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3.7 燃料電池
3.7.1 重点研究テーマの選択に関して
 自動車用燃料電池の急速な開発で、燃料電池の1スタック当りの出力が大きくなって来ている。1スタック当りの出力は100kWをほぼ達成しつつあり、大きさの点でも内燃機関に近づいてきたといえる。出力的には小型船舶の推進出力に近づき、オランダの内航船(運河を動く船)では水素燃料電池が推進装置選択のターゲットの入っている。燃料電池は環境、振動、騒音面で他の熱機関より大変優れており、この性能が評価されている。
 燃料電池の種類について表3.7.1−1にまとめた。今までの舶用としての実績と舶用推進機関に求められ多出力を考慮すると、燃料電池の中で舶用として使用される可能性があるものは、表中のリン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体高分子型(PEFC)の三つが可能性高いと考えられる。
 
表3.7.1−1 燃料電池の種類
  アルカリ型
(AFC)
リン酸型
(PAFC)
溶融炭酸塩型
(MCFC)
固体電解質型
(SOFC)
固体高分子型
(PEFC)
作動温度 60〜90℃ 200℃ 650〜700℃ 900〜1000℃ 70〜90℃
燃料 水素 天然ガス(改質) 天然ガス 天然ガス 水素
      石炭ガス化ガス 石炭ガス化ガス 天然ガス(改質)
    メタノール(改質)      
          メタノール(改質)
推進出力     〜30,000kW   〜2,000kW
      大出力向き   小出力向き
1stackの出力     500kW   100kW
(目標値)     (2,500kW)    
発電効率(LHV) 純水素/純酸素運用〜60% 35〜42%程度 45〜60% 45〜65% 改質ガスを用いた場合30〜40%
用途 宇宙船用電源 定置用電源 定置用電源 定置用電源 宇宙船・潜水艦電源、ポータブル電源
  海中作業船電源 分散設置型発電プラント、集中発電所 分散設置型発電プラント、集中発電所 分散設置型発電プラント、集中発電所  
  潜水艦電源       電気自動車用電源、家庭用・定置用電源
 
 燃料電池は停泊中や湾内航行中に周囲に与える、大気汚染、騒音、振動問題を軽減できる。大気中のエミッションについては、窒素酸化物(NOx)は他の内燃機関と比べ、1/1000程度となりかなり低い。硫黄酸化物(SOx)はゼロとなる。但し、これは燃料油中に硫黄分が含まれていないためであり、他の内燃機関でも同様な燃料の選択により実現可能である。二酸化炭素(CO2)は熱効率を高めることにより削減可能であるが、化石燃料を使う限りCO2は発生する。同燃料、同効率の場合、CO2排出量は同じとなる。
 騒音振動は他の内燃機関に比べかなり低いレベルにある。従来の船舶で問題となる停泊中や湾内航行中に近隣に与える騒音を低減できるため潜水艦や、気象観測船等に適用のメリットが大きい。
 燃料電池発電はシステムとして、ユニット、モジュール化が容易にできるため、建造面で搭載を容易にできるメリットがある。ユニットでシステムが完結するため上甲に置くことも可能である。上甲板に搭載する場合は、主機関とプロペラ軸を直結する必要がなくなるので船尾形状、居住区配置等の自由度が高まり、推進性能、建造効率を最優先に考慮し設計することが可能となり、船の推進性能を向上できるメリットもある。
 また、燃料電池は部分負荷での運転が容易で部分負荷の多い船舶への適用や、部分負荷の不得意な内燃機関と組合せることも可能である。特にガスタービンとのコジェネレーションシステムは双方の特徴を組合せできるメリットがあり、プラント全体の熱効率を非常に高いレベルまでもっていくことが可能である。
 表3.7.1−2に、舶用、自動車用、家庭用の用途別に燃料電池の要求条件をまとめた。
 
表3.7.1−2 用途別の要求条件の比較
  船舶 自動車 家庭用
効率(LHV)% 40〜50 30〜40 40
容積(m3/kW) 0.5 0.003 0.13
重量(kg/kW) 90 3 40
寿命(Hr) 40,000以上 5,000 40,000
負荷変動条件 厳しい(高出力領域) 厳しい(低出力領域) 緩やかまたは一定負荷
価格(万円/kW) 10以下 0.6以下 30
備考 数値は内航船試設計値容積・重量は推進モータを含んだ値 数値は2004年のDOE目標値 価格以外の数値は、米国NUVERA社の家庭用5kW PEFCの値
 
 寿命、信頼性では自動車用が5,000hrに対し舶用では40,000〜50,000hrとかなり長時間要求される。信頼性(寿命)についてはリン酸型のみ長期の稼動実績があり証明されている。寿命を証明する耐久試験は時間を短縮して試験できないため、実証に必要な相当の時間がかかることが厳しい課題となる。
 自動車用の使用条件は20〜30%負荷で運転される時間が多いが、舶用では85〜90%あたりでの連続運転が要求されるため、高負荷連続運転での信頼性の実証が必要とされる。
 燃料電池で使用可能かつ市場で容易に入手可能な液体化石燃料油は軽油が限度であり、重油は使用できない。LNG船のカーゴタンクからLNGの一部が気化して発生するBoil Off Gas(BOG)は使用可能である。従来、消費されている安価な粗悪燃料油の使用はできない。経済性の観点から、安価な新燃料油の開発と燃料電池のコストダウンは必要である。
 燃料電池を採用する場合は電気推進となり、機関室の軸系、補機の配置の自由度が上がる。
 また、燃料電池のメンテナンスを考慮すると燃料電池は機関室内に配置するより、デッキ上に配置したほうがよいと考えられる。今までの一般商船の機関室配置、船全体の配置が貨物のハンドリング、安全性、推進性能の観点から最適船型の再考が必要となる。
 ガスタービンとのコンバインドシステムにおいでは従来のディーゼル機関が持つものより高い熱効率を得ることが可能であり、省エネルギで地球環境にやさしい舶用推進機関として確立されるべき技術である。特に舶用として高出力をカバーし、高熱効率を達成するために、溶融炭酸塩型(MCFC)とガスタービンのコンバインドサイクルの検討がもっとも有効であると考える。
 一方で触媒の寿命(劣化)の延長と、1stack出力の向上によるユニット数削減等による信頼性向上の為の課題、使用燃料油としての軽油、灯油といった、世界中で容易に入手可能でハンドリングが容易な舶用に適した新燃料油の選択といった課題も残されている。燃料電池の1stackの小型化とコスト低減、安価な燃料油の使用を可能にすることは経済性の向上の観点からも必要課題と挙げられる。上記は主に燃料電池の開発メーカ中心の課題である。
 燃料電池の配置上の制約自由度から、推進性能を最優先にした新しい船型の検討は造船所に残された大きな課題である。
 舶用の高出力に対応した推進機関として燃料電池とガスタービンの組合せたプラントが考えられる。このプラントを検討する上で、燃料電池とガスタービンの出力配分はシステム全体の熱効率を最大化するために最適化が必要である。仮に燃料電池:ガスタービン=3:7とした場合、巡航時の出力は双方でまかない、騒音、振動に配慮が必要な港湾地域では燃料電池を使用することにより、熱効率、騒音、振動を考慮したプラントが成立する。
 燃料電池は自動車用として開発が進んでいる固体高分子型(PEFC)を利用する場合と、燃料電池の出力配分を高めるためには溶融炭酸塩型(MCFC)の適用が考えられる。改質器で発生した余剰水素をガスタービンに供給し、ガスタービンの効率が約5%UPできることが既存の研究で知らされている。
 燃料電池を応用した推進プラントでは、環境を重視すべき航路、主に港湾内など陸地に近いエリアと、グローバルは地球温暖化対策をメインとして推進効率最優先で航行する大洋航路で推進プラントのモードを切り替えて運転することも可能となる。例として港湾内では燃料電池を主に利用し、海上ではガスタービン機関で推進馬力を賄うといった形である。燃料電池とガスタービン機関の出力配分を最適化することによってプラント熱効率を高め、消費する化石燃料消費量を減らするごとで、ニ酸化炭素(CO2)を削減できる。
 
3.7.2 重点研究テーマ
 重点研究テーマとして燃料電池とガスタービン機関のコンバインドサイクルの研究が抽出された。
 最適な燃料電池種類の選択、ヒートバランス計算の最適化を含むコンバインドサイクルの設計、高い冗長性の確保、新船型の開発、機関室配置の最適化、船全体配置の最適化、メンテナンス計画の作成が主な作業項目と予想される。
 また、燃料電池を船舶に適用するには、触媒の寿命(劣化)の延長、1stack出力の向上、使用燃料油の種類の確保といった点も重要であり、調査・検討が必要である。
(1)研究開発テーマ名
・船舶への燃料電池・ガスタービンのコンバインドサイクルの適用研究
(2)研究範囲
・燃料電池とガスタービンとの最適コンバインドサイクルの検討
・燃料電池搭載船の新船型の開発
・機関室配置、船全体配置の検討
・低質油の利用限界の調査
・1スタック当たりの出力の向上に対する検討
・信頼性(寿命)の確認
・メンテナンスに関する検討
・船舶へ適用するための問題点の検討
・対象燃料油種に関する検討
(3)研究の効果
・新技術の獲得、省エネルギ、環境保全







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