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第5章 情報提供の考え方と課題
5.1 情報提供の考え方
 本調査におけるヒアリング調査、事業者調査および現地確認を通して明らかになった情報提供に関する基本的な考え方を整理すると以下の通りとなる。
 
全体的な情報提供の計画
 現在の情報提供は従来からの放送や掲示板(サイン)による情報提供に新たな情報提供設備を追加してきたものである。一部では、駅出入り口からホームに至る経路において、系統的なサインによる誘導計画が立てられているが、まだ多くはないのが現状である。また、利用者への接遇という点で人的なサポートまで視野に入れた総合的な情報提供についての計画は極めて不十分である。その結果、個々の情報提供設備が連携して機能しておらず、単独で情報提供を担っている場合が多い。そのため、情報提供においては障害者のみならず障害のない人にとっても様々な課題があり、様々な利用者を想定した上で総合的な情報提供方法について場面、情報内容、提供位置、提供方法などについて利用者の行動を想定して情報提供計画を立案する必要がある。
 また、現況の視覚による情報提供は可変式のLED式等の情報提供設備を集約して設置しているが、海外の鉄道駅や空港などで見られるような安価なCRTモニターを活用した分散型の情報提供方法なども含め情報提供の基本方針から検討する必要がある。
 
写真5−1
空港で採用されている分散型の情報提供設備の例
〔経路の随所に比較的安価なCRTモニターを配置しリアルタイムで文字情報の提供を行っている〕
 
情報提供方法の統一
 利用者は異なる鉄道事業者を利用することが多く、一回の移動においても様々な駅、車両を利用することとなる。その全ての駅や車両において情報の提供方法が統一または連続されていないと、利用者は情報の収集が困難になったり、誤った行動に陥る恐れがある。利用者にとっての利用しやすさは事業者に関わらず利用方法が統一されていることである。特に、視覚障害者は、様々な情報が視覚情報により提供されている現状では、利用方法や情報の認知に大きな困難を伴っていることが調査で明らかになっている。また、様々な機器の利用方法を統一することによって事業者にとっても利用方法等の説明を簡素化したり、問い合わせを減少させて人員を他のサービスに振り向けることが可能になる効果があると期待できる。
 統一を検討すべき情報提供内容例としては以下の項目が考えられる。
・券売機における購入方法や券売機の設置位置
・自動改札口の入出場方法(統一することにより利用方法の説明を簡素化できる)
・駅ごとの提供情報の統一(大規模駅において提供されている視覚情報が小規模駅においては提供されていないなど)
・点字表示の情報の設置位置の統一(券売機上の点字表示の設置位置が事業者によりボタンの上下で統一されていない)
・触知案内板への誘導方法
・車両内のドア位置を案内する点字表示(事業者によってドア上、近接する手すりとばらばらである)
 
個別の整備計画と利用者参加の必要性
 鉄道駅は多くの情報が錯綜していることと、構造が複雑であることを考えると情報の提供方法も駅ごとに調整する必要がある。 これは一見情報提供方法の統一と反するように見えるが、上記では提供の内容、位置、方法をルール化するものであり、各駅などでは実際の構造を踏まえ、音の大きさや提供位置等の具体的な提供方法を検討するものである。鉄道事業者のヒアリングにおいては障害者の利用を前提とした情報提供設備でさえ、障害者を交えて確認することがないなどの状況も見受けられる。様々な情報提供設備の干渉を調整したり、情報提供設備の効果を発揮するためにも利用者を交えての情報提供設備の計画づくりが求められる。一部の事業者では設置後においても改修等に際しては障害者にチェックを依頼し、情報提供内容を検証するなどの事例も見られた。
 
情報機器活用への対応
 今回の障害者に対してのヒアリングにおいて顕著であったこととして障害者自身の情報(IT)機器の活用の浸透がある。ヒアリングを行った聴覚障害者のほとんどが携帯電話のメール機能やインターネット機能を活用して様々な場面で情報収集と情報交換を行っていた。しかし、情報提供サイトによっては情報の更新が遅く、鉄道利用中に間に合わないものもあり、鉄道事業者の統一かつリアルタイムな運行情報等の提供が要望されている。また、多くの鉄道事業者では車内の携帯電話の使用を禁止しているところもあるが、聴覚障害者にとっての情報伝達手段である視覚情報が提供されていない車内においては(一部可変式情報表示装置はあるが設置率が低く、リアルタイムな運行情報、緊急情報の提供がされていない)、携帯電話による情報収集が大きな役割を担っている状況がある。そのため、完全な携帯電話の禁止(電源の切断)は情報収集に支障を来す場合があり、車両による仕分けなどにより携帯電話の使用を一部許容することも必要である。現状でも一部の事業者では、号車によりメール等の一部使用を認めた車両と電源の切断までお願いする車両に分類しているところもある。
 
 
写真5−2 偶数車と奇数車で携帯電話の使用方法を変えた例
〔奇数号車では携帯電話による情報収集が可能〕
 
提供する情報を少なくする施策
 提供される情報は多様なことが望ましいが、各場面で必要な情報が的確に提供されることが望ましく、必要以上の情報が提供されることは逆に情報の理解を妨げることとなる。
 また、複雑な情報は障害のない人でも理解できない情報が多く、ヒアリング等で指摘された情報の一つとして運賃表があげられる。一般的には券売機の上部に複雑な路線図に料金が明記されているものの膨大な駅数から理解できないことや弱視者では文字が小さいため理解できない。また、点字表示の運賃表が券売機近くに掲示されているが、掲示場所まで適切に誘導されないなどの問題点があげられる。ヒアリングのなかで利用者の利用方法として(1)Suicaやパスネット等のICカードやストアードフェアカードを活用している例と(2)最低運賃の乗車券を購入し降車駅で精算する2方法が示された。どちらも現況の情報提供に対する利用者の自衛策であるが、情報を適切に伝える施策ばかりでなく、提供する情報を少なくする総合的な利用システムの構築も同時に必要となると考えられる。
 
 
写真5−3 複雑な運賃表







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