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3.3 高速ディーゼル機関
3.3.1 重点研究テーマの選択に関して
 高速ディーゼル機関の主要な用途は高速船用主機関であるが、ガスタービンもジェットフォイルや高速カーフェリーのように大出力が求められるケースで採用されている。しかしながら、高速ディーゼル機関の軽量化、高出力化も著しく、依然、高速船の主機関として主要な地位を占めており、高速ディーゼル機関が対応できない大出力を要求される場合や特殊な用途以外を除けば、ガスタービンに主役の座を譲ることは予想できない。
 一方、高速化、高出力化と共に徹底した軽量化設計がなされてきている高速ディーゼル機関の重要な課題として、信頼性の確保や環境対策が挙げられている。今後も、高速・高出力化と小型軽量化を目的とした着実な技術開発が試みられると予想するが、同時に、信頼性、環境対策や操作性・保守性も製造者の重要な開発課題となっている。
 製造者に依存するこれらの課題以外には高速ディーゼル機関に求められる重点研究テーマは見いだせない。
 しかしながら、新燃料の採用に関しては、現状の軽油・重油に代わる新しい代替燃料の開発、供給体制などの基盤整備ができれば、大きな技術開発の転機となる可能性もある。市場規模や燃料供給基盤整備の制約から、陸上用機関に先行して舶用機関に技術開発を求められる状況は想定できないものの、前述の中速機関に取りあげたDME等の新燃料に対応する研究開発は環境保全対策として効果が期待されており、高速ディーゼル機関にも共通したテーマである。
 
3.3.2 重点研究テーマ
 中速ディーゼル機関と同様に「新燃料(GTL、DME)の採用」に関する研究が抽出された。詳細は中速ディーゼル機関の重点研究テーマを参照。
 
3.4 蒸気タービン機関
3.4.1 重点研究テーマの選択に関して
 蒸気タービンに関する技術開発テーマに関しては、主に熱効率の改善と運用上の課題解決が考えられる。
 熱効率の改善については各タービンメーカで実施されていることから、今回のテーマは運用上の課題である熟練したオペレータが必要(暖機状態、状態変化への対応は乗組員の経験により対処)で、経験による部分が大部分を占めるタービンの暖機システム等の自動化/システム化への取り組みについて重点研究テーマとして抽出された。
 船員が減少し、しかも高い質が望めなくなる現状を考えると熟練オペレータの経験を自動化/システム化していくことは大きな意味を持つものと考える。
 なお、運航に携わる外航日本人船員は昭和50年に5万人以上いたが、平成13年には3,500人まで減少し、代わりに外国人船員が増加して、運航担当者の量と質とも変化してきている。
 
3.4.2 重点研究テーマ
 蒸気タービン機関の重点研究テーマは以下のとおり。
(1)研究開発テーマ名
・舶用蒸気タービン主機関の自動暖機システムの研究開発
(2)研究範囲
・現状暖機システム、乗組員運転状況の調査
・暖機終了判断基準の設定(温度、時間、熱伸び量、音、振動)
・自動化装置検討(暖機蒸気量とプロペラ起動トルク)
(3)研究の効果
・蒸気タービンのオペレーションが容易となり信頼性の向上及び乗組員の負担減が図れる。
 
3.5 ガスタービン機関
3.5.1 重点研究テーマの選択に関して
 海外においては25MW級の出力で燃料消費率200g/KW・h以下を目標とした低燃費型大出力ガスタービンの開発プロジェクトが進行している(WR21 Intercooled Recuperated Marine Gas Turbine)。WR21はRolls社の航空エンジンRB211を基にした複雑な舶用ガスタービンで、中間冷却器と再生器を組み込むことによって中速ディーゼル機関に匹敵する燃費特性を持った低燃費ガスタービンである(図3.5.1−1参照)。
 
図3.5.1−1 WR21のサイクル線図
(拡大画面:28KB)
 
図3.5.1−2 スーパーマリンガスタービンのサイクル線図
(拡大画面:22KB)
 
 国内においては国土交通省の「次世代内航船プロジェクト」の一環として、1997年より国内5社で構成される技術研究組合が内航船、高速フェリーの推進機関としてスーパーマリンガスタービン(定格出力2,500kW)を開発している。
 開発目標は低NOx化(1g/kW・h)、熱効率向上(38〜40%、燃費率で220〜210g/kW・h)、A重油焚きの3点である。(図3.5.1−2参照)
 このように、舶用ガスタービンユニットとしての性能は今後も継続的に向上していくものと思われる。
 しかし、初期コストと運航コストが優先される一般商船分野への近未来における適用を考える場合に、これらユニットとしての性能向上だけでは限界があることも事実であり、他の機関とのコンバインドにより、ガスタービンの課題である燃費、初期コスト、保守性の面を補っていく方法が有効である。その場合の対象とする船種として、LNG船が適していると考えられる。
 LNG船ではカーゴタンクからの自然発生ガスの取扱いが容易であることから、従来から蒸気タービンプラントが使用されている。この自然発生ガスを蒸気タービンに比べて熱効率の良いガスタービンにて処理し推進に利用することで、トータルとしての燃費改善に繋がる。自然発生ガスだけでは推進力を確保することは困難な場合が多いので、不足分は何らかのコンバインド機関にて補う必要がある。油焚きディーゼルやガスタービンの廃熱を利用した蒸気タービン駆動の発電機タービン等が考えられるが、今のところ決定的なコンバインドサイクルは見出されていない。コンバインドさせる機関の選定には、総合熱効率、コスト、環境、保守等の面からの総合的な評価が必要となろう。また、電気推進をはじめ推進システムの検討も必要である。
 
3.5.2 重点研究テーマ
 ガスタービン機関の重点研究テーマは、「LNG船を対象とした最適コンバインドサイクルの確立」が抽出された。
 このテーマはコンバインドサイクル機関においても抽出されたので、詳細をコンバインドサイクル機関に記述した。
 
3.6 メタノール機関
 メタノールは主として天然ガスなどの資源から製造することができ、石油の代替燃料として適している。
 メタノールは含酸素燃料であるので、従来の石油燃料よりもNOxの排出が少ない利点があり(約2/3〜1/2となる)、生産技術、コスト流通機構のいずれの面でも代替燃料の要件を満たしている。
 メタノール機関は黒煙(すす)が出にくく、NOxが低減されるメリットはあるものの、発熱量が小さいため、燃料油タンクの容量は2倍程度必要となる。また、燃料油の性状からSOxの排出はない。
 メタノール機関の現状の課題として、
 
(1)着火、燃焼性能の改善 (2)燃料噴射系統の耐食性
(3)燃料ポンプの潤滑 (4)燃料タンクの容量増加(通常燃料の2倍)
(5)沸点が64.4℃への対策
 
の5項目が考えられる。
 しかし、実際に舶用機関として製造された実績があり、大きな問題ではないと考えられる。
 また、今後の課題として、
 
(1)メタノールの価格低減 (2)供給インフラの整備
 
の2項目が考えられる。
 ネックとなる技術課題は比較的少ない。
 メタノール機関の評価を考えると以下の3点となる。
(1)外航船・内航船への適応性
 メタノールの供給インフラの必要性、および燃料油タンクの容量から考えて、内航船への適用しか現実味がないと思われる。
(2)2010−15年の燃費向上(10%)の可能性
 不明。ただ、発熱量が小さいためボリュームの問題は残る。
(3)環境特性(低公害性)
 NOxが低く、黒煙が出にくいため、これらの低公害性のメリットがこの先数年でより強く注目されるようなら研究の価値がある。しかし、燃料電池の低公害性にまで及ぶものではない。
 上記(3)のようなメリットは考えられるが、同じメタノールであれば燃料電池の研究を進めた方がより現実的と思われる。
 メタノール機関に対する重点研究テーマは見出せないと判断された。







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