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3.8 スターリング機関
 スターリング機関は、外燃機関であることによるサイクル最高温度制限、高伝熱性能、低流動損失、コンパクトさ(デッドボリュームの減少)を同時に満足する熱交換器(加熱器、再生器、冷却器)を実現することの困難さ、流動抵抗とのバランスによる回転速度の制約・無潤滑ディスプレーサシールの耐久性等の問題があり、高効率、高出力の機関を実現する上で、この機関特有の問題を有している。スターリング機関では、熱効率や出力は各種熱交換器の伝熱性能や流動性能に複雑に関係しているが、これまで研究・開発されたスターリング機関の性能データに基づいてその性能を検討した。
 これまでに作られた代表的なスターリング機関の要目を表3.1.8−1に示す。これらの作動流体最高温度はおよそ700℃で、熱効率は30〜40%の範囲にある。しかし出力は、ほとんどが1ユニット当たり200kW以下で、小型の舶用主機あるいは補機レベルの出力を目指したものは、SR173研究で実験的に作られた機関のみであった。1)〜5)
 
表3.1.8−1 代表的なスターリング機関の要目
開発
会社
開発
形式 Cyl.数 行程
容積
cc
最高
出力
PS
回転数
rpm
熱効率 回転数
rpm
平均
圧力
atm
最高
温度
作動
流体
用途
Philips 1954 RD 1 365 56 2100 38 1200 165 700 H2 ボート、
発電用
Philips 1959 RD 1 98 25 3500 33 120 210 700 H2 ボート、
発電用
Philips 1966 RD 4 235 200 3000     220 700 H2 or He ボート、
バス用
Philips 1968 DA Sw 4 65 60              
Philips 1972 DA Sw 4 215 170 4000     200 750 H2 乗用車用
United Stirling 1968 RD 4 235 200 3000     220 700 He ボート、
バス用
United Stirling 1971 RD 4 615 200 2400 35 1000 150   H2  
United Stirling 1973 DA     100 2400 32 1200 150   H2  
MAN MWM 1971 RD 1 400 30 1500       110   実験用
SR173実験機関 1981 SA 2 5700 200 720 35 720 113 690 He 実験用
(計画値)
SR173実験機関 1981 SA 2 5700 89 556 21 556 110 702 He 実験用
(実験点)
SR173開発目標   DA 4   800   40 720     H2 or He 計画値
RD:ロンビック型、SA:単動型、DA:複動型、Sw:スワッシュプレート型
 
 表3.1.8−1に示された実験機関の要目から、膨張空間の最高ガス温度と圧力の関係をまとめると、図3.8−1が得られる。
 
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図3.8−1 最高ガス温度と圧力の関係
 
 膨張空間の最高ガス温度は700℃程度であり、現用の材料(ヒータ管及びそのロウ付け材)の耐熱温度から200〜300℃低い温度になっている。
 図示熱効率は理想サイクルの熱効率の70%程度になることが経験的に知られているので、現状技術を想定すれば、熱効率を式(3.8−1)で近似的に評価できる。
η≒0.7ηbηmech(1−τ)・・・(3.8−1)
 ここでηbはボイラ効率、ηmechは機械効率、τは温度比である。ηb=0.9、ηmech=0.9とし、サイクルの最高温度と最低温度をそれぞれ700℃、50℃とすれば、τ=0.3となり、熱効率は約40%となる。耐熱材料の開発状況から、現状では40%を大幅に越える熱効率の実現は困難と考えられる。
 平田がホームページ上で公開しているスターリング機関性能の推算法6)に基づいて、現状技術に基づいて作られるスターリング機関の膨張行程容積と回転数、出力の関係を推算した結果を図3.8−2に、膨張行程容積と比出力の関係を図3.8−3に示す。計算条件は、作動空間平均圧力を15MPa、膨張空間ガス温度を700℃、圧縮空間ガス温度を50℃そして作動流体は水素とした。膨張行程容積を基準にした、単位体積当たりの出力(比出力)は、出力100kWのものでおよそ100kW/(10−3m3)と推算され、総行程容積で単純に比較すれば4サイクルガソリン機関並となる。出力の上昇と共に、比出力、回転数ともに低下する傾向がある。
 現状のスターリング機関の軸出力は、近似的に式(3.8−2)で表される。
Wout≒0.2PmVe(n/60)・・・(3.8−2)
 ここでWout:軸出力(W)、Pm:平均圧力(MPa)、Ve:膨張空間掃気容積(cm3)、n:回転数(rpm)である。
 幾何学的な相似条件を保って大きくした場合、温度及び圧力の条件を一定(耐熱材料強度の制約)にするため、ヒータ管の厚み/直径比は一定に保つ必要がある。この場合、ピストン平均速度は一定(大きくなると回転数は低くなる)となる。これは熱交換器の流動損失及び無潤滑ディスプレーサシールの耐久性に起因するもので、従って作動流体の流動速度は同じになる。
 
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図3.8−2 出力と回転数と膨張空間行程容積の関係
 
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図3.8−3 比出力と膨張空間行程容積の関係
 
 これらの条件によれば、比出力及び回転数は膨張空間掃気容積の1/3乗に逆比例し、出力は膨張空間掃気容積の2/3乗に比例する関係になる。ただし係数0.2は現用技術によるもので、この係数を大きくするには次のようなブレークスルー技術を必要とする。例えば高性能熱交換器(高い伝熱性能と低流動損失)、高耐久無潤滑シールなどである。
 大型の舶用機関を想定した平田らの検討結果7)によれば、作動流体を実用的な空気とした例であるが、熱効率はおよそ30%程度であり、同程度の出力の現用ディーゼル機関に比較して熱効率面での優位性は見出せていない。また機関高さは大差ないものの長さがおよそ2倍になり、大きさの観点でも不利となっている。安全性、価格の問題を解決し、作動流体として水素又はヘリウムを使用することが可能になれば性能を改善し小型化できる。
 いずれにせよ、スターリング機関は外燃機関であるため、加熱器伝熱面の耐熱強度が制約条件になり、大出力化しても、現用の耐熱材料では熱効率は高々40%になる。材料の耐熱温度は年々向上しているものの、大幅な上昇は望めず、熱効率40%、数百kWを越える出力のスターリング機関を、本研究が想定した時期に実現するための技術的道筋は見出せなかった。
 
参考文献:
1)山下他4名、“スターリングエンジンの理論と設計”、山海堂、1999(H11).3
2)造研 SR173、“スターリング機関に関する研究”、研究資料No.301、1978(S53).3
3)造研 SR173、“スターリング機関に関する研究”、研究資料No.319、1979(S54).3
4)造研 SR173、“スターリング機関に関する研究”、研究資料No.328、1980(S55).3
5)造研 SR173、“スターリング機関に関する研究”、研究資料No.339、1981(S56).3
7)平田他1名、“20,000kW級舶用スターリングエンジンの検討”、日本機会学会、第6回スターリングサイクルシンポジウム講演論文集、2002(H14).10







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