日本財団 図書館


2003/02/19 産経新聞朝刊
【主張】イラク問題 独裁者を利する反戦主義
 
 国際社会で米国のように強大な力を持つ国家は、常に批判と反発にさらされてきた。反米の理由はさまざまで、欧州が直面する経済的な苦境のうさ晴らしであったり、グローバリズムという名の米国化が固有の文化を破壊するという反発もある。しかし、短絡的な反米・反戦主義は、国連決議に違反するイラクや核開発を振りかざす北朝鮮を利するという決定的な視点が欠落している。
 米国が描くイラク攻撃は、イラクのフセイン政権が湾岸戦争後も数々の国連決議に違反して大量破壊兵器の開発・保有を続けていることに制裁を加え、武装解除することにある。武装解除が狙いである限り、外交交渉で粘ることもあれば武力行使もありうる。相手が独裁者でも交渉で武装解除ができれば、それに越したことはない。
 ところが、反戦主義の偽善性は武装解除を「イラク戦争」と言い換えて矮小(わいしょう)化し、あたかも強い米国が弱いイラクを先制攻撃するというシナリオにすり替えてしまう。実際には、米国は国連を無視することなく、いくつもの安保理決議を積み上げてきた。昨年九月にブッシュ大統領は国連で演説し、さらに安保理決議一四四一を全会一致で獲得し、一月といわれた単独攻撃を踏みとどまった。
 むしろ、ブッシュ政権の「先制攻撃論」はその強さのゆえに、イラクの小出しの譲歩を誘い、国連査察チームの作業に道筋をつけることができた。早急なイラク攻撃に反対するフランスやロシアもその効用は認めている。それどころか、シラク仏大統領は「不戦主義国家でもなければ反米でもない」と述べ、むしろそのタイミングを考えている。フランスがすでに、空母を地中海に派遣ずみであることが、それを実証している。
 国際的な権力政治の駆け引きは、反戦・平和を唱える米国批判派の主張のように単純ではない。イラク向け武器輸出やイラク原油の利益享受国が、イラク攻撃を躊躇(ちゅうちょ)するロシア、フランス、中国であることも頭に刻む必要がある。まして北朝鮮が、反戦主義の流れにのって恫喝(どうかつ)を強める愚行をみれば、「反戦」の唱和がイラクばかりか北朝鮮をも勢いづかせることが分かる。げに偽善的な「反戦イデオロギー」ほど独裁者に加担するものはない。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION