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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/04/04 産経新聞朝刊
【平成の考現学 久保紘之】「先制攻撃」戦略論
■実在感ない首相の言動
 イラク戦争開戦以来、おびただしい情報が氾濫(はんらん)する中、先月末、初の日本独自の情報収集(監視)衛星の打ち上げ成功のニュースだけは、どこか他とは異なる、いわば確かな実在感を伴った“出来事”だった、といえるように思う。
 「イラク戦争反対」のプラカードを掲げた平和主義者たちの反戦デモもどこか“ウソっぽい”、といって毎日深夜まで米英軍の容赦ないバグダッド爆撃を報ずる衛星テレビにしがみついて、知らず知らず古代ローマの“パンとサーカス”の気分にひたるサラリーマンの腫れぼったい目を東京・霞が関界隈(かいわい)で見かけるのも何となく、うとましい。
 いろいろ理屈はつくが、いずれも仮想空間(バーチャル・リアリティー)でのゲーム感覚で、泣いたり怒ったり恐れたりしているだけではないか、と。
 こう書くと、小泉純一郎首相が日米同盟の重要性と北朝鮮の脅威という現実認識を踏まえ「アメリカのイラク攻撃支持」を打ち出した大英断があるではないか、日本の安全保障にとって、これほど「実在感」の伴う決断はない、という反論があるだろう。
 もちろん、筆者もそれを評価しないわけではない。しかし、北朝鮮の脅威から日本を守ってもらいたいからアメリカのイラク攻撃を支持する、という論理の組み立て方は、政治の最高リーダーの「非常事態の決断」というには、あまりにも消極的かつひ弱過ぎるのではないか?
 実は、この小泉首相の姿勢は、さっそく情報(監視)衛星打ち上げをめぐる国会論議に、大きく影を投げかけることになる。
 たとえば、日本有事(例えば、北朝鮮による弾道ミサイル発射)の際の自衛隊の対応について、昭和三十一年の政府統一見解では、「急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し誘導弾等による攻撃が行われた場合・・・(略)、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは自衛の範囲に含まれる」(鳩山一郎首相)としてきた。
 ところが、政府はその後も「敵基地に対する先制攻撃は、憲法上認められない」とする見解からは、なかなか踏み出そうとしない。
 まず「先制攻撃」について政府の定義は「武力攻撃のおそれがあると推量される場合に攻撃すること」(昭和四十五年、内閣法制局長官)とする。その後、この「推量」の部分の表現のあいまいさを、いろいろ補足する試みはあったが、結論からして「わずか十分足らずで日本に到達する北朝鮮の弾道ミサイルの第一撃を避ける手だては日本にない」(石破茂防衛庁長官)事実は、変わらない。
 そこで、石破長官は「敵基地攻撃能力の保有を検討する」(先月二十七日衆院安保委で)とぶち上げた。本来「実在感」のある言説とはこういうものを言う。
 ところが、小泉首相は石破発言について「日米安保が抑止力になっている。日本への攻撃は米国に対する攻撃になる。日本は専守防衛に徹する」と、否定的な考えを示したのである。つまり、ブッシュ米大統領のイラク攻撃全面支持の時の論理を、そのままなぞっただけである。
 監視衛星は持つが、敵の基地を先制攻撃はできないという現状を、かつて自民党長老の松野頼三氏は、こうからかったものである。「おいおい、北朝鮮のミサイル発射を、まさか実況放送したくて監視衛星を飛ばすのかい?」、と。
 確かに、これほど、残酷な話はあるまい。何しろ、性能のいい監視衛星で敵が核ミサイルをいままさに日本へ向け発射しようとしている模様を、刻々国民に知らせながら、有効な先制攻撃もままならないどころか、F15戦闘機の航続距離を延ばすことすら、憲法で禁じられているというのだから。
 菅直人民主党代表でさえ、どういう思惑が働いているにせよミサイル防衛論に大きく踏み出してきているのに、首相はそれを千載一遇のチャンスとは考えられない。つまり、気分は戦後平和憲法という「バーチャル空間」にとどまったままなのである。
 本来なら、首相はイラク攻撃全面支持を打ち出した以上、アメリカが攻撃を正当化するための新国家安全保障戦略の核心に据えた「先制攻撃」戦略論を、この際日本でも検討すべき責任があるはずなのに、それも投げやりのままだ。
 先の湾岸戦争を回顧してサッチャー元英首相は、次のように書いている。
 「効果的な国際主義というものは、文明化された国際的行動のルールを守り実践するために市民の忠誠心に頼ることができる強い国家があって初めて作り上げることができる」(『サッチャー回顧録「上」』日本経済新聞社)と。
 いま、北朝鮮のミサイルが飛んだか飛ばないかで右往左往している日本政府のぶざまさの根本は「自国の防衛は断固として自国の力で守る」という主権国家のバックボーンを、あいまいにしている小泉首相の言動にある。
 
 
 
 
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