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a. ツースラ市
 ヘルシンキから50kmほどに位置する人口33,000人(フィンランドの自治体の規模から見れば大きな自治体である)の自治体、ツースラ市は市民の多くがヘルシンキに通勤しているベッドタウンである。人口は年2〜3%で増加傾向にあり、比較的若年層、子育て世帯が多い。ここでは、タクシーや小型バス車両を活用したSTSの運行が行われている。
 市内のKeski-uusimaa(ケスキ・ウーシマー)地区ではリフト付きのInvataxi(インヴァタクシー)を利用したサービスを行っている。
 現在のSTサービスは1997年からスタート(車両運行は1998年から)したSAMPOプロジェクトによりテレマティクス(ITを活用した配車、スケジューリングの技術)の技術導入をきっかけとしている。EUからテレマティクスの社会実験と導入のために1996年から1999年まで資金が提供され、それを元に構築したシステムである。
 ツースラ市のサービスはコルシサーリ社に委託され運行されている。コルシサーリ社は、路線バス/チャーターバス/医療交通(アンビュランス・患者輸送)/DRT/タクシーなどを業務範囲とする7つの会社グループ企業で、社員数250名、車両数108台(うちバスは48台)の規模である。最大の事業はヘルシンキ市と契約しているヘルシンキアンビュランス社である。同社がグループ全体の50%を担っている。
 ツースラのサービスを担当するのはDRT部門で、通常のとする。DRTは専用のTDC(Transport Dispatch Center)を持ち、独自の配車ソフトを開発し対応している。
DRTのコンセプトとして以下の点を明確にしている:
 
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 2002年の評価でも60%以上の利用者が相乗り(combined trip)はOK(=very good)という意向を示している。Goodを含めれば9割以上の人が相乗りに何ら問題を感じていない。
 
表3−1 ツースラ市DRTの運行時間
  月曜日〜金曜日 土曜日
予約 0700−2000 0800−1600
運行 0530−2200 0800−1800
 
 運行地域はゾーン制で、3つのFare Zoneが設定されている。1ゾーンの運賃は2ユーロ〜4ユーロである。利用者の身体状況及び配車の状況によっては、一般のタクシー車両を配車することもある。この場合は、DRTのTDC(配車センター)からタクシーのTDCに連絡して対応する。これはグループ企業の利点である。
 同社がサービスを受託する当初のリサーチによれば、同市でのDRTS(Demand Responsive Transport System)がない場合の利用手段は、タクシーが一貫して多い。これはすなわち、高齢者はSTSでなくてもアクセシブルな公共交通ならば利用できる可能性が高いということを示している。したがってSAMPO−DRTの相乗り型のサービスを導入すれば、かなりの需要に対応でき、コストが低く抑えられる可能性が高い。
 多くの自治体では、STSにかかるコストは毎年10-30%程度増加を続けており、社会保障部門では交通に対しては30%増の支出を続けている。そのためこうした事業者が効率的な運行のためのプロポーザルを積極的に行い、既存の車両の投入による付加的投資がいらない、利用者の季節変動にも対応するなど、効率的な運行が可能になることをアピールしている。
 STSの利用資格の認定は「通常の公共交通機関は利用できない」ということが条件で、障害の内容とは関係ない。STSの利用資格は自治体の担当者が決めることになっている。一般に、市の認定担当者は社会福祉部局の関係者が行う自治体が多い。ヘルシンキのような大きな自治体はいいが、小さな自治体(例えば400人程度の街もある)はプロフェッショナルがいないため、市長が認定するところもある。
 STSの利用範囲は居住自治体、近隣自治体、職場への通勤に限定されている。指定地域以外へは普通のタクシーを使うよりも高いコストで自己負担することになっている。ただし、地域外であっても不可欠の通院などで、年金協会(ケラという)が認めるものであれば、後日支払った利用料の一部が保険より還付される仕組みとなっている。
 同市では、STSは25年前は月に4回までという制限があった。現在は通勤はすべて認められ、月に10〜18回のトリップが認められている。障害者の20%は月に18回まで認められている。2002年から通学送迎にも流用したので、子供の利用者も増加している。通学・通院など時間帯を分けて車両をフル活動させている証拠でもある。
 
b. メルビヤック市
 その他にもSTSのサービスを維持しながらもコストを削減する取り組みを行っている自治体がある。ツースラの近隣のメルビヤック市(人口34,000人)では、2000年からタクシーによるサービスを開始し、2001年〜2002年にかけてTDC(Transport Dispatch Center)経由の申し込み方式を採用している。当初、TDC経由の場合のみ、一般乗客と、STS利用認定者の混乗が生じるため、運賃の支払方法をどうするか、新しいシステムへの抵抗はないかなど懸念された。
 TDC設置に踏み切る背景として、1992年からのSTSのコスト上昇があった。この対策のために、SAMPOを採用した。さらにTDCの設置により、 2002年にコストの低下が見られた(表)。今後も、これまでの利用者のうち10%程度は相乗りに移行できると予想されている。
 
表3−2 TDCの設置によるコストの削減(メルビヤック市)
  トータルコスト トリップ 1回当コスト
2002 188,400 7,401 25.46
2001 252,885 8,261 30.61
64,485 860 5.15
(単位:ユーロ) ※25%の節減効果
 
 これによりケラ(国民年金協会)の負担も減ることになる。また、これまでは利用者の必要に応じてどこまでも行っていた運行方式を、距離に応じて利用者の負担が増加する方式に変更したことも影響している。利用者の1回分の自己負担額が増加したが、それでも通常の公共交通の利用額が上限となる。
 
c. ヘルシンキ市
 ヘルシンキはフィンランドの首都であるが、人口規模が大きいだけに2001年に高齢者・障害者のための交通に支出した費用が2,000万ユーロに達する。
 これを15-20%削減するという目標をたて、そのために導入されたのがIntegrated Multiservice Transport Center(IMTC)である。1999年から交通行動の分析を開始し、得られたデータに基づいて、市の社会サービス委員会が事業をコルシサーリ社(上述)に委託しコスト削減に取り組み始めている。
 2002年11月から市の西地域(人口5万人程度)でパイロットプロジェクトを開始し、今後2004年5月にTDCによる本格サービスを拡大していく予定である。IMTCの目標として不正利用、無駄な利用を抑制していくことが挙げられる。今後はDRTを他の用途にも拡大していく計画を検討中である。ちなみに、ヘルシンキでは例えば1人当たりの公共交通の提供コストおよびSTSの提供コストがフィンランド国内で一番高い。
 
ヘルシンキの障害者交通について(概要):
 
−270,000トリップ/年間の実績。2004年には100万トリップへ。
−現在2,100万ユーロのコストをかけている。
−25%のコストカットを目標にしている。
−混乗を勧めている。
 
予約:3時間前まで可(変更許容範囲35分を設けてほとんどの要望に対応できている。)
コスト:コスト/人→自治体からの負担が10ユーロ程度、利用者負担2ユーロで事業者には11−12ユーロが運賃収入として入る。
トリップ長:は平均7km/回。
乗車人数:平均2.5人/台。
 
 通院時にSTSの利用が認められるのはかかっている医師が認定した場合に限られる。家庭医への通院は認められない(全額自己負担すれば可)。ヘルシンキではアンビュランスを利用する場合、必ず9.25ユーロの自己負担が必要になるが、地方自治体では配車の種類によって、利用者負担をどのようにするかの基本方針を持っているのが一般的である。
 
 以上の事例からフィンランドにおいても増加するSTSのコストに対応すべく、配車センターの一本化、バス、タクシー車両の柔軟な活用、IT技術の活用などで、自治体の支出を抑える取り組みが進められていることがわかる。
 
(4)コーディネートジャンボタクシー(日本)
 秋田県鷹巣町では、高齢者7〜8人の通院が月〜金までバラバラであったものを病院と人の両者を調整して毎週木曜日にジャンボタクシーで通院するシステムを作り上げた。運賃は利用者が負担するが、もし人が減って運賃が高くなる場合は行政が負担することを取り決めている。
 
(5)コミュニティカースキーム(Community Car Scheme)(英国)
 高齢者・障害者の送迎や過疎的地域における送迎に自家用車を用いる場合に、利用者からガソリン代・保険代程度を運転手が徴収できるイギリスの仕組み。乗用車の保有率の高い現代では、特にバス路線がない過疎地域や山間地域などでは将来的には不可欠なシステムである。
参考文献:イミダス2003年版







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