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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/03/27 産経新聞朝刊
【山口昌子の眼】イラク戦争 不参加へ突き進んだ仏 ドビルパン外相の激情
 
 「シラク大統領自身、こういう結果になると思っていなかったのでないか」−。フランスが「平和の論理」を突き進め、イラク戦への不参加が明らかになったとき、ベテランの仏記者がつぶやいた。
 軍人でリアリストのドゴール将軍が築いた仏第五共和制の基本外交は独自外交であると同時に、同じ民主主義の価値観を持つ米国との同盟関係の尊重である。将軍が「ノン」と言ったのはヒトラーやビシー政権であり、米国の場合も北大西洋条約機構(NATO)脱退や核兵器の所持、中国との国交樹立など、冷戦中の東西のバランス感覚のうえに立った戦略的「ノン」であって、キューバ危機が好例のように原則的問題で「ノン」を言ったことはない。
 今回もこの原則通り、イラク独裁政権打倒の米国に最後まで「ノン」というはずはない、というのが少なくとも一月末ごろまでの多くの外交担当記者や政治学者らの見通しだった。「平和の論理」はフランスの「多極主義の論理」やイスラム教徒への一種のアリバイ工作というわけだ。
 ところが、行き着くところまで行った要因の一つに上げられているのが、ドビルパン外相の存在だ。「父子のようなもの。仲が良いだけ、困ったものです」(モイジ仏国際関係研究所副所長)
 名前に「ド」がつく貴族の家柄で詩作もする。父親は上院の外交委員長。エリート校の国立行政院(ENA)を卒業後、外務省入り。ワシントン勤務も長い。シラク氏が一九七六年に創立した保守政党・共和国連合に創設と同時に入党。九五年にシラク大統領誕生と同時に仏大統領府事務局長、昨年の大統領再選で外相就任という側近中の側近。
 大統領は後に、八〇年に初めてドビルパン氏と会ったときの印象を親しい記者にこう語っている。<<彼がやって来るのが見えた。長身のこの青年は外務省のアフリカ部に勤務していた。実に素晴らしい知性の持ち主だった>>。さっそうと登場した青年にシラク氏が一目ぼれした様子がうかがえる。シラク氏四十八歳、ドビルパン氏二十七歳。
 シラク氏は翌年の大統領選の準備に追われていた。相手は当時の大統領、ジスカールデスタン氏と左派統一候補のミッテラン氏。前者は秀才校の理工科学校とENA卒で仏一の知性が売り物の貴族。後者は文学青年的なところが知識階級から支持されていた。
 シラク氏もENA卒だが、どちらかといえば行動派。七四年から七六年の首相時代にはどこかの国の元首相と同じように「コンピューター付きブルドーザー」と言われた。青年はシラク氏になくて政敵にあるものを備えていた。
 しかも、安保理で、「老いた国フランスは戦争、占領、野蛮行為を知っている。歴史と人々に直面して常に起立してきた」と米国の先輩格であることを強調し、愛国心を刺激する歯切れの良い演説もできるとあれば、大統領の信頼がますます高くなるのは当然だ。
 二人とも同じ十一月生まれで激情家。三月初旬の初のアルジェリア公式訪問ではともに沿道で大歓呼を浴びた。「パリに外相がいるときは日に何回も会い、外国にいるときは日に数回、電話する一心同体の仲」(仏記者)
 九七年の総選挙で保守派が敗退して保革共存政権になったときの戦犯は、大統領に国民議会の繰り上げ解散を勧めたドビルパン氏とされている。「選挙の洗礼を受けていない官僚の危うさ」も指摘されている。「拒否権行使」を示した三月五日の安保理会議後には米仏関係重視の仏議員から「更迭」の声も出た。
 ナポレオンの心酔者。新著は百日天下を描いた「百日、あるいは犠牲の精神」。その一節に「歴史は決して繰り返さないが、思い出は残る」とある。イラク戦に「仏不参加」はどういう思い出を残すことになるのか。
(パリ支局長)
 
 
 
 
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