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3.2.2 地域福祉交通サービス実施のための検討
 地域福祉交通サービスの計画を役立てる必要性が高い場合、次のような調査方法を検討する必要性がある。
(1)利用者の移動実態調査
 これまで、高齢者・障害者の移動ニーズ、並びに潜在的な需要の把握については、まだ十分な段階にあるとはいえない。高齢者・障害者の移動の実態とニーズを把握する必要がある。
 例えば、従来のパーソントリップ調査では把握できなかった、移動制約者の移動の実態推計を可能にする、高齢者・障害者パーソントリップ調査(NTS:ナショナルトラベルサーベイ型調査)、移動制約者の生活構造と外出の関係を質的に明らかにするアクティビティダイヤリー(生活日誌)調査等が考えられる。高齢者・障害者パーソントリップ調査は量的な把握を、アクティビティダイヤリー調査は障害特性とトリップ内容の関係等を質的に解明することを目的としている。
(2)既存交通サービスの利用実態調査
 STサービス、高齢者・障害者の需要に対応してフレキシブルな運行を行っているバス、コミュニティバス等が、高齢者・障害者のどの層の利用にどの程度貢献しているか、利用者、非利用者を対象とした実態調査が必要である。
 その際、提供されているサービス別の事業費、国及び地方自治体の財源がどのように活用されているかを把握する。
 
3.2.3 地域福祉交通サービス検討の留意点
 地域福祉交通サービスを検討する際の留意点としては、次のような点が考えられる。
(1)検討の手順
 欧米などでみられる先進的な事例から、問題点を明確にしたうえで最適な方向を設定して検討を進める。フィージビリティの検討として、介護保険、道路運送法等の法制度を含めた検討が必要であり、複数の関係者にまたがった幅広い視野が必要になる。
 
(2)地域福祉交通サービスの計画づくり
 より利便性の高い地域福祉交通サービス実現のためには、地域福祉の拡充、輸送需要の把握等の観点から生活交通に関するマスタープラン的な計画づくりの必要性が高いと考えられる。計画づくりには以下のような視点が必要になってくると考えられる。
(1)一般的な地域福祉交通サービスの検討として、当該地域での既存の総合計画、都市計画、交通マスタープランなどとの整合を図る視点。
(2)高齢者・障害者の外出支援、介護、介護予防の視点。
(3)地域福祉交通の中でのSTSの位置づけの明確化と具体化の視点。
(4)計画を実現するための民間事業者活用と許認可権限行使に関する視点。
 
(3)行政の支援の体系化・総合化を図る
 技術開発の成果を普及させるという観点からの支援、法制度、財源の点で、地域での福祉交通サービスの充実のための効率的な統合化、連携などが必要になると考えられる。例えば2つの財源で2つのサービスを提供しているような状況では、財源、サービスを一本化し配車の工夫などにより利用者の利便性を維持するようなことも考えられる。
・技術支援:ディスパッチ(配車)センター等。
・法制度的支援:道路運送法/介護保険/交通バリアフリー法の深化・進化等。
 
3.3 高齢者・障害者のモビリティ保障の現状
3.3.1行政等の取り組み
(1)地方自治体
(1)地方自治体の福祉部局
 福祉対策の一部として実施され、個々人の移動ニーズは指定された時間、地域内で満たされるが、交通システムとしての扱いは十分とはいえない。また、介護保険のケアマネージャーの判断で、移動困難者をタクシーに乗車させることだけでは、移動困難者の交通サービスを交通システムの一環としてとらえ、システムとして提供しているものではない。
(2)地方自治体の交通・都市計画部局
 交通計画及び都市計画的な視点から高齢者・障害者のモビリティ保障を考えている例は少なく、近年のコミュニティバスの運行の広がりにより、ようやく意識されはじめた段階であると言える。高齢者対応か障害者対応か、予算や企画を担う部局によりサービス提供の考え方が異なる場合もある。
 
(3)都道府県(神奈川県・東京都)
 東京都や神奈川県でも80年代から取り組まれているが、政策的には今後の方向性について十分なビジョンを持ったものと言えない側面がある。
・神奈川県:80年代前半福祉の一部として車両の補助を開始した。
・東京都:80年代後半 地域福祉振興財団により福祉サービスの一環として運営補助を開始し、2000年からは車両(バス・リフト付タクシー)補助を開始した。
・その他の道府県:多くの自治体で乗合バス(特に過疎地域)への補助制度がある。
 
(2)国レベルでの取り組み
(1)国土交通省
 外郭団体の財団法人運輸政策研究機構の実施した「スペシャル・トランスポート・サービスに関する調査」(平成9〜10年度)では、道路運送法80条の解釈を一部緩和し、市町村の補助(責任)があればボランティアでも運賃収受できる事を提唱している。
 平成12年11月15日に、「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)」が施行された。その際、義務付け等の対象外の、タクシー、STS(スペシャル・トランスポート・サービス)に関する次のような付帯決議が、衆参両院で可決された。
 
「高齢者、身体障害者等を個別に又はこれに近い形で輸送するサービスの充実を図るため、いわゆるSTSの導入及びタクシーの活用につとめること。」
 
 平成14年度は、「札幌におけるSTSの実証実験」、「バス・タクシー車両の標準仕様策定調査」を実施している。
 なお、移動制約者の重要な足であるボランティアの移送サービスの運行制度については今後変化する可能性がある。
 
(2)厚生労働省
 移動支援は1970年代から実施しているが、施設送迎用リフトバス等、福祉サービスの守備範囲に限定したものとなっていた。平成12年度創設の介護予防・生活支援(外出支援サービス等による自立した生活の支援)事業は、自治体への補助、福祉サービスの一部として実施されており、自治体ごとにその利用状況は異なる(第2章:自治体アンケート結果によると、移送サービスを提供している224の自治体のうち、運営費補助として「介護予防生活支援事業補助(28件)」、「在宅福祉事業費補助金(21件)」の利用が確認できた。)
 平成12年4月に介護保険制度が実施され、平成15年度からは支援費事業も発足する予定。
 
(3)日本財団
 ボランティア団体、NPO法人等に対して、訪問入浴車、介護支援車、送迎支援車、車いす対応車購入の助成を行っている。
 また、福祉・ボランティアに関する事業に対して助成金の交付を行っている。本調査以外の移送サービスに関わる最近の補助事業は、「移送サービス活動に係る資料の電子データ化」、「移送サービスの法的問題に関する事例及び対応例集の作成」等がある。
 
3.3.2 サービス提供者の取り組み
(1)ボランティア等
 ボランティア団体、NPO、社会福祉協議会等の非営利団体は、移動困難な高齢者・障害者に対して、非営利の組織が会員制などにより自宅から目的地までなどの送迎サービス(移送サービス)を提供している。長年に渡ってSTサービスを担ってきた社会的意義は大きい。
 活動資金は会費、実費の利用料金、寄附、社会福祉協議会の委託を受けている団体は助成金等で構成され、市区町村が委託(委託費を拠出)して運営が存続している。
 個人のボランティアが組織化してNPOとなる場合もあり、自治体の委託を受け、定期的な通院ニーズをこなす輸送能力を持っている団体も多い。ドライバー不足、資金不足、特定の日時に予約が集中して雨の日等の急なニーズには対応できない等の問題を抱えている組織が多い。
 
(2)タクシー事業者
 福祉輸送の分野への参入を開始した事業者が増加傾向にあり、自治体の委託を受けている事業者もある。一部、移送以外の在宅介護の分野にも進出している事業者もある。
 
(1)福祉タクシー
 福祉タクシーとは、高齢者・障害者等の移動制約者の病院・施設等への通院等のニーズに対応したサービスとして、車いす使用者やストレッチャー使用者が乗降できるリフト等を備えた専用のタクシー車両による輸送サービス。
 道路運送法上は車いす使用者等に限定した8ナンバーの許可を取得しての運行を指す。
 
(2)介護タクシー(ケア付きタクシー)
 移動困難者を対象に、ホームヘルパーの2級を取得した介護ドライバーが運転し、サービスを提供するタクシー。
 介護タクシーの単位認定については、平成14年度まで乗車・降車の介助行為につき身体介護の報酬(30分:210単位)が算定されていたが、平成15年度以降、「通院等のための乗車・降車の介助」を行った場合に1回100単位とする予定。
 
(3)契約タクシー
 福祉施設への高齢者・障害者の送迎を目的としたタクシー。施設や自治体がタクシー会社に運行を委託している。
 
(4)施設送迎サービス
 タクシー事業者や福祉関係の送迎に特化した事業者が、施設巡回バス、通所型施設への送迎サービス、デイサービスの移送等を担っている。







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