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2003/02/07 産経新聞朝刊
パウエル長官報告 現実味増すイラク攻撃 迫られる反対派の説明責任
 
 コリン・パウエル米国務長官による国連安保理での報告はいまの世界に重くのしかかるイラクの大量破壊兵器・テロ問題をどう変えたのか−。サダム・フセイン政権の国連決議違反を示す根拠の数々は迫力があるとはいえ、徹底して疑えば疑う余地は否めない。だが証拠の提示はイラク攻撃の賛否両陣営のこれまでの攻守を逆転させ、反対側がいったいなぜ反対するかの説明責任を負わされる構図を描き始めた。その点では日本への影響も大きいといえる。
(ワシントン駐在編集特別委員 古森義久)
◆国連の有効性に疑義も
 米国内でのパウエル演説に対する識者の反響は圧倒的な肯定だった。ブッシュ大統領のイラク政策に反対してきた民主党のダイアン・ファインスタイン上院議員は「パウエル長官はこの演説でサダム・フセインが切迫した脅威であることを証明した。私はもはや国連の査察に期待しない」と述べ、イラクへの軍事攻撃への支持を表明した。
 上院民主党ではヒラリー・クリントン議員ら、パウエル演説後においてもなお査察の継続を求める意見もある。だがパウエル演説の迫力によってこれまでブッシュ政権側がなぜイラクへの軍事攻撃が必要なのかを説明する責任を負っていたような状況が、今度は同政権への反対派がなぜ軍事攻撃になお反対し、査察に期待するのかを説明せねばならないような逆転の構図が生まれてきたといえる。
 具体性に満ちたパウエル演説はそれだけ重みを持ち、イラク論議の枠組みを大きく変えて、米国自体、さらには国際社会をいよいよイラク攻撃に向けての「真実の時」へと押しやったともいえる。
 パウエル長官が示した「証拠」をすべて虚偽だと否定することも理論的には可能である。だが証拠の虚偽を証することは証拠の正確さを証明することよりも難しい。証拠をどう読んでも、イラクが少なくとも大量破壊兵器の破棄を積極果敢に進めていないことは歴然としている。
 だから現実の論議では、イラクをすぐに攻撃することで起きるマイナスとイラクの大量破壊兵器の秘密の開発や国連決議の重大な違反をこのまま放置する場合のマイナスとの比較がどうしても緊急課題となる。ブッシュ政権に留保をつける側は前者が後者よりずっと大きいことを証さねばならないわけだ。
 パウエル長官の演説はまた国連の有効性への疑義の提起ともなった。ヘンリー・キッシンジャー元国務長官は「もしフセインが今年末も政権を握っていれば、国連の存在が本当に無意味となる」と述べた。上院民主党の前外交委員長のジョセフ・バイデン議員もパウエル演説をイラク攻撃への決定的な勧告だとみなし、「このままだと国連安保理の有効性が地に落ちるだろう」と強調した。
 パウエル演説はこのように米国内に大きなインパクトを与える一方、欧州の米国同盟諸国にも同様に広範な反響を招いた。欧州では米国の対イラク攻撃にフランスとドイツが反対を唱える形だったが、パウエル演説の結果、ドイツだけが孤立するという気配も生まれてきた。
 フセイン大統領が自ら退陣したり、米国や国連の要求に完全に屈服したりする可能性を除けば、パウエル演説はやはり対イラク戦争を決定的な現実の展望にしたといえよう。
 日本でも米側の「証拠提示の不足」を理由にイラク攻撃に反対してきた陣営は新たな判断を迫られたわけである。
 
 
 
 
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