需要に対応してSTSの計画的配車することなどが考えられる。
 
(4)地域特性、関係所管の考慮
1)過疎地域における福祉交通の充実
 過疎地域では、軽度の障害者等でも公共交通機関の利用もままならない状況にある。また、交通事業が営業として成り立つための需要規模を持たないことから、交通サービスが著しく欠如していることが多く、行政等がイニシアチブをとり福祉交通について検討を進めることの必要性が高い。
 
2) 行政等における関係所管の明確化
 交通事業者に関する権限は国が有しており、シビルミニマムの確保も国の責務とされているところである。
 自治体における地域の福祉交通整備は、例えば、移送サービス、STSは福祉部局、コミュニティバスは交通部局が担当し、相互に予算・情報・ノウハウ・基礎データ等が共有されていないため、総合的な意志決定が行いにくく、地域交通の中で効率的な移動支援の実現が困難になっていると考えられる。
 地域福祉交通を整備推進する部局を明確にし、複数部局にまたがる場合は相互の連携を持つことが重要である。
 
4.2 計画手法の必要性
 我が国ではSTSはボランティア等の個別組織が主体となって運営されてきており、個別組織毎に運営のノウハウが蓄積されてきた。これに対して地方自治体が補助金や資料提供など支援を行う例が見られた。移送サービスについては、高齢者・障害者の通所施設などが独自に対応したり、福祉行政の一部として、自治体が業者に運行委託している例が多かった。これらの交通を行政、関係者が協調して地域交通の一環として統括的な計画作りを検討していくことが望まれる。
 一方、近年、バス事業の撤退後の生活交通維持やバス事業とタクシー事業の隙間の交通を埋めるため、自治体が主体となりコミュニティバスを計画・整備する事例がみられる。これらの事例では、現場における担当者のアイデアに基づき試行錯誤されたり、先進的事例を参考に模倣することにより整備されているが、地域における交通や利用者の実情を的確に捉えていない場合もあり、このような場合には利用しにくいシステムとなっていたり、開業後利用者不足で維持・運営に悩むケースも見られる。
 福祉交通についても、地域の実情に応じて整備するための計画手法を確立する場合、計画手法の流れの例について次頁に参考として示すような案が考えられるが、当該案については今後、多面的な観点から整備事例を参照し深度化、改良していく必要がある。
主に以下の項目について検討していく必要がある。
 
・計画手順の設定
・事業コンセプト策定、事業内容策定のための手法整理
・基礎データの整備
・需要・採算性の検討
・評価システムの確立
 
 需要については、全ての人の外出行動を従来のデータを用いるとともに、新たな調査によるデータも加えて分析、把握する必要がある。従来までのパーソントリップ調査は、高齢者・障害者のトリップも含まれているが、移動制約の項目はない。また、ゾーンが大きくミクロ的な交通計画であるコミュニティバス、STサービスの計画に利用することが難しい。活動日誌(アクティビティ・ダイヤリー調査)等を用いて、移動制約者のニーズを把握し、そのシステムがどの程度有効かを明らかにする必要もある。
 
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図4-1 地域福祉交通計画の手順
 
4.3 事業推進の課題
(1)地域における事業推進主体の検討
 地域の福祉、交通計画についても、当該地域の中で住民生活の実態に合わせて解決策を探っていくことが重要である。
 そうした取り組みの中では、NPO、ボランティアによる運営、民間タクシー事業者等による運営やシンクタンクによる計画策定等、幅広くノウハウを吸収し、資金面や人材面で効率的な事業推進を図ること、事業推進に向けて関係組織を構築していくこと等が重要である。
 
(2)資金調達・行政の補助
 市民福祉の実現のため、資金のかなりの部分を行政財源に求めることとなる。
 一方で、利用者負担のあり方について検討が必要であり、国や地方の財源が逼迫する中、資金、車両調達、人材調達を広く関係者に求めるなど工夫が必要である。
 
(3)事業手続きの明確化・簡素化
 地域の実情に応じた交通の実施を検討する場合、事業手続き等の段階で困難が生じている場合がある。これまでコミュニティバス等を実施してきた地方自治体の例では、地方運輸局の協力を得ながらようやく事業化に至っている状況もあり、こうした手続きに関するノウハウをわかりやすく広く周知するためのマニュアルの作成、手続き窓口の統合・簡素化が望まれる。現在中部運輸局で実施されているホームページでの自動車交通に関するベストプラクティス集の公開などは事例を知るための周知効果が大きいと考えられる。
 
(4)サービス促進のための環境整備
 現在、国の行政面では、安全等の観点からサービスの提供につき規制を行っているが、これに加えて、サービスを促進するための環境整備についても検討すべきである。
 
(5)システム維持・管理上の課題(事後評価の実施)
 供用後に計画通り事業が実施されているか、計画そのものが実情にあっていたかどうか、事業の維持・運営が長期的に可能かどうか評価するシステムを構築する必要がある。
 例えば、運営や運行を入札により委託する場合、契約通り実行されているか、運行、接客等の対応がしっかりなされているか等を評価することにより、質の高いサービス供給を実現することが可能となる。
 供用後の利用状況、利用者・関係者の評価を随時収集し、情報をもとに計画を柔軟に変更していくことが、より利用しやすい交通サービスに改良していくこととなり、この努力が事業存続の鍵となる。







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