まえがき
この報告書は、当協会が日本財団からの事業助成金を受けて実施した「K(キネマティック)−GPSを用いた水路測量の効率化の研究」平成14年度分に関した内容、成果等をとりまとめたものであり、また、3年間の研究の総括に相当するものであります。各位におかれましてご参考になれば幸甚であります。
近年、特にK−GPSでは、高さの測定精度が格段に向上し、船舶で測深機とリンクして楕円体上の海面高を測定することにより、直ちに海図の基準面に対する実水深が得られる可能性があります。
一方、膨大な量のマルチビームデジタル測深データに含まれる不良データの除去、誤差評価等、解決すべき問題点、課題がクローズアップしてまいりました。
このような状況から、従来方式の水路測量に代え、K−GPS、ナローマルチビームを用いた水路測量データの解析処理・編集手法を研究開発して総合的に水路測量の効率化を図り、迅速な海図の提供、船舶の安全・効率的な運航に寄与していく所存であります。
本研究のご指導を賜った 安田 明生 委員長を初めとする研究委員会の各位、共同研究として一端を担っていただいた海洋情報部のご担当の方々及び研究の実施を担当していただいた(株)海洋先端技術研究所の方々に厚くお礼申し上げます。
平成15年3月
財団法人 日本水路協会
第1章 研究の概要
1.1 研究の目的
近年、主としてGPS測位システム、ナローマルチビーム測深機等を用い、データ集積、処理にコンピュータシステムを組み込んだ水路測量方式が出現し、技術的な環境が一挙に革新されつつある。なかでもキネマティックGPS(以下K−GPSと呼ぶ)方式によると船位もメートル単位からセンチ単位での高精度測定ができるようになり、また、高さの測定精度も10センチ以内と格段に向上し、地域的な海図水深の基準面と世界測地系の楕円体面との正確な関係づけが可能となり、船舶の精密な高さを測定して直ちに実水深が得られる可能性が見込まれることから、水路測量の効率向上のみならず、大型船舶の制限海域航行の緩和、喫水制限港の緩和に貢献することが期待されている。
また、K−GPSの高精度船位測定とナローマルチビーム測深機による高密度デジタル測深方式により海底の未測定部分が全く無い理想的な成果が得られるようになりつつある等水路測量は技術的には飛躍的に発展している。
しかし総合的な見地に立つと、新しい技術の導入にもかかわらず、デジタルデータの編集、解析処理技術の運用、誤差評価等に意外な人手を要しているため、成果の効果的な提供が遅れている等の問題、課題が指摘されている。
このような現状に際し、問題点及び課題を検討して解決策を研究して、水路測量の総合的な効率の向上を図り、もって海難の防止等に寄与することを目的とする。
1.2 研究の概要
本事業は、陸上固定点(基本水準標)及び海上移動点においてK−GPSの高精度実測及び既存データの収集・解析から得られる高さ(世界測地系に準拠した楕円体上の値)と地域分布を正確に表す基本水準面高低モデルの開発、高低マップ作成及び測量船の高さ精度の検証を実施し、従来の験潮器観測データによる潮高補正処理に代わり測量船の高さ(測深点の高さ)を直接測定することにより任意の位置の実水深が得られる可能性を明らかにする。
また、デジタル測深データ編集、処理過程における誤差の判別及び不良データ除去等問題点、課題等の解決策検討により、水路測量の総合的な効率向上を図る研究を3年計画で行う。
対象海域は、潮位の変化が激しく、従来での高さ基準である基本水準標が周辺沿岸及び島嶼に適度に分布しているほか、最新水路測量データ等の収集、検証が比較的容易な瀬戸内海とする。
本研究の詳細は、各年度で作成した報告書(調査研究資料102,108)を参照されたいが、
初年度には
(1) |
瀬戸内海(大阪湾、関門海峡を除く)の本州、四国沿岸域及び各島の基本水準標の楕円体上の高さ測量 |
(2) |
最低水面高低モデルの開発研究 |
(3) |
播磨灘、安芸灘及び周防灘で測量船の高さ精度の検証のためのデータ収集及び解析 |
2年度目には、
(1) |
瀬戸内海(大阪湾、関門海峡を除く)の播磨灘、安芸灘、燧灘周辺の各島の基本水準標の楕円体上の高さ測量 |
(2) |
最低水面高低モデルの開発研究及び高低マップの試作 |
(3) |
広島湾における測量船の高さ精度の検証のためのデータ収集及び解析 |
(4) |
K−GPS及びマルチビーム音響測深機デジタルデータの編集・処理技術の開発研究 |
平成14年度は最終年度目として、前年度までの成果を踏まえ、下記の事項について実施した。
(1) |
最低水面高低モデルの検証・評価
a モデル検証のための測深作業及びデータ整理
b 最低水面高低計算プログラムの修正
c 高低マップの作成
d 最低水面高低モデルの評価 |
(2) |
最低水面高低モデルによる潮高改正の可能性の評価 |
(3) |
マルチビーム音響測深機デジタルデータの編集、処理技術の開発研究
a 音響測深機デジタルデータの処理プログラムの開発,作成
b 誤差判別及びデータ編集プログラムの開発・作成 |
1.3 委員会等
1.3.1 委員会の構成
下記の方々により構成し、ご審議、ご指導をいただいた。
(敬称略、順序不同)
委員長 |
安田 明生 |
東京商船大学 教授 |
委 員 |
加藤 照之 |
東京大学地震研究所 教授 |
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浅田 昭 |
東京大学生産技術研究所 教授 |
関係官庁 |
桑島 廣 |
第六管区海上保安本部 海洋情報部長 |
|
桂 忠彦 |
海上保安庁海洋情報部 海洋調査課長
(平成14年度から海洋情報部 以下同じ) |
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小田巻 実 |
海上保安庁海洋情報部 技術・国際課 海洋研究室長 |
|
戸澤 実 |
海上保安庁海洋情報部 海洋調査課 主任海洋調査官 |
|
矢吹 哲一郎 |
海上保安庁海洋情報部 技術・国際課 海洋研究室 主任研究官 |
|
寺井 孝二 |
海上保安庁海洋情報部 技術・国際課 海洋研究室 主任研究官 |
|
(作業部会) |
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戸澤 実 |
海上保安庁海洋情報部 海洋調査課 主任海洋調査官 |
|
熊谷 武 |
海上保安庁海洋情報部 環境調査課 主任環境調査官 |
|
藤田 雅之 |
海上保安庁海洋情報部 海洋調査課 航法測地室 航法測地調査官 |
|
打田 明雄 |
海上保安庁海洋情報部 技術・国際課 海洋研究室 上席研究官 |
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中村 啓美 |
海上保安庁海洋情報部 技術・国際課 海洋研究室 上席研究官 |
|
矢吹 哲一朗 |
海上保安庁海洋情報部 技術・国際課 海洋研究室 主任研究官 |
|
寺井 孝二 |
海上保安庁海洋情報部 技術・国際課 海洋研究室 研究官 |
事務局 |
我如古 康弘 |
(財)日本水路協会 常務理事 |
|
川鍋 元二 |
(財)日本水路協会 審議役・調査研究部長 |
|
進林 一彦 |
(財)日本水路協会 調査研究部次長 |
|
村井 弥亮 |
(財)日本水路協会 主任研究員 |
委託先 |
植木 俊明 |
(株)海洋先端技術研究所 代表取締役 |
|
小澤 幸雄 |
(株)海洋先端技術研究所 取締役 |
|
中條 拓也 |
(株)海洋先端技術研究所 海洋技術室長 |
1.3.2 審議経過
平成14年6月25日 |
第1回研究委員会 |
事業計画の了承、事業実施計画書の審議・承認 |
平成14年11月18日 |
第2回研究委員会 |
事業の中間報告の審議・承認 |
平成15年2月27日 |
第3回研究委員会 |
事業の最終報告及び総括、報告書(案)の審議・承認 |
この他、平成14年5月29日、11月11日、平成15年2月17日
計3回の作業部会を開催し、細目細部の整理・検討等を行った。
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