3.9 コンバインドサイクル機関
3.9.1 重点研究テーマの選択に関して
今後、コンバインドサイクル機関は以下の観点から需要増が予想され、研究開発を行なう価値がある。
(1)環境問題
今後、厳しさを増す環境規制をクリアするためには、ガスタービンを用いたコンバインドサイクル機関は、ディーゼル等の他の機関に比べて非常に有利な立場にある。
(2)舶用機関の信頼性向上、維持管理費低減の可能性
ガスタービンを主体としたコンバインドサイクル機関は機関自体及びプラントとしての信頼性(冗長性を持たせた設計)は非常に高い。
陸上での定期メンテナンスにより維持管理費用は大きく抑制できる可能性がある。
(3)ガスタービン機関の初期投資額の低下が予想される背景
陸上においては、1基当たりの電気出力が100万kWを越える火力・原子力発電所に代わって中小規模電源を複数使用するシステムが注目されている。経済の浮き沈みに対応して時々刻々変化する電力需要に対して、柔軟に対応するためには、中小規模の分散電源をネットワークで結び、必要な電力に対して稼動電源の数を変える方法が非常に有効であると考えられている。
元々、負荷変動に柔軟に対応することを要求されてきた舶用機関は、この陸上ネットワークに必要とされている、信頼性が高く高効率な中小規模の分散電源そのものである。特に、ガス燃料にも対応可能であり、しかも環境調和型機関であるコンバインドサイクル機関は、陸上の高度エネルギ有効利用のために、今後、積極的に用いられることから、生産台数が増え、価格が大きく引き下がると予想される。
また、小型のコンバインドサイクル機関はアジアでの陸上発電所に対する需要があると考えられている。このことも価格を下げる要因となる。
(4)客船用の機関プラントとしてのニーズ
客船は高付加価値船であり、今後も需要増が予想されるので、造船業発展のためにはさらなる高効率機関の技術開発は必須である。
客船では電気だけでなく熱(蒸気)も大量に必要とすること、排気ガスがディーゼル機関に比べ“クリーン”であること、信頼性を要求されること等から、コンバインドサイクル機関は客船には好都合である。
客船では航海のフェーズにより必要なエネルギの形(電気、蒸気)が変化する。これに柔軟に対応するための蒸気タービン機関の熱電比可変システムは客船に特有な重要な技術の一つである。
図3.9.1−1 客船“Millennium”
図3.9.1−1に示したのが、最初に建造されたガスおよび蒸気タービンのコンバインドサイクルを搭載した客船ミレニアム号の外観である。総トン数は91,000トン、水線長さ294m、乗務員数999名であり、船籍はリベリアとなっている。客室は全部で975部屋あるが、プライベートバルコニーが付いた部屋がその内590部屋あり、乗客定員は1,950名である。船内には、ショッピングアーケード、劇場、図書館、プール、サウナ、トレーニングジム、バスケットボールコートおよびカジノ等があり、一つの街を形成している。
機関システムは、コンバインドサイクルを採用しているが、従来のディーゼル機関と比べてNOx排出量は80%低減、SOx排出量も98%低減となっている。
図3.9.1−2に示したように、GEの航空転用ガスタービン(GT)であるLM2500+を2機、その排ガスの持つ熱で発生させた蒸気を利用した蒸気タービン(ST)1機により発電を行い、電気モーターを回転させ船を推進させる。燃料は軽油(Marine Gas Oi1)を用い、大気圧復水器を採用したことにより排気蒸気を船内で有効利用可能としている。
図3.9.1−3に実装したLM2500+の写真を示したが、このガスタービンの熱効率は39%であり、これ2機と蒸気タービンの合計最高電気出力は59MWとなっている。
ミレニアム号では、ポッド式推進モーターが用いられている。電気推進モーターは、船外のポッド中に収められ、直結したプロペラを回転させる。ポッド内は空気冷却され、モーターの発熱分を除去する。このポッド自体が周方向に回転可能であるので舵の役割もすることになる。
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図3.9.1−2 エンジンシステムの概念図
図3.9.1−3 ガスタービンの船内据付状況
また、発生した電気は推進だけではなく、船内の空調システムや照明等のサービスにも供給される。発電に使われなかった蒸気に関しても、熱源や洗浄等を目的として、高圧(HP9bar)および低圧(LP3bar)蒸気が船内に供給される。
複合サイクル機関に期待されるメリットとしては、
(1)NOx、SOxおよび排出粒子状物質(PM)を低減し、IMOの規制をクリアすること
(2)客船にとって重要な煙突からの煙が見えないこと
(3)蒸気タービンを併用することによる燃費低減
(4)機関室の縮小による、客室等に使えるスペースの3〜6%の増加
(5)高い信頼性
(6)船上での整備作業の低減
(7)エンジン騒音や振動の低減
が挙げられる。
特に機関室スペースの縮小分を客室等に使うことは、ガスタービンの燃費がディーゼルよりも高いことを補った以上に、経済的に価値のあるものと考えられている。また、高い信頼性や船上での整備保守作業の低減は、人件費等の節約にもつながりこれも高い燃費を補うことになる。さらに、複合サイクル機関は、従来のディーゼル機関に比べて、補機類、パイプ、バルブや制御機器の点数がはるかに少ない。機器数が少ないことは、据付や保守点検費用が安いことを意味している。ある試算によると、複合サイクル機関にすることによって、従来採用されていた中速ディーゼル機関に比べて機器数が90、ポンプ数が30、バルブ数が350、制御機器数が800、パイプやダクト長さが5,600m削減できるとされている。この削減されたパイプ類の重さは150トンにもなる。船全体としては、コンバインドサイクルの採用により約1,000トン軽くなり、推進力を1.6%削減することができた。
表3.9.1−1に示したのは、高速航海、通常航海、停泊中におけるエネルギーバランスである。高速航海ではGT2機とST1機、通常航海および停泊時においてはGT1機とST1機が用いられる。例えば通常航海においては、GT発電の効率は37%であり、これにST発電を加えた発電効率は42%に達する。さらに蒸気を利用すると総合効率は48%に達する。また、高速航海と通常航海に必要とされるCoGES(Combined Gas turbine Electric and Steam systems)総合出力は、それぞれ53,500kwおよび28,700kWであるが、この大きな負荷の違いにも関わらず効率42%を維持している。これは、より高効率な大型GT1機を用いた負荷変動システムとしないで、小型GTを2機導入しその稼動数を変えることにより、効率を低下させること無く負荷の調整が可能となったことに依る。
表3.9.1−1 エネルギーバランス
Operation Mode |
High Speed Transit |
Cruise |
In Port |
Speed Requirements |
22Kn |
18Kn |
0Kn |
Power Plant Configuration |
2xLM2500+ & 1xSTG |
1xLM2500+ & 1xSTG |
1xLM2500+ & 1xSTG |
Total GTG Output |
46,000Kwe |
25,000Kwe |
10,000kwe |
GTG SFC |
0.236Kg/kWh |
0.230kg/kWh |
0.310Kg/kWh |
GTG Efficiency |
36% |
37% |
27% |
32 bar Steam Production |
64,000Kg/h |
35,000kg/h |
19,000Kg/h |
STG Output |
7,500Kwe |
3,700kWe |
1,500kWe |
CoGES Output |
53,500Kwe |
28,700kwe |
11,500kWe |
CoGES SFC |
0.203Kg/kWh |
0.200kg/kWh |
0.270Kg/kWh |
CoGES Efficiency |
42% |
42% |
31% |
STG Exhaust to Service Steam |
22,000Kg/h |
22,000kg/h |
19,000Kg/h |
Energy Available in Service Steam |
3,776KW |
4,028kW |
4,276KW |
Total Plant Output |
57,276KW |
32,728kW |
15,776kW |
Total Plant SFC |
0.190Kg/kWh |
0.176kg/kWh |
0.197kg/kWh |
Total Plant Efficiency |
44% |
48% |
43% |
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(5)LNG船の機関プラントとしてのニーズ
・LNG船では蒸気タービン機関が主流である。しかし、近年、蒸気タービン機関より効率が高い機関の要求がある。
・LNG船は高付加価値船であり、今後も需要増が予想されるので、造船業発展のためには高効率機関の技術開発は必須である。
(6)コンバインドサイクル機関における小型蒸気タービンの高効率化ニーズ
・今後、ガスタービン+蒸気タービンのコンバインドサイクル機関ではプラントの効率を上げるには小型蒸気タービンの効率を上げることが重要となる。
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