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(5)本研究の目標値の修正
 本年度のシミュレーション及び実際の収録データの処理結果から、地形歪みの除去精度は、収録システムの各機器の精度だけではなく、各データの時間的整合性、探査幅(レンジ幅設定による海底面画像データの解像度を含む)、斜距離補正時のエラー、照射覆域など複雑なパラメータによって左右されることが確認された。特に照射覆域については、送受波器直下近傍と外側ビームで計測した地点で大きく異なり、直下近傍で密なデータが得られる水深データに対して、海底面画像データは、斜距離補正時において水平方向に画像データが引き伸ばされるため、分解能が劣化する。
 
表13. POS/MVを用いた場合の目標値(KGPSによる測位、照射覆域を考慮しない場合)
水深 垂直方向の目標値 水平方向の目標値
送受波器直下 外側ビーム 送受波器直下 外側ビーム
10m 20cm 25cm 7cm 48cm
20m 20cm 30cm 9cm 89cm
 
 本研究で設定した目標値(表13)は、収録システムの各機器の精度から決定したものであるが、本年度の研究結果から、水深及び海底面画像データの海底面における照射覆域を考慮に入れざるを得ない。
 名古屋港実験の水深10mにおける各ビームの入射角度に対する照射覆域、各海底面画像データ間の水平距離をそれぞれ図91、図92に示す。入射補角が40度を超える外側ビームで計測された水深値は、照射覆域が急激に大きくなるため、データ密度の均一化が困難となり、結果として動揺センサーなどの誤差成分への関与が高まり、測深精度が劣化する。
 
図91. 水深10mにおける各ビームの入射角度に対する照射覆域
 
 一方、海底面画像データは、データのサンプリング間隔が一定のため、水深データとは逆に、送受波器直下近傍ほど解像度が劣化する。
 
図92. 水深10mにおける各海底面画像データの入射補角に対するデータ間の水平距離
 
 以上の結果から、本研究の目標値を表14の通り設定することとする。SeaBat8101の測深誤差5cmにPOS/MVの精度を考慮した。数値には測位データの垂直及び水平方向の誤差は含まれていない。DGPS測位の場合は、垂直方向の誤差±5m、水平方向の誤差±5mを考慮する。またKGPS測位の場合は、垂直方向の誤差±5cm、水平方向の誤差±3cmとなる。
 
表14. POS/MVを用いた場合の目標値(照射覆域を考慮した場合)
水深 入射補角40度以内の垂直方向の目標値 入射補角40度以内の水平方向の目標値
送受波器直下 外側ビーム 送受波器直下 外側ビーム
10m 10cm 15cm 2cm(±1m) 20cm(±0.5m)
20m 10cm 20cm 3cm(±1.5m) 40cm(±1.0m)
 
 垂直方向の目標値は、水深データの照射覆域を考慮し、入射補角が40度以内とした。また送受波器直下の水平方向の目標値は、収録システムの精度に、海底面画像データの照射覆域を考慮して、7cm±1mとした。入射補角40度の外側ビームについては、海底面画像データの照射覆域よりも水深データの照射覆域の方が大きいため、これを考慮して20cm±0.5mとした。
 
(6)名古屋港実験の評価
 名古屋港実験で実施したターゲットを用いたデータ収録について、本年度の処理解析結果から評価を行った。
(a)ターゲットの水深値計測
 ターゲットは、高さ62cmの台の上に、比高50cmのベニア製箱を固定したものである。海底面に設置後、SeaBat8101による水深データの収録を行った結果、入射補角40度以内において、ターゲット1及び2の形状を明瞭に捉えることができた。ただし、ターゲット3については、高さ62cmの台の上に設置したベニア製箱が小さかったために、入射補角40度以内においても、形状を明瞭に捉えることができなかった。
 入射補角が40度を超える外側ビームでは、照射覆域が広くなるため、水深図からターゲットの形状及び方向を捉えることは難しい。
 
(b)ターゲットの海底面画像データ計測
 ターゲットには、散乱強度を増加させるため、図93のようにビニール製のシートを敷いた。
 
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図93. ターゲット1のビニールシート敷設場所
 
 ターゲットには、ビニールシートがある場所と無い場所がある。作成した音響画像から、ターゲットの濃淡の違いを読み取ることができるが、シートを敷いたベニア製箱の起伏によるシャドウとの区別はできない。またターゲットには、散乱強度の増加と散乱強度値の違いを検出するために、2種類のビニールシートを敷いたが、音響画像から強度値の違いを区別することはできなかった。
 一方、ターゲット設置時において、ターゲットの海底面上での方向を確認することができなかったため、現場海域において測線決定に時間を要した。設置時における方向を把握するためには、ターゲット投入方法を改善する必要がある。
 地形歪み除去精度については、今後のプログラム開発とその結果によるが、本年度に作成した水深図及び音響画像から判断すれば、入射補角40度以内においては、精度の高い地形歪み除去が可能であると考える。ただし入射補角40度以内においても、ビーム間の水深値の補間が除去精度を大きく左右することとなる。







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