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第3部
川をテーマにした様々な自然体験プログラムの例
ここでは、水辺に関する様々な既存のプログラムを紹介しています。
川の生態系をロールプレイで体験してみたり、水質を調べたり、水に入って遊んでみたり、水辺に落ちている素材でいろいろなものを作ってみたり。
いろんな活動に挑戦してみよう。
水辺でのプログラムには危険が伴うこともありますので、必ず先生(大人の指導者)と一緒に行動することを、<子どもたちに徹底しておきましょう。
 
1 森は海の恋人
川に関連したプログラムの例(1)
対象:小4〜中3
教科:理科・生物、社会、家庭科、体育
技能:分析する、分類する、比較対照する、計算する、説明する、話し合う、評価する、一般化する、運動能力を育成する、総合する
所要時間:30〜45分
対象人数:10人以上が望ましい、
学習場所:広い空間
キーワード:食物連鎖、生態系、保全、水、ミネラル、腐葉土
 
目標
1)ミネラル等の栄養分が海洋生態系に取り込まれる経路の例をあげられるようになる。
2)海洋生態系に取り込まれたミネラル等の栄養分の役割を、説明できるようになる。
 
方法
 「カキ・ホタテ(魚貝類)」「ミジンコ(動物性プランクトン)」「ケイソウ(植物性プランクトン)」になり、体を動かす活動を行う。
 
背景
 「森は海の恋人」は、宮城県唐桑町の牡蠣(かき)・ホタテ養殖業者の間で始まった、「漁民が山に木を植える活動」です。なぜ漁民が山に木を植えるのでしょうか・・・。海洋生態系の根幹を成しているのが、植物性プランクトンです。植物性プランクトンを、動物性プランクトンが食べ、それをさまざまな小さな海の生物が食べ、それをさらに大きな生物が食べて・・・というサイクルを構成しています。いわゆる食物連鎖ですね。
 では、その植物性プランクトンは、海のどこにでもあるものでしょうか。どこに一番多く存在するのでしょうか・・・。実は、陸地に近いところに、植物性プランクトンは多く存在するのです。その理由は、研究から分かってきたのですが、植物性プランクトンが成長するためには、鉄分をはじめとするミネラル等の成分及びそれらの吸収を助ける成分が必要で、これらは川からやってくるのです。(広葉樹の森から流れ出す鉄とフラボ酸が、フラボ酸鉄となって川を下り海に流れ込む。単なる粒状鉄と異なり、フラボ酸鉄は海洋性植物プランクトンが取り込みやすいという特徴がある。そのため、豊かな森を背景にした川から流れ込む河口は、植物プランクトンが繁殖しやすい条件を備えるから、動物プランクトンや魚貝類を含む豊かな生態系を維持できる。逆に言えば、森が失われれば、豊かな海も失われる。)
 さらにさかのぼっていくと、これらのミネラル等の栄養分は広葉樹の森から流れ出す淡水に多く含まれていることが判明したのです。(だから、牡蠣の産地と呼ばれる場所は、大抵、川の近くにあるのです。)
 海洋生態系は海の中で自己完結しているわけではなく、実は、森林生態系、河川生態系と密接なつながりを持っている、という「生態系の横のつながり」の話でした。この事は、植物プランクトンに限らず、地球上の生物が単純な食物連鎖にとどまることなく、場合によっては生態系を超えて、広い範囲で相互作用を持っている事を示唆しています。
 そのことを知った牡蠣・ホタテ養殖業者たちは、「牡蠣の森を慕う会」(畠山重篤代表)を組織。平成元年、唐桑町の近くの気仙沼湾に注ぎ込む大川という川の上流に当たる、岩手県室根村の室根山に、ブナなどの広葉樹の植樹運動を開始しました。この森を「牡蠣の森」と呼び、毎年広葉樹を植樹することにしたのです。
 上流の室根村は、県下トップクラスの人工林率を誇っているのですが、この運動がスタートしてから、広葉樹林の知られざる機能を再認識し、この行事に全面的に協力するようになりました。
 なお、大川には気仙沼市民の水がめとなる、新月ダムという多目的ダムの建設計画があり、養殖業者らは、「水を塞き止めると、水が死んでしまう」として、建設に反対していました。もちろん、反対運動はダム堤体部の地元である気仙沼市新月地区の人たちが中心でしたが、「森は海の恋人」は反対運動のバックボーンとしても機能していました。最近になって、建設省が見通しの立たないダム計画を凍結・中止する方針を打ち出しましたが、新月ダム建設計画も、凍結が決定しました。
 さて、数年前、森は海の恋人運動に賛同した室根村矢越の第12区自治会は、室根山と同じく大川の源流部となっている矢越山に、広葉樹の森「ひこばえの森」を整備しました。それ以釆、そこで「森は海の恋人植樹祭」(またの名をひこばえの森植樹祭)が行われるようになりました。毎年6月第1日曜日、ひこばえの森に大漁旗が翻り、県内外から賛同者が参加して、ブナやカエデなどの広葉樹の苗木を植えています。
 したがって、最近は元祖「牡蠣の森」よりも、地元自治会の協力が得られる「ひこばえの森」で、植樹イベントを行うことが多くなったわけです。でも、「牡蠣の森」も「ひこばえの森」も、植えられるだけ植えてしまったので、今後は植樹できる場所を確保することが、課題になるかも知れません。
 森は海の恋人、という魅力的なキャッチフレーズとともに、この植樹祭はマスコミなどに取り上げられ、全国的に展開されつつあります。小中学校の国語などの教科書にも畠山代表のエッセイが登場しているので、知っている人もいるかもしれません。ただし、山に木を植えた漁民は、畠山さんたちが元祖というわけではありません。20年も前に、既に実施していた漁民たちもいるようです。
 広葉樹を多少植えたところで、状況が大幅に好転するわけではありません。それでも、何もしないわけにはいかない、という漁民の切実な気持ちが、こうした運動に表れているともいえます。また、植樹祭に協力するようになった第12区自治会の人たちの意識は、大きく変化しました。地域が一丸となって環境にやさしい農業を考え、漁民と農民が交流を重ね、さらには各地から植樹祭に訪れる人たちとのふれあいの中で、たとえ過疎にあえぐ農山村であっても、誇りを持てるようになったのです。
 この学習の主なねらいは、海洋生態系において広葉樹の森から河川を通して流れ出すミネラル(栄養分)が果たす役割を認識することです。
 
準備するもの
チップに使う使用済みの割り箸 or 4cm角程度の厚紙 or ゲーム用コイン or その他簡単に拾い集めることができるもの。目立つ色のバンダナか腕章、帽子など。紙袋
 
メモ:チップには、使用済みの割り箸を1/4くらいの大きさに切って、その切り口に色をつけると便利です(つまようじは回収漏れが多く、薄い紙は風に飛んでしまいます)。チップは、参加者1人当たり30個が適当です。無色のチップと色のついたチップの割合は1対2とします。「魚貝類」1匹当たり紙袋は1枚(古い封筒が便利です)。
 
オプション用:底の平らな盆か容器(約20×30cm、深さ5cm以上)、スポンジ2個、水を入れておくための小さなボウルかカップ、計量スプーン(大)か目盛り付きシリンダー(15ml以上)、ペーパータオル、ミルクココア







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