日本財団 図書館


3.5 第3章のまとめ
(1)基本的な視点
 基本的な視点は次のとおり。
(1)高齢者・障害者のモビリティを確保する。
(2)STSを含むバス未満の交通領域の改善。
(3)STS利用者の範囲、定義のとらえ方が曖昧なので、移動制約者の範囲を、いくつかの視点で検討する。
(4)STSを計画的に供給するための手法について検討する。例えば、フィンランド等において実施されているように、地域福祉交通計画(基本計画、実施計画)を策定する場合には、都市の条件や交通施設の条件をどの様に整理するか検討することが考えられる。(第4章に関連事項)。
 
(2) 地域交通の枠組みの検討
 地域福祉交通サービスに関する、我が国の政策の現状、欧州の政策、先進事例を把握した。例えば、フィンランドのタクシーや小型バス車両を活用したSTSの特徴としては、自治体の自由裁量が大きいことが挙げられる。公共交通圏域は地域ごとに決定し、そこでの営業ライセンスは当該地域ごとに発行される。配車センターの一本化、バス、タクシー車両の柔軟な活用、IT技術の活用などで、自治体の支出を抑える取り組みが進められていることが明らかになった。
 わが国において、より利便性の高い地域福祉交通サービスを実現するためには、地域福祉の拡充、輸送需要の把握等の観点から生活交通に関するマスタープラン的な計画づくりの必要性が高い。計画づくりには以下のような視点が必要になってくると考えられる。
(1)一般的な地域福祉交通サービスの検討として、当該地域での既存の総合計画、都市計画、交通マスタープランなどとの整合を図る視点。
(2)高齢者・障害者の外出支援、介護、介護予防の視点。
(3)地域福祉交通の中でのSTSの位置づけの明確化と具体化の視点。
(4)計画を実現するための民間事業者活用と許認可権限行使に関する視点。
 技術開発の成果を普及させるという観点からの支援、法制度、財源の点で、地域での福祉交通サービスの充実のための効率的な統合化、連携などが必要になると考えられる。例えば2つの財源で2つのサービスを提供しているような状況では、財源、サービスを一本化し配車の工夫などにより利用者の利便性を維持するようなことも考えられる。
 なお、輸送需要把握のための調査方法としては、従来のパーソントリップ調査では把握できなかった、移動制約者の移動の実態推計を可能にする、高齢者・障害者パーソントリップ調査(NTS:ナショナルトラベルサーベイ型調査)等が考えられる。
 
(3)高齢者・障害者のモビリティ保障の現状
1)行政等の取り組み
(1)地方自治体
 福祉部局のSTサービスは福祉対策の一部として実施され、個々人の移動ニーズは指定された時間、地域内で満たされるが、交通システムとしての扱いは十分とはいえない。
 交通計画及び都市計画的な視点から高齢者・障害者のモビリティ保障を考えている例は少なく、近年のコミュニティバスの運行の広がりにより、ようやく意識されはじめた段階であると言える。
(2)国土交通省
 平成12年施行の「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)」に、「高齢者、身体障害者等を個別に又はこれに近い形で輸送するサービスの充実を図るため、いわゆるSTSの導入及びタクシーの活用につとめること。」とする付帯決議が明記された。
 平成14年度は、「札幌におけるSTSの実証実験」、「バス・タクシー車両の標準仕様策定調査」を実施している。
 移動制約者の重要な足であるボランティアの移送サービスの運行制度については今後変化する可能性がある。
(3)厚生労働省
 平成12年度創設の介護予防・生活支援(外出支援サービス等による自立した生活の支援)事業は、自治体への補助、福祉サービスの一部として実施されており、自治体ごとにその利用状況は異なる
 平成12年4月に介護保険制度が実施され、平成15年度からは支援費事業も発足する予定。
(4)日本財団
 ボランティア団体、NPO法人等に対して、訪問入浴車、介護支援車、送迎支援車、車いす対応車購入の助成を、福祉・ボランティアに関する事業に対して助成金の交付を行っている。
 
2)サービス提供者の取り組み
(1)ボランティア等
 非営利の組織が会員制などにより自宅から目的地までなどの「移送サービス」を提供しており、長年に渡ってSTサービスを担ってきた社会的意義は大きい。個人のボランティアが組織化してNPOとなる場合もあり、自治体の委託を受け、定期的な通院ニーズをこなす輸送能力を持っている団体も多い。一方、ドライバー不足、資金不足の顕在化から、特定の日時に予約が集中すると対応しきれない等の問題を抱えている組織が多い。
(2)タクシー事業者
 福祉輸送の分野への参入を開始した事業者が増加傾向にあり、自治体の委託を受けている事業者もある。次のような福祉輸送のサービス形態がある。
・福祉タクシー:車いす使用者やストレッチャー使用者が乗降できるリフト等を備えた専用のタクシー車両による輸送サービス。
・介護タクシー:移動困難者を対象に、ホームヘルパーの2級を取得した介護ドライバーが運転し、サービスを提供するタクシー。
・契約タクシー:福祉施設への高齢者・障害者の送迎を目的としたタクシー。
・施設送迎サービス:福祉関係施設等への送迎を行うサービス。(タクシー事業者以外の事業者の参画もある)
 
(4)地域福祉交通サービスの内容の検討
 地方部でのバスの撤退、都市部でのコミュニティバスの出現、タクシー事業の経営環境の厳しさ等を踏まえ、まずバス、タクシーのあり方を検討する必要がある。
 また、サービスの提供者としてボランティアの果たしている役割が大きい現状からすれば、この活用を第一に検討する必要があると思われる。
 高齢者・障害者のモビリティについてバス未満の交通システムの領域をみると、バスとタクシー及び移送サービスの中間の交通が極めて薄いこと、利用者便益が大きく運行コストが低廉にできる交通システムの開発が必要であることがわかる。例えば、ドア・ツー・ドアサービスに近いフレキシブルな運行をしているバスの運行は交通領域の改善に有効な施策である。
 政策実現のためには、地方自治体の制度、財源の見直しが必要である。補助を運営側に出すか、利用者側に出すかの検討も必要である。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION