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2003/04/18 産経新聞朝刊
【社説検証】イラク戦争 朝日新聞 「米国一強時代」国連など新たな難題
 
<<理は仏独にある>>
 国連による査察をさらに続け、大量破壊兵器を完全に廃棄させる。戦争はあくまで最後の手段だ。対米関係の悪化を覚悟のうえで、仏独両国はそう主張する。
 国内の各種世論調査でも大半がイラク攻撃に反対している。小泉首相は同盟国として米国に平和的解決への努力を促すべきではないか。それが国民の期待である。(2月12日)
<<イラク戦争に反対する>>
 米国はすべてのテロを撲滅するという使命感に燃えているように見える。その気負いは、「ベトナムが赤化すれば、アジア全体が共産化する」と、ベトナム戦争に介入していったころを思わせる。
 国際社会が本腰で取り組むべきは、戦争によらずにイラクの大量破壊兵器の脅威をなくすことだ。それは可能である。
 米国が世界の多くの人々にとってあこがれと尊敬の的であるのは、自由な風土や多様な文化に引きつけられるからだ。おおらかさを失い、軍事力を振り回すだけの国になったら、ただの「帝国」にすぎない。
 この戦争は米国にとってさえ、理も益も乏しいといわざるを得ない。(2月18日)
<<国連を破綻させるな>>
 米国は断じて安保理に背をむけてはならない。最後まで国連を通じた問題解決という一線を踏み越えてはならない。
 弱肉強食の争いを避け、「法の支配」に基づく国際秩序を作っていく手段として、人類が手にしたのが国連である。
 万策尽きるまで平和解決に努めることで国連の権威は守られる。今がその時だ。(3月15日)
<<この戦争を憂える>>
 ブッシュ米大統領がイラクに最後通告を突きつけた。フセイン大統領と息子たちが国を去らなければ、軍事力でイラクを解放する、と。
 米国は国際社会の説得に失敗したのに、独り歩きで戦争へと突き進む。第2次大戦後の世界秩序の大枠となってきた国連の権威は、歴史的な傷を負った。
 自分には力がある。最後は思い通りに行動する。ブッシュ氏がそうした姿勢を変えない限り、欧州やアラブ世界との亀裂は広がる。国連の機能不全も続くだろう。
 そうなってほくそ笑むのは「ならず者国家」やテロ集団ではないか。
 それでも、小泉首相は米国のイラク攻撃を支持すると宣言した。北朝鮮の核問題も背景に、何があろうと米国を支持するというのである。
 しかし、国連での今回の事態は、日米同盟とともに「国連重視」を掲げてきた日本にも様々な影響を及ぼすだろう。
 日米同盟だけでなく、欧州諸国とも連携した国際協調を巧みに使ってこそ、日本の利益になる。米国が強大化し、国連の権威が揺らいでいる時、日本はその原点を見失ってはならない。(3月19日)
<<宗教戦争にするな>>
 戦争しなくても大量破壊兵器を廃棄させる可能性が残っていたのに、ブッシュ政権は制止を振り切るように武力行使の道を選んだ。私たちはこの戦争を支持しない。
 戦争が始まった今、アラブ・イスラム世界には、米英軍を中世の「十字軍」の再来とみなす空気がある。「異教徒に対する聖戦」を呼びかけるイスラム指導者もいる。
 ブッシュ氏に色濃い「正義と邪悪」の考え方には、キリスト教原理主義の影響があるといわれている。彼が演説に聖書の言葉を多用することも、そうした見方に拍車をかけている。
 米国の政治学者、サミュエル・ハンチントン氏が「冷戦後、世界はキリスト教やイスラム教などの文明が衝突するようになる」と指摘したことはよく知られる。
 ブッシュ氏は開戦演説で「イラク国民とその偉大な文明、宗教に敬意を払う」と、自戒を込めた。この言葉を胸に刻んでもらいたい。21世紀の初頭を宗教戦争の時代にしてはならない。(3月21日)
<<これが本当の同盟か>>
 イラクに対する米英の攻撃が進むなか、小泉首相は国会審議や記者会見で、米国への支持を明確に表明した。
 首相は日米安保の重要性を前面に出し、「米国は日本にとって最も信頼できる同盟国だ。日本も米国にとって信頼に足る同盟国でありたい」と繰り返す。
 米国と強固な同盟関係にあるカナダは、国連でのイラク問題をめぐる調整が土壇場を迎えた段階で、平和的解決のため独自の仲介案を提案した。それが不首尾に終わると、「外国の政権交代のための戦争はいつの時代でも望ましいものではない」として、米国支持を見送った。
 本当の信頼関係があればこそ、相手にものを言うことができるのだ。(3月22日)
<<過信が招いた誤算>>
 目算の狂いを裏付けるように、米国防総省は新たに米本土などから約10万人の兵力を投入し、結局、総勢約40万人態勢でイラク制圧をめざすことを決めた。
 「衝撃と恐怖」という名前の通り、破壊力の大きい兵器で大規模空爆を続ければイラク側の戦意は衰え、投降を誘えるという作戦も、効果は乏しい。フセイン政権要人への打撃は少なく、徹底抗戦の意思にも変化が見られない。
 ブッシュ政権には、米国に敵対したり、脅威を与えたりする国の政権は力で倒してもいいという新保守主義の考え方がある。
 戦争の行方に即断は禁物だが、開戦から時をおかずに露呈したいくつもの誤算は、そうしたブッシュ政権の思い込み、思い上がりと無縁ではあるまい。(3月29日)
<<破壊の跡に何を築くか>>
 懸念された首都での長い市街戦は避けられた。せめてもの救いだ。
 それでも空爆の巻き添えで千人単位の民間人が命を落としたと見られる。市民の被害は最小限に抑えるとブッシュ大統領が表明したにもかかわらず、多くの誤爆が市民を殺した。
 今回の政権転覆は、米英軍の一方的な侵攻なしには実現しなかった。
 米英がもし戦勝国としてイラクの石油資源を独占的に管理しようとすれば、戦争の大義が揺らぐだけでなく、米欧の亀裂をより根深いものにする。
 欧州諸国と日本も、統治や復興への協力を通じて、米国を国際協調へと引き戻す外交を本格化させる必要がある。
 私たちはこの戦争に反対してきた。
 国連査察が機能しているのに最後の手段である戦争に訴える必要はない、ブッシュ政権の「先制攻撃論」に立った戦争は国際法秩序を壊す、テロを広げる恐れがある、といった理由だった。
 これらは、戦争が終わろうとしている今も解決してはいない。むしろ、「米国一強時代」の国連のあり方をはじめ、新たな難題を世界に突きつけてもいる。(4月11日)
 
【その他の主な朝日社説】
「欧州世論に耳を傾けよ」 1月18日
「石油のにおいが消えない」 2月13日
「戦争回避が多数派だ」 2月16日
「米国支持しかないのか」 2月20日
「アナン事務総長の出番だ」 2月26日
「単純に過ぎる『民主化』」 3月 2日
「近隣国の『拒否』の重さ」 3月 4日
「北朝鮮は理由になるか」 3月 6日
「フセイン大統領は去れ」 3月 9日
「戦争の旗を振るのか」 3月12日
「米国は孤立の愚を知れ」 3月13日
「踏みとどまる勇気を」 3月14日
「国連への寂しき別れ」 3月18日
「アラブの民意を忘れるな」 3月24日
「きれいな戦場などない」 3月25日
「世界が縮こまる危険」 3月27日
「住民を追い詰めるな」 3月28日
「二重基準が嫌われる」 3月31日
「『非人道兵器』を使うな」 4月 1日
「終わりが見えない戦争」 4月 4日
「国連を軌道に戻すには」 4月 5日
「市民の悲鳴が聞こえる」 4月 6日
「本気で国連を生かせ」 4月 9日
「アルジャジーラだからか」 4月10日
 
 
 
 
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