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2003/03/28 産経新聞朝刊
【主張】イラク戦争 誤爆の犠牲と戦争の本質
 
 バグダッド北部の住宅地にある市場が現地時間の二十六日午前、爆撃され、最低十五人が死亡、数十人が負傷したという。米中央軍は「住宅地にあるイラク側のミサイル発射施設九カ所を爆撃したさい、民間人に犠牲者が出たかもしれない」と発表、米英軍機による誤爆の可能性を認めている。
 何の罪もない民間人に多数の死傷者が出たこと自体、痛ましく遺憾なことで、こうした悲劇が今後繰り返されないよう衷心から祈るばかりだ。
 「民間人の犠牲者が出ないよう最大限の努力をしている」と強調してきた米政府にとっても痛手であり、徹底した原因調査が望まれる。「誤爆」と断定されれば国際的批判にさらされかねない。
 しかし、今回の「一時の悲劇」を殊更に煽(あお)り立て、情緒的な「反戦・平和」運動の火にまたぞろ無用な油を注ぐことがあってはならない。そうした勢力の尻馬に乗るべきでもない。それはこのイラク戦争の本質から目をそむけさせ、フセイン政権の二十四年間もの独裁的支配下であえぎ続けてきたイラク国民の「永続的な悲劇」に目をつぶらせる結果ともなる。米英軍の作戦遂行がとどこおれば、むしろ戦争の長期化につながる恐れもある。
 今起きているのは紛れもない戦争なのだ。ブッシュ米政権が突きつけた「四十八時間以内に亡命せよ」との最後通告をフセイン政権が拒否して始まった戦争である。戦闘中、当事者双方に思いもよらない事態が発生したり、犠牲者が出たりするのを完全に防ぐ戦争はあり得ない。
 事の本質をもう一度、確認しておきたい。それは国内で苛烈(かれつ)な人権弾圧を続ける一方、湾岸戦争以来の数々の国連決議を踏みにじって大量破壊兵器の生産・貯蔵を続け、国際社会の潜在的脅威となってきたフセイン大統領の独裁支配に終止符を打ち、民主政権樹立を図る点にある。
 戦闘の過程で民間人が巻き込まれる誤爆は極力起きないよう努力するのは当然だ。一方で、戦争である以上、予想外の最悪の事態が起き得ることも常に覚悟しておく必要がある。その場合でも、フセイン政権側を利する過剰な感情的反応は絶対に避けるべきなのである。
 
 
 
 
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